4.過剰適応傾向の高い人の課題
石津・安保(2008)によると,過剰適応傾向の高い人は,外的な適応は保つことが出来る一方で,内的な不適応があることが指摘されている。尾関(2011)では外的な適応を目指すことで却ってそれがストレスとなることが明らかにされており,また竹端(2015)はストレスが溜まることによって攻撃性が高まってしまい,不適切な怒り表出行動を取ってしまうということが明らかにしている。つまり,過剰適応傾向の高い人は,他人に認めてもらうことで自分の価値を見出すことが出来ると考えているため,「周りの人に嫌われたくない」と強く考えている。そのため相手を怒らせてしまったらどうしよう,相手に嫌われたらどうしようという強い不安を抱えており,相手に合わせる行動を多く取るため,その結果,周りと適応することは出来るが,周りに合わせるために自分の感情の表出を抑制してしまう。そのため,イライラしたことや納得のいかない怒りなどがどんどん自分の中に溜まっていき,ストレスを溜めこんでしまう。その慢性化したストレスを外へ出すことなく溜め続けることで,ストレスが界に達し,キレてしまったり,他者を攻撃してしまったりするなどの不適切な怒り表出行動を取ってしまうことがある。これは過剰適応傾向の高い人が抱える課題であると考える。
また自尊感情を他人の評価を基にした随伴性自尊感情で保っており,ありのままの自分を認め自分を尊重することが出来ず本来感が低いため,自尊感情が他者の評価によって左右されてしまう。そのため自尊感情を安定して保つことが難しい。つまり周りの人が自分に対して肯定的な評価をすれば自尊感情が高まるが,否定的な評価をした場合,自尊感情は急激に下がってしまう。このため,随伴性自尊感情だけが高く,自尊感情を随伴性自尊感情で保っていると,自尊感情が他者の評価に左右され不安定な状態となり,良い状態であるとは言い難い。安定した自尊感情を保つことが出来ないということも過剰適応傾向の高い人の課題であるだろう。
外的適応が内的適応つまり本来感の低下に影響を与えることから,過剰な外的適応行動を低減させること,または本来感を向上させることで過剰適応傾向を緩和させることが出来,課題の解決に向かうと考えることが出来るだろう。しかし,益子(2010)は前者の外的適応行動を低減させることは容易ではないと三つの理由から述べている。第一に,過剰適応行動には自己防衛の機能があると考えられるためである。益子(2008)は過剰適応傾向の高い人は過剰な外的適応行動を取って他者から承認されることで,本当は低い自尊感情に直面することを防衛している可能性を示唆している。このような防衛を失わせることはその人を脅かすものとなる可能性がある。第二に過剰な外的適応行動をやめることで,不利益を受ける可能性が見込まれるためである。過剰な外的適応行動は,そのような行動が推奨,時には強制される,立場が対等でない人間関係において特に必要になり,そのような状況にいる人にとってはやめにくいものであると考えられる。外的適応行動をやめることで周りとの関係が崩れ,人間関係において不利益が生じることが考えられるだろう。第三に石津・安保(2008)によると,過剰な外的適応行動には,所属環境における生活満足感を促進するという適応的な側面があると言われているためである。
以上のことを考えると,益子(2010)が述べるように,過剰な外的適応行動の変容を行うことは困難である。したがって,過剰な外的適応を維持し,随伴性自尊感情を保ちながら本来感を高める要因について検討を行う必要があると考えられる。そこで本研究では過剰適応傾向の高い人に対しても実践できるよう,外的適応行動を促進させず,随伴性自尊感情を低減させないようなアンガーマネジメントを実践し,その効果について検討することを目的とする。
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