4.第一志望への諦め
4-1.諦めの種類
第一志望でない大学に入学するという経験は,言い換えれば第一志望の大学に対する「諦め」の経験として捉えることができる。菅沼(2013)は,諦めを「自らの望み,もしくはそれを具体化した目標の達成が困難,または実現が不可能であるとの認識をきっかけとしたもので,その目標を放棄すること」と定義し,過去に何らかの諦め経験をした者を対象に調査を行った。その結果「諦め」は「諦めた内容」「諦めたきっかけ」「諦め方」から構成されることを明らかにした。しかし,菅沼(2013)の研究では,特定の諦め経験に絞っていない。そこで,本研究では,諦めた内容を大学受験時の第一志望に対する諦めと特定し検討する。
4-2.諦めのプロセス
菅沼(2015)は人による「諦め方」の違いに着目し,「割り切り型(諦めを行った後に,周囲からの尊重を得ることで実現欲求が低下する)」「再選択型(目標を諦める葛藤・自己整理を行う過程で実現欲求が低下し諦める)」「未練型(諦めた後に目標に対する未練が残る)」の3つに分類している。精神的健康との関連からプロセスを分類した点で示唆に富む研究だが,⑴それぞれのプロセスが分岐する要因の検討が不十分⑵諦めた内容が異なるとプロセスが異なる可能性があることが課題としてあげられる。
4-3.諦めが与える精神的健康への影響
諦めの効果については,「諦め」が精神症状や精神的健康にネガティブな影響を与える(川人・堀・大塚,2008;鈴木,2004)一方で,肯定的感情や精神的健康にポジティブな影響要因となる(浅野,2010;大橋,2009)ことも報告されている。諦めが与える影響は個人によって異なることが推察されるため,本研究では個人のエピソードに焦点をあてた質的研究を行い,ポジティブ,ネガティブの両面から「諦め」を捉える。
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