努力と特性的自己効力感について
成果につながらなかった努力経験であっても,一般的な価値観として,「努力は必ず報われる」「努力は裏切らない」という言葉が存在する。必ずしもすべての努力が報われるとは限らないわけだが,長期的な目でいつかは報われるといった期待を持つことで,成果につながらなかった場合でも,努力した過程に意義を見出せるのではないかと考えられる。そして,努力する過程に価値があると日常的に認知することによって,成果の有無にかかわらず,日々行う努力に専念ができるため,何事にも積極的に努力できる力を持ち,努力することを肯定的に捉えることができるのではないだろうか。このように考えることが,「できる」という感覚に繋がる。「できる」という感覚に自己効力感がある。自己効力感とは,「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまくできるか」という個人の確信のことである(バンデューラ,1977)。成果につながらなかった努力経験であっても,自己効力感の高い人は,失敗や困難にも立ち向かって挑戦することで,成果につながらなかった努力経験を肯定的に捉える傾向にあるのではないかと考えられる。
成田(1995)によると,自己効力感には二つの水準がある。一つは臨床・教育場面における研究でよく用いられている課題や場面に特異的に行動に影響を及ぼす自己効力感である。もう一つは,具体的な個々の課題や状況に依存せずに,より長期的に,より一般化した日常場面における行動に影響する自己効力感である。後者は自己効力感をある種の人格特性的な認知傾向とみなすことが可能となり,それを「特性的自己効力感」名づけた。特性的自己効力感は過去の成功と失敗の経験から形成され,個人差を持つことを指摘されている。同時に特性的自己効力感は,特定の状況だけでなく,未経験の新しい状況においても,適応的に処理できるという期待に影響を与えることが示唆されている。
過去の成功と失敗から形成され,個々の状況に依存せず,より一般化した日常場面における行動に影響する特性的自己効力感尺度を用いることで,普段の日常場面から個人が持つ努力観や,努力に対する肯定的な認識との関連を検討することができるのではないかと考える。成果につながらなかった過去の努力経験を大学生がどのように捉えるかと,その個人の持つ努力観が,特性的自己効力感と関連しているのかを検討する。
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