5.アンガーマネジメント
5-1.従来のアンガーマネジメント
不適切な怒り感情表出の解消として,これまでアンガーマネジメントの実践について研究がなされてきた。日本アンガーマネジメント協会(2018)は,「怒らないことを目的とするのではなく,怒る必要のあることは上手に怒れ,怒る必要のないことは怒らなくて済むようになること」をアンガーマネジメントの目標としている。怒り感情が喚起された際に,衝動的に怒り感情を表出することを我慢するようなアンガーマネジメントプログラムが多く存在するが,アンガーマネジメントとは,怒りを我慢するために行うプログラムのことではなく,怒りをコントロールしながら上手く表出する方法を身に付けるためのプログラムのことである。
光前(2017)は,アンガーマネジメントプログラムを「怒りのパターンを知る」「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」「感情の伝え方を身に付ける」の五つの種類に分類している。この分類にあてはまるアンガーマネジメントの実践について多くの研究が行われている。例えば共感マップを用いて「思考のコントロール」に焦点を当てた研究や(高橋・佐藤,2021),怒りと上手く付き合うための「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」に注目した研究(河村・香川;2021,大森・本田;2020)などの研究が行われている。怒りやすい性格を持っており,怒りを感じるといきなり激怒してしまうという人や,普段から小さなことでイライラしやすいというような人も多く存在する。このような人に対しては,衝動的に不適切な怒り感情表出の行動を取らないようにするための,怒り感情をコントロールするアンガーマネジメントが有効であり,「衝動性をうまくコントロールできない」という点に着目した研究(久保・蔵永・樋口・深田,2009;大矢・櫻井・後藤,2014)も行われている。
このほかにも,小学校や中学校で教育プログラムの一環として「怒りの温度計」や「6秒ルール」などのアンガーマネジメント実践が行われている。いずれも怒りを衝動的に,あるいは過剰に表出しないために,自分自身をコントロールすることを目的とした実践研究であり,従来このような怒りをコントロールすることに焦点を当てたアンガーマネジメントが多くなされている。しかし怒る必要のあることを上手く怒るためのアンガーマネジメントに関してはまだ研究が進められていないという課題がある。
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