結果と考察


6.本来感,自己受容の変化の原因の検討

[活用感]
 活用感の記述を分析することから,強み活用による生徒たちの心情の変化を読み取っていく。

 活用感では,下位の生徒に,「普段からしていることだからほとんど何も感じない。(生徒5,慎み深さ,2日目)」,「何も感じなかった(生徒25,忍耐力,4・5日目)」のような特に心情の変化はなかったという記述や「話を聞くのは得意で、慣れているから、(略)。」(生徒5,慎み深さ,1日目),「いつも通りだった(生徒25,忍耐力,1日目)」,といった普段からやっていることでいつもと同じだという記述がみられた。今回の研究の強み介入により,あえて普段の強み活用に注目させてはいるが,そこにポジティブな感情はあまり感じられなかったことが読み取れる。これは,本来感,自己受容得点の上昇に至らなかった原因ではないかと推測する。

 しかし,反対に,下位の生徒のうち,小さなことや日常との変化に注目できている生徒もいる。「なにげない物でも良く見ると特徴や美しさをもっていて楽しかった。(生徒10,審美眼,2日目)」,「いつもと違うようにするのは楽しいと思った。(生徒56,創造性,2日目)」といった記述からは,普段は気に留めないようなことに注目したり,違うやり方を考えて工夫したりしていることが読み取れる。しかし,どうして本来感,自己受容得点が下降したのかという点について,注意バイアスが原因ではないかと考えられる。

 注意バイアスとは,ネガティブな刺激に対して,注意を向けやすい認知的特徴のことを指す(藤原・岩永,2000)。今回の強み介入における例としては,わずかであるかもしれないのに,うまく活用ができていなかったところに過剰に注意を向けてしまうということが挙げられる。下位の生徒においては,このように,自分がうまく強みを活用できなかったことに対して,過剰に注意を向けてしまったために,自己肯定感や達成感を得ることが難しかったのではないかと推測する。これより,下位の生徒へのアプローチとして,強みを活用できた出来事がたとえ小さなものだったとしても,認めていくことが重要になってくるのではないかと考えられる。この点については,強みを活用した本人に対して,仲間や教員などの周りの人からのフィードバックが大切になってくると考えられる。そういったアプローチを重ねていくことで,いずれ自分自身で,自分の強みの活用を肯定的に認めていけるようになっていくのではないだろうか。



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