6.情動への評価
Campos,Campos,&Barrett(1989)によると,情動は自己や他者に自分の置かれている状況や状態を知らせる信号機能としての役割を持っており,Damasio(1994)によると,情動は意思決定を導くこと働きも持つ。ここから奥村(2018)は,情動は個人が環境に適応することを助ける機能を持っていると述べている。そして,各種情動がそれぞれの環境での個人の状況を自分や他者に知らせるシグナルとして働くことで,個人を適応に導くと述べている。また,酒井(2000)は,情動を経験することと情動を認識することは,2つの異なった現象であると述べている。つまり情動には適応のための信号としての機能があるが,情動を経験するだけでなくその情動を認識することが適応の役割のために必要であり,逆に情動を経験してもその情動を認識したり,言語化したりできない場合には不適応につながりやすい。そのため,従来情動を認識する能力や情動を知覚する,表現する等の能力が重要視され,研究が行われてきた(奥村,2008)。つまり,これまでは情動が適応のためのシグナルとして働くために必要な能力についての研究がなされてきた。
情動が適応のためのシグナルとして働くために,情動を認識することや言語化することが重要になるが,その情動を認識することや言語化することに対して,情動への評価が影響している。坂上・菅沼(2001)は,個人が情動に対して持っている意識的な態度や信念が,意識化されていない自動的な処理過程を方向づけることがあると述べている。奥村(2008)は自己の情動に対しどのような評価の傾向を持っているかは,情動を経験した際の情動の認識や言語化に影響を及ぼすと述べている。例えば,自分の怒りを大切なものであると肯定的に評価していれば,怒りを認識したり言語化して他者に伝えたりすることが促進されると考えられる。逆に怒りに対して良くないものだという否定的な評価をしていた場合,怒りを経験しても怒り感情を認識できなかったり,他者に伝えたりすることが出来ないだろう。そして特定の情動に対する評価は日によって肯定的であったり否定的であったりすることは少なく,人は特定の情動に対して一定の評価を持っているだろう。情動に対してどのような評価をするかという傾向には個人差があり,その差が適応に反映されることが考えられる。つまり情動に対する評価の傾向によって情動を認識することや言語化することに影響を及ぼし,適応にも影響を及ぼしているということである。言い換えると適応的な行動のための意思決定に情動がシグナルとして働く必要があり,シグナルとして働くためには情動が認識されたり言語化できたりすることが重要である。怒りに対して否定的な評価を持っている場合,怒り感情を認識し,言語化して相手に伝えるということは少ないだろう。そこで本研究では怒り感情に対して否定的な評価を減らすことが出来るようなアンガーマネジメント研究を行い効果の検証を行う。
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