考察


3. 仮説3の検証

 仮説3については,一般感情尺度の各下位尺度(PA,NA,CA)のそれぞれの平均得点を従属変数,実験群と性別(参加者間)と事前事後(参加者内)を独立変数として,2要因分散分析を行った。

 “CA”において,群と事前事後の交互作用がみられ,単純主効果の結果,女性の場合における事前事後間,事後の場合における性別間に有意差が見られ,女性の方が男性より有意差が高いことが見いだされた。

 “NA”においては事前事後の主効果がみられ,実験群,統制群の両群とも2回目の平均値が低くなった。“NA”の事前事後の主効果については,2回目のディスカッションということで慣れの要因も考えられるが,平均値を比較してみると2回目の刺激を見た後のディスカッションでは女性はネガティブ感情が0.519点下がり,男性は0.278点下がった。その差は大きいとは言えないが,「かわいい」感情になることで,ネガティブ感情を抑制する効果があり,それは男性よりも女性にみられることが示唆される。

 群と事前事後の交互作用がみられた“CA”については,「かわいい」画像を見た後の女性の得点が,「かわいい」画像を見た後の男性の得点よりも高かった。よって,「かわいい」画像を見た後は,男性よりも女性の方が「ゆったりした」「平穏な」「くつろいだ」気持ちになることが確認された。これらの結果より,仮説は支持された。

 藤原・大坊(2010)は「穏やかな」などの安静は低覚醒のポジティブ感情であると捉えてポジティブ感情の対人会話場面への影響を検討している。本研究も同じように安静を「低覚醒のポジティブ感情」として捉えるとするならば,「かわいい」画像をみた後のディスカッションでは低覚醒ではあるがポジティブな感情になったと言える。 ネガティブ感情の抑制や安静得点向上の性差については,共感性の差が影響していると考えられる。

 入戸野(2015)は共感性が高いほど「かわいい」感情を抱きやすいと述べている。共感性が高いと,「かわいい」と思う対象の気持ちや状態を想像しやすくなり,相手を見守りたい,近づきたいという「かわいい」感情を抱きやすいと考えられている。加えて,その共感性は男性よりも女性の方が高い傾向にあるため,本研究にも性差が見られたと推察する。

 さらに,女性の方が「かわいい」に敏感であることも可能性として考えられる。

 Lobmaier(2010)は乳児の顔の写真を加工し,かわいさの差が25%,50%,75%,100%の4種類の顔を作成し,うち2つの顔を並べて提示した。大学生104名によりかわいい方の顔を選ばせた結果,男性よりも女性の方が正答率が高かった。

 以上の先行研究より,女性の方が男性よりも「かわいい」という感情が喚起されやすく,敏感であるため,刺激が男性よりも効き,ネガティブ感情の抑制や安静の得点の向上につながったと考えられる。



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