4.達成目標理論について
暗黙の知能観が達成行動にどのように影響するかについては,達成目標理論が関係している。達成目標理論とは,個人の志向する達成目標の違いが課題への取り組み方,感情,認知,パフォーマンスの違いにどのような影響を及ぼすのか明らかにするものである。
そこで成果につながらなかった努力経験中に,協力者が達成したいと定めていた達成目標に着目する。どんな目標を掲げ努力した経験なのかを調査することによって,その努力経験をどのように捉えるのかと目標との関連を検討する。
初期の達成目標理論として,ドゥエックは,達成動機づけを,有能さを希求する動機づけと定義した。ゆえに,人は能力を立証したり,能力を獲得したりするために行動するとみなされていた。その概念のひとつとして,「暗黙の知能観」が用いられ,知能を統制不能で安定的な一つの実体だと捉える「固定理論」と,知能を統制可能で不安定で成長する,多数のスキルの集団と捉える「増大理論」の二つの知能観が想定される概念であった(上淵・大芦,2019)。
その後1990年以降の達成目標理論について,エイムズ&アーチャー(1987)は,達成目標を熟達目標と遂行目標の二つの目標に分類した。熟達目標とは,自己を比較対象とし,自己の能力を伸ばしたいという目標である。熟達目標は,学習や理解を通して自らの能力や技術を向上させることに焦点を当て,結果よりも学習のプロセスを重視する。一方,遂行目標は,他者のパフォーマンスや評価を比較対象とし,自らの能力に対して肯定的な評価を得たり,否定的な評価を避けたりする目標である。遂行目標では,自身のパフォーマンス結果や他者からの評価に関心が向けられ,過程よりも結果を重視する。
つまり, 熟達目標を掲げ,自らの能力や技術を向上させることに焦点を当てて努力をした経験の場合,成果につながらなかったとしても,努力したという過程に意義を見出すことができるのではないだろうか。成果につながらなかった努力経験中に掲げていた目標と,成果につながらなかった努力経験をどのように捉えるかには大きな関連があるのではないかと考えられる。
←back/next→