3. ポジティブ心理学における強みについて
本研究では,ポジティブ心理学における性格的な強みを扱う。ここで,ポジティブ心理学の理論と強みの位置付けについて整理しておく。ポジティブ心理学では,個人や組織,地域社会,国家の繁栄度の向上,具体的には well-being の構成要素である「PERMA」の向上による繁栄度の向上を目標としている(日本ポジティブ心理学協会,2021)。「PERMA」と略称される5つの要素は,P=Positive Emotion(ポジティブ感情),E=Engagement(エンゲージメント,活動への従事),R=Relationship(関係性),M=Meaning and Purpose(人生の意味や仕事の意義,および目的の追求),A=Achievement(何かを成し遂げること)とされ,Seligman(2011)により提唱されている。これらの5つの各構成要素の根底にあるのが,「強み」であり,ポジティブ心理学では,主要な研究対象の一つとなっている。ここから,強みとは,ポジティブ心理学の中核となる概念として,研究の発展が望まれる分野であると考えられる。
強みに関する国際的な調査を行っている団体である VIA-IS 研究所は,人間の強みを大きく6つの領域に分け,24 の性格の強みがあることを示している(Table1)。6つの領域は,「美徳」と呼ばれ,時代・文化・信条を超えて哲学者や神学者が重視してきた特性を指す(Ryan M.&Robert E. 2021 鈴木訳 2021)。それらは,知恵,勇気,人間性,正義,節制,超越性と分類されている。そして,各美徳にたどりつくためのルートとされるものが,「性格の強み」である。これらは,仕事・学校,地域社会,人間関係といった人生の重要な場面で発揮される。
ここから,Ryan M.&Robert E. (2021) 鈴木訳 (2021)に基づき,6つの領域と 24の性格的な強みを1つずつ説明していく。
第一の領域は,「知恵と知識」と呼ばれる。この領域には,知識を集め,活用するのに役立つ,5つの強みが該当する。1 つ目の,「創造性」とは,独創的で柔軟性がある,人と違う見方や仕方をすることを指す。2 つ目の「好奇心」は,興味をもつこと、新しい経験を進んで受け入れることを指す。3 つ目の「知的柔軟性」は,あらゆる角度から考えることを指す。4 つ目の「向学心」は,体系的に知識を増やすことを指す。そして,5 つ目の「大局観」は,全体像を捉えること,賢明な助言をすることを指す。
第二の領域は,「勇気」と呼ばれる。この領域には,自分の意志力で逆境に立ち向かうのに役立つ,4つの強みが該当する。6 つ目の「勇敢さ」は,脅威や挑戦に怯まない,正しいことをはっきりと主張するといったことを指す。7 つ目の「忍耐力」は,粘り強いこと,勤勉であること,始めたことはやりとげることを指す。8 つ目の「誠実さ」は,嘘偽りがないこと,自分に忠実であることを指す。9 つ目の「熱意」は,活力があること,元気であること,全力投球であることを指す。
第三の領域は,「人間性」と呼ばれる。この領域には,一対一の人間関係に役立つとされる,3つの強みが該当する。10 の「愛情」は,愛し愛されること,親密な人間関係を大切にすることを指す。11 の「親切心」は,思いやり,慈しみ,心からの温かさを示すことを意味する。12 の「社会的知性」は,自分や人の動機や感情への理解度が高い,人の心をくすぐるものを知っていることを意味する。
第四の領域は,「正義」と呼ばれる。この領域には,社会や集団活動で力になってくれる,3つの強みが該当する。13 の「チームワーク」は,グループの努力に貢献することを意味する。14 の「公平さ」は,正義の原則を守ること,すべての人に平等な機会を提供することを指す。15 の「リーダーシップ」は,グループをまとめて成功に導くことを意味する。
第五の領域は,「節制」と呼ばれる。この領域には,習慣を制御し,行き過ぎがないようにするのに役立つ,5つの強みが該当する。16 の「寛容さ」は,人の欠点を受け入れること,不当な扱いをされても気に留めないことを指す。17 の「慎み深さ」は,謙虚であること,黙って成果で示すことを意味する。18 の「思慮深さ」は,自分の選択に慎重であること,注意深いことを意味する。19 の「自律心」は,自制心があること,規律があることを意味する。
第六の領域は,「超越性」と呼ばれる。この領域には,広大な宇宙と繋がり,意味を与えてくれるのに役立つ,5つの強みが該当する。20 の「審美眼」は,美に対して畏敬の念と驚きを覚えること,人の技術と優秀さを称え,道徳的な美しさ(他者の善良な行為)に触れて自らも向上することを意味する。21 の「感謝」は,人生の良いことに感謝すること,恵まれていると感じることを意味する。22 の「希望」は,楽観的で前向きなこと,未来志向であることを意味する。23 の「ユーモア」は,遊び心があること,人に笑顔をもたらすことを意味する。24 の「スピリチュアリティ」は,宇宙の崇高な目的と意味について首尾一貫した信念があること,全体での自分の立ち位置を知っていることを意味する。
これらの強みを測定することを目的として,大竹・島井・池見・宇津木・Peterson・Seligman(2005)は,日本版生き方の原則調査票(VIA-IS)を作成した。これより,日本においても各個人の強み測定と,強みの活用に関心が集まっていることがうかがえる。
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