4.自己受容・他者受容とユニークネス
4−1.自己受容・他者受容について
こ先行研究では,山岡(1993)によるユニークネス尺度は自尊心と関連性が高いことも示されているし,その本質としても自尊心を上げるような周囲との差を求めるとされている。しかし,今まで自尊心を下げてしまうような部分,つまり好ましくないと感じている側面に対する反応や考えに着目した先行研究はない。また,他者と個性や考えが衝突した場合,相手を受け容れることができるかも明らかになっていない。ユニークネスを追求するということはポジティブな差を求めていることを前提としているが,自己に関しても,他者に関しても,好ましくない部分についてはどのような反応をする傾向があるかが問題となる。また,このようなユニークネスを求める者が自分の思うユニークネスを維持できていないと感じることは当然好ましく無いことであろうが,このような場合にどのような反応をするだろうか。山岡(1989)によるユニークネスの剥奪場面(自分の思うユニークネスが否定されたと感じるような場面)に関する先行研究では,ユニークネス欲求の高い者がユニークネス剥奪場面に直面した場合,マイナスな情動的反応を示しやすく,その後の実験から非同調的反応も示しやすいことが分かっている。
例えば,「個性を持つ・伸ばす」等の意味で教育現場において児童生徒が自己のユニークネスを追求したり,ユニークネスを追求することが賞賛されたりすることもあるだろう。特に多様性が尊重される現代では,ユニークネス追求の概念と教育は関連していると言える話題であろう。しかし,伊藤(1995)が個人志向性について述べているように,関連性が予想できるユニークネスにも負の面が伴うことも考えられるだろう。自己のユニークネスを追求するあまり他者との協調性が欠けてしまう場面もあるかもしれないし,他者との差をつけることにこだわりすぎてありのままの自己や短所と言える部分を上手く受け容れられない場面もあるかもしれない。逆に,自己の個性やこだわりは意識していても,他者からの評価を気にしてしまい,上手く表現できない場合もあるかもしれない。このように,ユニークネスを追求することは人によっては様々な問題を抱えることになるかもしれないし,それは個人レベルでも他者との関わりのレベルでも考えられるもの者である。
伊藤(1991)は,自己受容を「ありのままの自己を歪めることなく認識し,自分自身として受け容れ好きになること」と定義づけた。飯長(2012)も自己受容とは自己の「好ましい部分も好ましくない部分も受け容れられること」としている。また,吉田・沢野・服部(1992)によると自己受容は他者受容とも不可分な関連性を持ち,沢崎(1985)は自己受容と他者受容の間には正の相関が見られることを指摘している(上村,2007)。他者受容とは「他者が自分にとって好ましい側面を持っている場合も,好ましくない側面を持っている場合も,否定や拒否をするのではなく,その人の特性としてありのままに受けいれることができるということ」と言える(山尾 吉田,2018)。自己のありのままを認める性質を指す自己受容と,自尊心を高めるような周囲との差異を重視するユニークネス欲求の間では,両者とも他者の意見には影響されにくいという性質があるという意味では関連性があると考えられる。一方で,自己受容ではどのような者といても優劣の感情が生じにくいとされていることに対して,ユニークネス欲求では他者とのポジティブな差を求めているという側面では,関連性は低いかもしれない。総合的に見ると,自己受容とユニークネス欲求とはどのような関連性があるのか,これを調べることにより,ユニークネス欲求の性質をさらに明らかにすることができるだろう。さらに,自己受容と他者受容の不可分性や,ユニークネス欲求高群は自己にとって好ましくない側面がある他者にどう反応するかが未だ明らかになっていないこと,そして上記のようにユニークネス追求と他者を受け容れることや協調性との共存に関して考えるためにも,他者受容を検討する意義があると言える。
4−2. ユニークネス欲求と自己受容・他者受容との関係
先行研究では,前述の個人志向性・社会志向性PNと自己受容・他者受容の関連性が上村(2007)により検討されている。ここでは,自己受容・他者受容が高いか低いかの4つの群に分けられ,それぞれの個人志向性・社会志向性PNの得点が比較された。その結果,自己受容が高く他者受容が低い者は個人志向性(PN共に)が高いが社会志向性(PN共に)は低く,自己受容が低く他者受容が高い者は個人志向性Pが弱く,社会志向性Nが強いという特徴が見られた。また,自己受容と他者受容がともに高い者は個人志向性P・社会志向性Pが共に高かった。
前述のように,本研究では「個別性主張型」は「こだわり型」よりも個人志向性Nは高く,「こだわり型」の方が,社会志向性Pが高いと予想している。また,両者ともユニークネス欲求低群よりは個人志向性Pが高いと予想している。上村(2007)により明らかにされた個人志向性・社会志向性PNと自己受容・他者受容との関連性を考慮すると,「こだわり型」は「個別主張型」よりも他者受容が高く,ユニークネス欲求低群より自己受容が高いと予想できる。ここで,「個別主張型」と「こだわり型」の間での自己受容の違いが問題となる。
上村(2007)による先行研究では,個人志向性・社会志向性PN得点を従属変数としているため,その得点の高低に基づいて自己受容・他者受容の高低は検討されていない。「個別性主張型」を考えると,周囲との類似性を積極的に避け,目立つことを重視しているため,自己受容における「他者との優劣を気にしない」性質は低く現れる可能性がある。一方で,「こだわり型」はどちらかと言えば目立つことを避け,「個別性主張型」と比較すれば自己を抑制する傾向があると考えられる。よって,両者の間では総合的に見て自己受容の有意差は見られないと予想する。
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