本稿のまとめ


本研究では,家庭環境によって向上させることのできるレジリエンスや,家庭環境に関係なく向上させることのできるレジリエンスを明らかにするため,家族機能が愛着スタイルを介して資質的レジリエンス,獲得的レジリエンスにどのような影響を与えるかを検討してきた。

はじめに,家族機能と愛着スタイルの間に関連は見られなかった。家族の影響を大きく受ける乳児期から家族から離れ始める青年期にかけて愛着対象が変化し,IWMが変化していた可能性,IWMが形成される乳児期の家族関係を測ることができていなかったことが示唆された。

家族機能とレジリエンスについては,「凝集性」から「社交性」へ正の影響が見られた。凝集性が高い家庭の人は,他者との関わりを好み,コミュニケーションの取り方を理解する機会に恵まれているために,生まれつき持っているコミュニケーションスキルが磨かれると考えられる。また,社交性は資質的レジリエンス要因の一つであることから,コミュニケーション能力に優れている家庭に生まれ,社交性の高さが遺伝している可能性もあるであろう。さらに,「適応性」が「社交性」に負の影響を与えていた。家族が役割を全うしないことでコミュニケーションをとることが減ってしまい,子どもはコミュニケーションスキルの使い方を学ぶことができず,社交性が低くなってしまうと考えられた。

愛着スタイルと資質的レジリエンス要因については,まず「見捨てられ不安」「親密性の回避」が「楽観性」に負の影響を与えていた。このことから,見捨てられ不安・親密性の回避が高い場合には自分は見捨てられるのではないか,他者は信頼できないという不安から対人関係においてネガティブに考えてしまい,持っている楽観性よりもネガティブな感情が大きくなり,活かされない状況になってしまうことが示唆された。次に,「見捨てられ不安」が「統御力」へ負の影響を与えていた。見捨てられ不安が高いと自己観が低くなり,他者に見捨てられるのではないかという不安やネガティブな感情が強いため,もともと持っている統御力が揺らぎ,発揮されなくなると考えられた。さらに,「見捨てられ不安」が「行動力」へ負の影響を与えていた。このことから,見捨てられ不安が低いと自分に対する高い信頼が自分ならできるという自信につながり,最後まで努力することができることが示唆された。

愛着スタイルと獲得的レジリエンス要因については,「親密性の回避」が「問題解決志向」へ負の影響を与えていた。対人関係において問題が生じた場合,他者に対する不安が強いことで解決しようと動くことができず,問題解決志向が低くなってしまうのではないかと考えたが,問題解決志向の2つの項目は対人関係について尋ねるものではなかったためこの考察では不十分である。他の何かの因子を介して影響を与えている可能性も十分考えられた。

最後に,見捨てられ不安において中間群とバランス群の間に有意な差が見られた。中間群が最も見捨てられ不安得点が低いことが示された。しかし,明快な考察は出来なかったためこの点を明らかにすることが今後の検討課題の一つである。

これらのことから,大学生において家族の雰囲気やタイプは今後獲得しやすい獲得的レジリエンス要因に影響を与えることはないが,資質的レジリエンス要因である社交性は凝集性・適応性の影響を受けていることが明らかになった。さらに,自己観・他者観は資質的レジリエンス要因下位因子に様々な影響を与えており,もともと持っている力を発揮させたり,発揮できなくさせることが示唆された。

今後の課題

次に,本研究の今後の課題としては以下の点が考えられる。
1点目は,質問項目の多さについてである。本研究では質問項目が72項目と多く,回答者に負担がかかってしまっていた。尺度の質問項目をすべて使うのではなく,似たものを削り必要最低限の質問項目を用いることで回答者の負担を軽減し,有効回答者を増やすことができると考える。

2点目に,家族の雰囲気や状況を測るための尺度として立山(2006)の家族機能尺度のみを用いた点についてである。愛着スタイルとの関連を調べるためには,家族機能尺度だけでなく,「現在下宿をしているか」という家族と過ごす時間を尋ねる質問や,コミュニケーションをとる頻度などを尋ねる質問項目を追加する必要があった。追加したうえで分析を行うことで,より詳しく家族のタイプによって愛着スタイルはどのように異なるのかを検討することができると考えられる。また,家族とともに過ごしているかを調査することで,大学生における家族機能が愛着スタイルに与える影響について詳しく考察を行うことができたであろう。

3点目に,見捨てられ不安において家族機能の中間群が最も低い得点となった原因を判明できなかった点である。

4点目に,家族自己有用感を測らなかった点である。本研究ではレジリエンスへ影響を及ぼす要因として家族機能・愛着スタイルのみを測っていた。清水・相良(2019)は家族自己有用感がレジリエンスへ影響を与えていることを明らかにしており,本研究において家族自己有用感に家族機能が影響を及ぼしているかどうかを測ることで,家族関係がレジリエンスへ与える影響の過程をより詳しく明らかにすることができたであろう。

5点目に,家族機能を測る際に「どの時点の家族関係について回答するか」を指定していなかった点である。指定していなかったために本研究では,現時点で家族機能がすでに形成されているIWMにどのような影響を与えているのかが結果に表れた。しかし,家族機能とIWMの形成の関連を調べるためには,IWMが形成される乳幼児期の家族関係について尋ねる必要があった。しかし,大学生が乳幼児期の家族関係を思いだし,正確に回答することは難しいとも考えられる。

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