3. 笑いとユーモアの効用
3−1. 笑いとユーモアの発生
笑うことを可能にする気分とはどのようなものだろう。Max(1922/1936)はこれを「遊びの気分」と呼んだ。遊びとは、「物事に対する通常の見方や価値から一旦距離をとり、別の見方や価値をそこに見出してみること」(木村,2020)である。
また、木村(2020)は、広義のユーモアと狭義のユーモアを区別する必要があると主張する。前者はMax(1936)が指摘した、遊びに基づいた楽しい状態のことである。一方後者は、「人間の生存意識をたかめ、健全な精神をささえる」、あるいは「われわれに均衡感覚を与える」(Chaplin,1992)ものであるとされる。これについて、強制収容所での生活を経験したFrankl(1947)が著書の中で、ユーモアは生存のための重要な「武器」であったことを明かしている。ユーモアは、理不尽な状況や死という避け難いものから距離をとりながら向き合うために必要であるといえる。
3−2. 笑いとユーモアの価値
笑いやユーモアについて、ストレスの緩和や抑うつ感の低減などの精神的健康に効果があることや、対人満足感やソーシャルサポートとの関連がみられることがわかっている。近年では、対人相互作用におけるユーモアに注目が集まっている。
雨宮(2016)は笑いとユーモアの7つの効果を提唱し、@笑いと結びついた身体的反応、Aポジティブな感情一般の効果とみなせるもの、B笑いとユーモアの遊びの側面に分類を試みた。@は身体調整を指し、痛みの緩和、緊張緩和、呼気と興奮が含まれる。Aには認知スパンの拡大、新奇な発想の促進、ネガティブ感情効果の緩和が含まれ、Bには問題と自我との距離化、気晴らし、親和性と親近感の醸成が含まれる。笑いやユーモアは、変えられない現実に直面したときや強いストレスにさらされたときに、その真価を発揮する(雨宮,2016)。前述した「問題と自我との距離化」の一つに、出来事を違った観点から捉える「視点転換ユーモア」(Lefcourt,2001)がある。逆境や困難の中で、ストレス刺激となる出来事の意味づけを変えることで、不安や恐怖などのネガティブ感情を弱め、ポジティブな見方を維持することができる。
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