3. 愛着スタイルについて
3−1. 愛着について
人は様々な人と関わり成長していく。多くの人が最初に親密な関係になるのは家族ではないだろうか。その中でも母親や父親などの養育者に懐き,後を追っている様子をよく見かける。反対に,養育者以外には人見知りをして泣く行動を見せる。このような子どもと養育者との間にある特別な強い結びつきをBowlby(1969)は「愛着」と表現した。
Bowlby(1969)は子どもと養育者の結びつきは,母親を「ある結果をもたらす対象」と考えて接近する行動の結果生まれるものであると考えた。子どもがおなかをすかせたと泣いたとき,養育者がミルクを与えるなどの子どもにとって良い結果をもたらすことで,子どもは養育者に接近することで自分の状況を改善してくれると考える。そして繰り返しているうちに養育者に近づくことが目的となると考えられている。他者を求める接近行動はどんなものでも「愛着行動」とされている。
3−2.内的作業モデルについて
人は生まれてからの養育者とのやり取りをもとに,自分とはどういった人間であるか,他者とはどういった存在なのかというイメージが作られていく。そのイメージを基に対人関係における考え,行動がなされる。このイメージのことを内的作業モデル(Internal Working Models;以下IWMと表記)といい,Bowlby(1969,1973,1980)によって提唱された。Bowlby(1969,1973,1980)によれば,IWMとは個人特有の対人関係を判断する枠組みであり,対人関係における出来事を解釈し解決することを助けるものであるとされている。IWMは乳児期の子どもが愛着対象に助けを求めたときの親の対応によってそれぞれ個人で異なるという。愛着対象が子どもの助けを求める声に対して受容的で情緒的なサポートを行ったときには,子どもは「自分は愛される,助けられるだけの価値がある存在」「愛着対象は自分を愛してくれる,助けてくれる存在」と内在化する。反対に,愛着対象が無視や拒絶的な対応を行うと,子どもは「自分は愛されないもの,助けられる価値のない存在」「愛着対象は自分を愛してくれないもの,助けてくれない存在」と内在化する。こうして自分とはどういった存在であるか(自己観),他者とはどういった存在であるか(他者観)が作られる。この作られたモデルは成長していく中であらゆる対人関係において使用される。
3ー3.愛着スタイルの測定方法
Ainsworth, Belhar, Waters & Wall (1978) は,乳児の愛着パターンをストレンジ・シチュエーション法を用いて,安定型,アンビバレント型,回避型の3タイプに分けた。そして,Hazan & Shaver(1987)はAinsworth, et al(1978)による3分類を参考にし,成人の愛着スタイルを測定する尺度を開発した。その後も3タイプに分けた愛着スタイルを測定する尺度が数多く作成されてきた。
その流れの中で注目されたのがBartholomew(1990)の青年期の愛着スタイルは4つに分類されるべきという主張である。Bartholomew(1990)はBowlby(1969,1973,1980)のIWMは自己観と他者観から成るという点に着目し,「2次元4分類モデル」を提唱した。このモデルは自己観,他者観の2つのモデルをポジティブな状態とネガティブな状態に分け,各状態の組み合わせから,安定型(自己観,他者観ともにポジティブ),拒絶型(自己観がポジティブ,他者観がネガティブ),とらわれ型(自己観がネガティブ,他者観がポジティブ),恐れ型(自己観,他者観ともにネガティブ)に分けるものとしていた(Figure 2)。Bartholomew & Horowitz(1991)は各タイプについて,安定型は「簡単に人に親しくなることができ,人に頼ることに抵抗はなく,頼られてもかまわない,他者に受け入れられないなどの心配をしたことがない」,拒絶型は「親密な関係などないほうが落ち着く,必要なのは独立し自立していることで,誰にも頼らないし頼られたくない」,とらわれ型は「心から人と親密な関係を持ちたいと思うが,自分が望むほど他者は思っていないのではないかと考えてしまう」,恐れ型は「親しくなりたいが人を強く信頼出来ず,人に心を許したら自分が傷つくのではないかと心配してしまう」と記述しているという。また,Bartholomew & Horowitz(1991)は4タイプの愛着スタイルそれぞれの特徴が書かれた文章を被験者に読ませ,その中から自分に最も合うものを1つ選択させることで愛着スタイルを測定する「関係尺度」(Relationship Questionnaire,以下QRと表記)を作成した。
このように様々な愛着スタイル測定尺度が作成されていた中で,Brennan, Clark, & Shaver(1998)はこれまでに開発された14の愛着スタイル尺度に基づき,「親密な対人関係体験尺度(Experiences in Close Relationships inventory, 以下ECRと表記)」を作成した。ECRはQRのように2次元4分類モデルに基づいており,妥当性と信頼性が確認されており多くの研究者がこの尺度を用いているという(中尾・加藤,2004)。また,これまでは恋人を対象とした場合の愛着スタイルを測定していたが,中尾・加藤(2004)は一般他者を対象とした場合の愛着スタイルを測定できるようにECRの一般他者版(ECR-GO)を作成した。ECR-GOは「見捨てられ不安(Anxiety)」,「親密性の回避(Avoidance)」の2因子から構成される。「見捨てられ不安」は自己観,「親密性の回避」は他者観を反映している。「見捨てられ不安」「親密性の回避」は高ければ高いほど自己観・他者観が低くなる。
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