3-1. 孤独感について


3−1. 孤独感について

 Russell et al.(1980)は孤独感を「人間関係の中で,こうありたいと願う願望が十分に満たされないようなときに感じる感情」と定義している.また,Perlman&Peplau(1981)は孤独感を「人との社会的ネットワークが,量的あるいは質的にある重要な点で不足しているときに生じる不快な経験」と定義している.青年期は,友人との関係や恋愛関係,親との関係など人間関係が大きく変化したり発展したりする時期であり,その人間関係の中でコミュニケーションがうまく取れないとき,孤独感を感じるようになる.落合(1982)は,孤独感を,「自分(または人間)が孤独(ひとり)だと感じること」と定義し,「自我の発見に伴って必然的に感じるようになるもの」であるとしている.また,落合(1985)は青年期の孤独感の類縁感情として,劣等感や憂鬱感,空虚感などを挙げている.青年期は,アイデンティティを模索する時期であり,自己理解を深めるために内省をしたり,他者と比べたりすることで孤独感やそれに付随する感情が生まれやすいと考えられる.

 孤独感が高い者は自尊心が低く,自己批判的である(工藤・西川,1983),孤独感と抑うつには高い相関がある(Brage,Campbell-Grossman & Dunkel,1995),自殺には孤独感が密接に関連している(Wentz, 1977)など孤独感とメンタルヘルスの関連ついて様々な先行研究が報告されている.一方で,明るく充実した孤独感もある(落合,1983)という報告もある.このことから,孤独感の否定的な側面だけではなく,肯定的な側面もあることがわかり,孤独感との向き合い方によって精神や行動に与える影響が変わってくると考えられる.

 孤独感に関する尺度に有名なものとしてRussell, Peplau & Cutrona(1980)の「改訂版 UCLA 孤独感尺度」と落合(1983)の「孤独感類型判別尺度」がある.「改訂版 UCLA 孤独感尺度」はRussell, Peplau & Ferguson(1978)の「UCLA 孤独感尺度」を改訂したものであり,工藤・西川(1983)は,「改訂版 UCLA 孤独感尺度の邦訳版」を作成している.その内容は,孤独感を一次元的な現象であると仮定したものであり,仲間や他者との親密性の欠如に関するものとなっている.一方,落合(1983)は,対他的次元と,対自的次元の二次元によって構成される「孤独感類型判別尺度」を作成し,孤独感を4つの類型に分けた.今回は,アイデンティティの確立の中で感じられる孤独感について研究したいため,対自的次元が含まれる落合(1983)の「孤独感類型判別尺度」を使用する.


3−2. 孤独感の類型について

 落合(1983)は,人間同士の理解・共感についての考えに関する次元と,自己の個別性の自覚に関するE次元により,孤独感をA型(人間同士理解・共感できると思っているが,個別性は自覚していない),B型(人間同士理解・共感できないと思っていて,個別性も自覚していない),C型(人間同士理解・共感できないと思っているが,個別性は自覚している),D型(人間同士理解・共感できると思っていて,個別性も自覚している)の4つに分けた.A型の孤独感は,「物理的に一人でいるときに感じる」「漠然とした何となく寂しいといった孤独感」である.B型の孤独感は,「心が通じない,わかってもらえないと感じるときの孤独感」であり,この孤独感を持つ者は,個別性を自覚しておらず,自分と同じ人がどこかにいると思い込んでいるので,常に理想的な理解者を求めている.C型の孤独感を持つ者は,裏切りや理解されないことを経験し,自分と他者が違うことに気付き,どうせ理解してもらえないと心を閉ざしているタイプである.D型の孤独感を持つ者は,自分と同じ人がいないことを理解し,互いに分かり合おうとするタイプであり,孤独感に対して充実している,成熟しているといったイメージを持つ.



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