3. 個人志向性・社会志向性とユニークネス


3−1. 個人志向性・社会志向性PN尺度について

 ユニークネス欲求について上記のような4類型分けられることを前提にすれば,類型間に性質の違いがあると予想できる。今回は,最も特徴に差があると考えられる「個別生主張型」と「こだわり型」の違いに注目をする。「個別性主張型」の特徴としては,周囲との差を強調したり,目立ったりすることにより自己のユニークネスを確認する傾向が強いと考えられる。一方で,「こだわり型」は自己のユニークネスとなる「こだわり」を持っているが,それを積極的に周囲との差として表そうとする傾向は弱く,むしろその「こだわり」を理解してくれる者には認められることでユニークネスが承認される傾向があると考えられる。このように,ユニークネス欲求を考えるにおいては「周囲との類似性」という意味でどの程度,どのように他者の存在に影響されるか,または個人のみに基づいているかに着目することができる。

 伊藤(1993)は社会志向性・個人志向性という概念において,「志向性」を「自己概念を形成する際の基準の方向性」とした上で,社会志向性を「他者や社会との関係性に意識が向かい他者との共存や社会適応を志向する傾向」,個人志向性を「自立や個別化に向かいつつ個性を尊重し主体的に行動する特性を意味」するとしている。加齢と共に両者とも高まる傾向も示されており,伊藤(1993)これら2つの志向性のバランスが取れているということは健康な発達のプロセスに不可欠であるとした。ただし,例えば個人志向性の場合であれば,自己の個性を尊重しようとするプラスの側面もあると同時に,協調性の欠如や過度な個人主義などといった特徴,つまりマイナスの面も考えられる(伊藤1995)。同様に,社会志向性もマイナスな側面として他者への依存といった特徴も考えられる。こういった側面も検討することにより,単純な個人志向性・社会志向性の得点の高低だけでないより幅広い視野により「不適応や人格の未熟さ」も説明ができるとした(伊藤1995)。

 このような個人志向性と社会志向性における適応的な面も不適応的な面の個人差を測るため,個人志向性・社会志向性PN尺度が作成された。尺度は個人志向性尺度と社会志向性尺度の2つの下位尺度から成っており,それぞれポジティブな側面(P)とネガティブな側面(N)を測る質問項目が含まれている。


3−2. ユニークネス欲求と個人志向性・社会志向性PNの関連性

 ユニークネス欲求と個人に基づく規範や社会・他者に基づく規範の関連性は,過去の研究でも検討されている。山岡(2009)による研究では,ユニークネス欲求の高群と低群を比較した際,高群の方が個人規範による自己制御し,それを「遵守し個人規範に基づいて自己の価値を認識する傾向が強い」ことが明らかにされている。また,個人志向性・社会志向性P N尺度の個人志向性に関する項目と山岡(1994)によるユニークネス尺度項目の間に類似性が見られるものもいくつかある。例えば,個人志向性Pを図る項目の中には「自分の個性を生かそうと努めている」「自分が満足していれば人が何を言おうと気にならない」「小さなことでも自分ひとりでは決められない(逆転項目)」といったものがある。これらはユニークネス尺度で言えば「自分なりの価値観を持っている方である」「他人からの忠告はあまり重視しない」「自分のことは自分で決めないと気がすまない」と内容が関連していると言える。このことから,伊藤(1993)による個人志向性PNの側面とユニークネス欲求の間にも関連があると予想できる。

 ここで,今回主に違いを考えるユニークネス欲求2つの類型の特徴を考える。「個別性主張型」は個性を活かすことを重視していると同時に,周囲との違いを主張することも重視している。よって,自己実現的な性質を持つ個人志向性のP側面と人とぶつかってしまう傾向も含むエゴイズムや利己性と関連するN側面も,ユニークネス欲求低群や「こだわり型」と比較すると高いと予想できる。「こだわり型」は,やはり自己のこだわりや個性を活かすことは重視しているため個人志向性Pに関してはユニークネス欲求低群より高いが,「個別性主張型」よりも個性を周囲に主張する傾向は低いと考えられるため,比較的自己主張をする傾向が低く,周囲との調和を図ろうとする傾向は高いと考えられる。よって,「個別主張型」と比べれば個人志向性Nが低く,社会志向性Pは高いと予想する。社会志向性Nの項目は,「何かを決める場合,周りの人の合わせることが多い」「人の先頭に立つより,多少がまんしてでも相手に従うほうだ」など周囲を見て自己を抑える傾向の内容等が含まれている。これらを見ると,「個別性主張型」のように目立つことや個性を通すことをそれほど重視しない「こだわり型」の方が高い可能性が考えられる。



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