4.ソーシャルサポートについて
4−1.相互依存的関係におけるソーシャルサポート
恋愛関係という相互依存的な関係においては、情緒的な資源の交換が積極的になされて
いる(相馬・浦,2007)。人が他者と交換する様々な対人資源の中で、個人の精神的適応により大きな影響力を持つ資源としてソーシャルサポートが挙げられる(浦,1992)。
ソーシャルサポートとは、一般的に「特定個人が、特定の時点で、彼/彼女と関係を有している他者から得ている、有形/無形の諸種の援助」と定義される(南・稲葉・浦,1988)。
対人関係が良好であると、ストレスの悪影響を軽減できるという報告が多くあるように(宗方ら,1996)、ソーシャルサポートは、ストレス事態において重要な役割を担うとされている。その役割は、ストレスの認知的評価・対処理論 (Lazarus & Folkman,1984)に基づいて次のように説明されている。まず、ストレッサーの脅威性を評価する段階においては、他者からのサポート提供を期待できるという認知が脅威性を低下させる。次に、実際にストレッサーに対処する段階においては、先ほどのサポートの利用可能性の認知が対処を促進させ、サポートを受容することで、適応的な行動および安定した心理状態の維持が可能となる
(Cohen & Wills,1985)。
なお、各段階におけるサポートについては、前者をサポートの利用可能性を意味する知覚されたサポート、後者をサポートの実際の提供を意味する実行されたサポートと区別して捉えられている(磯谷・岡林,2012)。知覚されたサポートは、ソーシャルサポートを捉える次元として、最もメンタルヘルスに資すると考えられている(浦,2009)。そこで、本研
究においては、ソーシャルサポートの授受を測る尺度として、次元として知覚されたサポートを扱っている片受・大貫(2014)よる大学生用ソーシャルサポート尺度を採用することと
した。
4−2.ソーシャルサポートの互恵性
久田(1987)による、「個人を取り巻く重要な他者から得られる様々な形の援助は、その
人の健康維持・増進に重大な役割を果たす」という見解のように、従来の研究では、主に受
け手の側の視点に立って、他者から受け取るサポートと心身の健康との関連が検討されて
きた。しかし、実際の関係の中で、人はサポートの受け手でもあり、送り手にもなり得る。
このように、社会的相互作用を通じて交換される資源であるという考えのもと、サポート
の受け手と送り手の双方の視点に立ち、そのサポートの授受に焦点を当てた研究が徐々に
行われてきている(磯谷・岡林,2012)。中でも、他者から受け取るサポートと他者に提供
するサポートの程度の差が心身の健康に与える影響が検討されているものが多く見受けら
れる(谷口・福岡,2006)。
例えば、谷口・福岡(2006)では、受け取るサポートの量と提供するサポート量が一致し
ている状態を互恵状態としている。互恵性の操作については研究によって様々な方法がと
られているが、サポートのやりとりが互恵的であるほどポジティブな感情が高まり、心身の
健康が促進されるという点では一致している。
また、Rook(1987)の研究では友人とのサポートが互恵性であるほど、満足感が高まるこ
とが見出された。このようにサポートの受容と提供のバランスは、好ましい対人関係のあり
方を論じるにあたっても重要な視点であることが示されている(谷口・福岡,2006)。
対人関係をサポート授受のバランスの観点から論ずるにあたっては、関係の満足度や安
定性は報酬とコストに依存するという基本仮定が存在している衡平理論が適用されている
場合が多い。衡平理論を含む社会的交換理論は、恋愛関係の進展や崩壊の過程に関して有力な理論の一つである(奥田、1994)。
そこで、本研究で着目している過度に依存的な恋愛関係においても、社会的交換理論の観点から検討していく。そこでは、過度に依存されている側がより多くのサポートの提供を求
められ、実行に移していることが推測される。そのような関係においては、サポートの受容と提供のバランスが決して安定的であるとは言えないであろう。
このように、偶発的ないし意図的に不均衡状態が生じる恋愛関係(奥田,1994)であるが、
恋愛関係の中には不均衡状態であることを自認している事例が多く見られる。金政(2012)
の研究では、青年期の恋愛関係において、相手から受け取るサポートの認知が関係満足度に
対してポジティブな影響を及ぼし、さらに、関係満足度が精神的健康に影響するというプロ
セスが見出されている。したがって、サポートのやりとりが互恵的でないという認知も、当
人の関係満足度および精神的健康に影響を与えていることが考えられる。
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