5.孤独感


 5-1.友人関係と孤独感

 青年期において,友人との関係は孤独感に大きな影響を与えることが示唆され,長きにわたって検討が行われている。工藤・西川(1983)は孤独感を「個人の社会的相互作用の願望レベルと達成レベルの間の不一致から生じる不快な個人的経験」と定義し,孤独感の性差については研究が様々だが,孤独感は人々の置かれている物理的環境条件や収入,年齢,職種を含む社会経済的地位などともに,夫婦の家庭内地位,地域活動への参加度などに反映される個人の心理的要因と深く関連するため,性差に関する一般的な結論を下すことは難しいと結論付けた。舛田・田・臺(2012)は,国際的に標準化されているUCLA孤独感尺度の日本語版を開発した。舛田ら(2012)によると,孤独感は青少年のメンタルヘルスや子育て世代の虐待,壮年期のアルコール依存症やうつなどと密接に関係しており,孤独感は「@個人の社会的関係の欠如に起因すること。A主観的な状態(体験)であること。B不快で苦痛を伴う体験であること。」という3つの見解を示した。
 榎本(1988)は青年期の孤独感を@親からの自立に伴う寂しさ,頼りなさA親に代わる愛着対象として同年代の親しい仲間を求める中での挫折経験による痛切な寂しさB仲間との間にある一体感を期待しては失敗するという繰り返しによる孤独感の3段階に分類できることを示し,自分をさらけ出すことのできる親密な関係が孤独感をいやしてくれると推測できるため,自己開示と孤独感は密接に関係していると考察した。 加賀(2021)は,大学生を対象に友人との付き合い方を「深い−浅い」「広い−狭い」の次元で4つに分類を行い,孤独感への影響について検討を行った。一次因子分析を行い,自分のありのままを出さない「防衛」,どの人とも同じように仲良く付き合いたいという「全方位」,互いに相違があっても自分に自信をもって付き合うことができる「自己自信」,傷ついても本当の姿を見せ,互いに理解しようとする「相互理解」の4つの因子を見出した。これらをもとに二次因子分析を行い,第T二次因子と第U二次因子の因子得点を算出し「深い−浅い」「広い−狭い」の観点から4つに分類した。男女ともに「広い−深い」友人関係を築いている群は「狭い−浅い」友人関係を築いている群と比べて孤独感が有意に低いと結論付けた。  
 このように対面状況では,表面的で希薄な友人関係は適応感に負の影響を与え,互いに心を許し何でも話せるような「深い」友人関係は孤独感を低減することが明らかにされている。しかし,SNS上の友人関係に焦点を当て,SNS上で知り合った匿名性の高い他者とどのような関係を築いているのか,それによって孤独感にどのような影響があるのかについて検討した研究は少ない。  本研究では,工藤・西川(1983)の定義に基づき,孤独感を「個人の社会的相互作用の願望レベルと達成レベルの間の不一致から生じる不快な個人的経験」と定義し,友人関係と孤独感の関連について検討を行う。


5-2.自己開示と孤独感

 青年期は孤独感を感じやすく,孤独感は青年期の基本的感情であり(落合,1974),自己開示と密接な関係があるとして様々な研究が行われている。落合(1974)は,孤独感を「自己(人間)の存在のし方に目をむけることを恐れ,孤独であることを避けている」つまり,一人になることを恐れ,ひとりであると感じられる状態を避けているようなネガティブな孤独感と,「自己(人間)の存在のし方に目をむけ,孤独であることを楽しみ,ひきうけている」つまり,一人でいることの方が安心を与えてくれるといった一人でいることへの愛好を表すポジティブな孤独感があることを示した。 
 丹羽・丸野(2010)は自己開示の深さと適応感の関連について検討を行った。適応感の指標として「自尊感情尺度」,「充実感尺度」,工藤・西川(1983)による「改訂版 UCLA 孤独感尺度」を使用した。その結果,自尊心,充実感が高く,孤独感の低い人ほど初対面の人に対して表面的なレベルT・Uの自己開示を行うが,深層的なレベルV・Wの自己開示には関係しないことが分かった。また,親しい友達に対しては深さのレベルに関係なく自己開示をより多く行っている人ほど孤独感を感じていないことが明らかになった。
 このように,対面状況において自己開示量が多く,互いに理解しあえると感じている者は孤独感が低減する。しかし,SNS上の友人に対する自己開示が孤独感に与える影響については検討が行われていないため,本研究ではSNS上の友人への自己開示の質および量に着目し,孤独感との関連について検討を行う。



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