4.先延ばしの先行要因


4−1. Big5性格特性

 Big5(ビッグ・ファイブ)とは,性格を表す特性5因子からなり,個性は5種類の次元で説明できることを示すものである。5つの次元とは,「外向性」,「協調性」,「勤勉性」,「神経症傾向」,「開放性」である。1980年代までの,キャッテルやオールポートらが提唱してきた「個人特性」,「共通特性」を基に,人間という動物の持つ「根源的かつ普遍的な性格の判定」を,1990年代にゴールドバーグが大規模大変量解析を基に5つの分類に種別したものである。現在,パーソナリティ理論の中では最も有力なものとして広く活用されている。そのため,Big5の概念が先延ばしを予測するものと考えられる。

 課題先延ばしの原因に性格特性が関係していると考えた古屋(2017)では,学業遅延傾向とBig5性格特性のうちの誠実性,経験への開放性,神経症傾向について検討され,学業遅延傾向に及ぼす誠実性の圧倒的な影響が示された。つまり,大学生における学業遅延傾向の個人差は,誠実性の程度の違いによるものであると言える。一方,経験への開放性と神経症傾向の総合効果は極めて弱い関連性しか認められていない。先行研究では外向性や協調性については検討されていないため本研究では,外向性や協調性も含めたBig5性格特性を用いて検討を進める。

4−2. 課題の特性との関連

 課題先延ばしの原因は当人の課題への興味が関係していると考えた藤田・岸田(2006)によると,課題先延ばしと「興味の低さによる他事優先」,「課題困難性の認知」の間に正の相関が見られ,大学生の学習課題先延ばし行動の原因として最も大きな影響をもたらすのは,課題に対する興味の低さにより他事を優先して行うことであると明らかにされている。また,課題が困難であることが分かっているほど先延ばしをしてしまうということも示されている(藤田ら,2006)。そして,課題の困難度そのものを扱った先行研究では,易しすぎず難しすぎもしない適度な困難度が最もパフォーマンスや努力を高めるとされている(Atkinson, 1958; Erez & Zidon, 1984)。そのため,課題困難性の認知は課題先延ばしの原因のひとつであることも明らかである(Atkinson, 1958; Erez & Zidon, 1984)。

 どのような課題が先延ばしを生起させるのかといった,課題の要因について,山本・菅(2019)は課題の難易度,内容が好きかどうか,課題が占める成績評価の割合それぞれ組み合わせた,計8パターンの質問を用意し検討を行い,神経質な人ほど遅延傾向が高いことが示された。また,田村(2021)によると,先延ばし傾向の強いものは,易しい課題よりも難しい課題で先延ばしをしがちであり,自身でもそれをよく自覚している一方で,先延ばし傾向の弱いものには,難易度の影響が見られないことが明らかとなっている。一口に「課題」と言っても様々であり,同じ人でも苦手とする課題は後回しにしてしまうが,得意とする課題は先延ばししない(逆もあり得る)などということもあるだろう。つまり,普段は先延ばしをする人でも課題の難易度や興味,成績への反映度によって先延ばししない場合や,普段は先延ばしをしない人でも課題の困難度や興味,成績への反映度によって先延ばしをしてしまう場合があるということである。そのため,課題先延ばしには同じ個人でも課題の条件によって課題着手日に差がみられると考えられる。

 そのため本研究では,課題の難易度,課題への興味の有無,課題が占める成績評価の割合の組み合わせを用いて,課題の特性と先延ばしの関連を検討する。
    



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