4.レジリエンスについて


4−1.レジリエンスに関する先行研究

小塩・中谷・金子・長峰(2002)によると,これまでの研究により,レジリエンスを導く要因として個人の知能,洞察力などの個人的要因である認知的能力,ソーシャルサポート,親子関係などの環境要因である対人関係や,身体的健康が挙げられているという。ほかにも,レジリエンスと個人的要因についての関連を調べた研究では,愛着スタイルとの関連について,不安定な愛着スタイルはレジリエンスを低下させており,安定した愛着スタイルをもつ人は不安定な愛着スタイルを持つ人に比べ,レジリエンスが高い(斎藤,2019)こと,自尊心を高めることでレジリエンスを高めることができる(田中・兒玉,2010)ことが示されている。環境的要因においては,中学生では家族コミュニケーションがレジリエンスに正の影響を与える(三沢・長山・松田・石山,2015)ことが示されている。

その中で,平野(2010)はどの要因も後天的に身に付け,レジリエンスを高めることができるだろうかという疑問を感じ,様々なレジリエンス要因の中でも身に付けやすいもの,身に付けにくいものがあるのではないかと考えた。そこで,平野(2010)は身に付けにくい資質的な性質の強いレジリエンス要因と,身に付けやすい獲得的な性質の強いレジリエンス要因を反映することのできる二次元レジリエンス要因尺度(Bidimensional Resilience Scale, 以下BRSと表記)を作成した。


4ー2.「資質的レジリエンス要因」・「獲得的レジリエンス要因」について

平野(2010)は「気質」「性格」を測るCloningerのTCI日本語版(木島・斎藤・竹内・吉野・大野・加藤・北村,1996)を用いて,「気質」が影響を与える「資質的レジリエンス要因」,「性格」が影響を与える「獲得的レジリエンス要因」に分類した。資質的レジリエンス要因とは生まれもった先天的な性質,獲得的レジリエンス要因とは生まれてから発達的に身につけやすい後天的なレジリエンス要因のことを示す。資質的レジリエンス要因として「楽観性」,「統御力」,「行動力」,「社交性」の4要因が確認されている。「楽観性」は将来に対して不安を持たず,肯定的な期待を持って行動できる力,「統御力」はもともと不安が少なく,ネガティブな感情や生理的な体調に振り回されずにコントロールできる力,「行動力」は目標や意欲を,もともとの忍耐力によって努力して実行できる力,「社交性」はもともと見知らぬ他者に対する不安や恐怖が少なく,他者との関わりを好み,コミュニケーションを取れる力,とされている。これらのことから資質的レジリエンス要因とは,ストレスを避けられない状況においても感情を揺さぶられることなく,前向きに状況を打破することを目標に気持ちを切り替え,周囲のサポートを受けながら目標を達成することができる力であると考えられている。獲得的レジリエンス要因として「問題解決志向」,「自己理解」,「他者心理の理解」の3要因が確認されている。「問題解決志向」は状況を改善するために,問題を積極的に解決しようとする意志をもち,解決方法を学ぼうとする力,「自己理解」は自分の考えや,自分自身について理解・把握し,自分の特性に合った目標設定や行動ができる力,「他者心理の理解」は他者の心理を認知的に理解,もしくは受容する力とされている。これらのことから獲得的レジリエンス要因とは,ストレス状況下に自分の考えを把握し,どのように改善していくのかという意志を持ち,自分と他者の心理への理解を深め,問題解決へつなげて立ち直る力であると考えられている。

平野・梅原(2018)によると,資質的レジリエンス・獲得的レジリエンスともに年齢が上がるにつれて高くなる可能性があるという。獲得的レジリエンスだけでなく,資質的レジリエンスも高まるというのは,年齢を重ねる中で自分の資質に気づき,発揮できるようになることで高められるのだと考えられている。また,BRSを用いて様々な研究がされており,松木・斎藤(2016)では家族・友人の気分転換を促すサポートが獲得的レジリエンス要因の下位尺度である「問題解決志向」と関連し,家族からの受容的なサポート・友人からの気分転換を促すサポートが「他者心理の理解」と関連することが明らかになっている。このことから松木・斎藤(2016)はレジリエンスの向上に関して家族と友人では異なる役割があると考えている。また,家族からのサポートが獲得的レジリエンス要因に影響を与えていたということから,家族機能と獲得的レジリエンス要因について関連があるのではないかと考えられる。

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