5.受験失敗に対する葛藤


5-1.第一志望に対する未練


大学入試は年齢制限や回数制限が存在せず,第一志望に受かるまで何度も受験することや,志望でない大学に通いながら再受験することが可能である。「令和3年度大学入学共通テストの志願者数等について」(独立行政法人大学入試センター,2020)によると,高等学校等卒業者(浪人)は81,007人(15.1%)であることから,浪人は受験生にとって進路選択をする上での選択肢として一般的に考えられているものといえる。しかし,浪人をせずに志望する大学とは異なる大学に進学する者も存在している。志望と異なる大学に行くことで第一志望に対する未練を持つことが考えられる。本来手に入るものが手に入らなくなった時,得ることができる可能性が残されていると諦めきれないという未練感情が生まれる(金谷・鈴木,2005)。つまり,不本意入学者は第一志望校に行く可能性を残しながら,第一志望ではない大学に行くことで諦めきれない未練を持ち続けることが推測される。また,諦めの3つの型の内,「未練型」は勿論だが「割り切り型」「再選択型」(菅沼,2015)においても適応に至るまでに未練感情を経験するのではないだろうか。そこで本研究では,不本意入学者が抱く未練に着目する。


5-2.受験失敗の反すう


不本意入学者は第一志望の大学に行けなかったという経験を繰り返し思い起こすことが考えられる。樋口(2011)は,反すうを「出来事にまつわる目的や感情などを,自分の意図ではコントロールできないまま,何度も長い間繰り返し考えること」と定義している。ネガティブな経験の反すうによって,出来事から距離を取って自己を振り返り,成長に向けた力に影響を与えること(樋口,2011)や,経験の意味づけを促し自己概念のポジティブな変化に影響を与えること(根岸,2019)が明らかになっている。つまり,ネガティブな経験の後に反すうを行うことで,否定的な経験に対し肯定的な意味付けに至るプロセスが存在する。不本意入学者においては,第一志望に行けないというネガティブな経験を反すうすることにより,経験に対する肯定的な意味づけが行われ,適応に至ると考えられる。そこで本研究では,不本意入学者が行った反すうに着目する。



back/next