考察
2. 仮説2の検証
仮説2については,グループごとに会話満足度得点を算出した。また,会話満足度の各下位尺度(会話調整,会話集中,ぎこちない会話)のそれぞれの平均得点を従属変数,実験群と統制群(参加者間)と事前事後(参加者内)を独立変数とした2要因分散分析を行った。
グループごとの会話満足度得点を比較してみると,「かわいい」画像を見た後の会話満足度が20点以上上がったグループもあれば,10点以上のグループもあり,あまり変化がないグループも散見された。このことから「かわいい」刺激の効果は個人差があることが明らかになり,仮説2は一部の参加者に支持された。
「かわいい」画像を見なかった統制群は2回目に点数が上がっても,一番高くてG11の+17点であり,実験群のように20点以上高くなったグループはみられなかった。逆に2回目に会話満足度得点が下がったグループは,実験群でも見られたが(G1で−3点),統制群のG3は1回目の点数が低かったにもかかわらず,2回目にさらに6点減点した。よって,もともとの会話の満足感を下げない働きが「かわいい」感情にある可能性がある。
2要因分散分析では,“会話集中”に群要因の主効果,“ぎこちない会話”に事前事後の主効果がみられた。
会話集中の平均得点は,実験群の1回目は6.750点,2回目は6.950点であり,統制群の1回目は5.280点,2回目は5.560点であった。統制群の方が2回目の得点が上がっている(+0.28)ものの,もともとの得点が高い実験群も2回目でわずかだが得点が上がった(+0.20)。
この結果から,会話満足度のグループ比較と同じように,「かわいい」刺激を見ることで会話の集中を向上させるまではいかなくとも,もともとの会話中の高い集中状態を持続させる効果があるのではないかと考えられる。
会話集中因子は“相互に興味を持って会話に取り組んだ”“好意的に会話ができた”の2項目から構成されていた。「かわいい」感情は「近づきたい」「そばに置いておきたい」という接近動機を伴う感情である(入戸野,2014)。よって,「かわいい」画像を見て引き起こされた「かわいい」感情にある接近動機付けの特徴が,対人会話にも持ち越されたと推察する。
“ぎこちない会話”の事前事後の主効果について実験群,統制群の両群とも2回目で得点が高くなった。よって,練習の効果による慣れが要因として考えられる。2回目のアンケートの自由記述にて,「一回目のディスカッションのおかげで,みんなのしゃべるペースがなんとなく分かったので,合わせやすかった」,「1回目はどんな人が相手か分からず,少し緊張しながら会話をスタートさせたが,2回目は1度話している相手だったので1回目より落ち着いて会話をスタートすることができた」などの,1回目のディスカッションでメンバーの印象をつかめたことによる安心感などが記述されていた。
よって,ディスカッションの2回目で会話のぎこちなさが軽減したことは,「かわいい」感情による効果とは言い切れないだろう。
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