2.ユニークネス欲求について


2−1. 独自性欲求について

 Snyder & Fromkin(1980)は,人が持つ「ユニークな存在でありたい」という基本的な欲求について“独自性理論”として説明している。その上で「独自性欲求」には個人差があることを述べており,個人差を測るための尺度も作成している。またGanster, McCuddy, & Fromkin(1977)の研究では,独自性欲求尺度得点の高群と低群とでは,質問紙上の回答の類似度が高いというフィードバックに対し,低群は自尊感情の上昇が見られ,高群では自尊感情が下がったという結果が見られた。このように,独自性欲求の高い者は周囲との類似性を知覚した時にネガティブな感情を持ちやすいと考えられる。

 岡本(1985)はSnyder & Fromkin(1980)の独自性尺度の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を検討している。しかし,宮下(1991)は「独自性欲求」が一つの特性上の個人差というよりは,いくつかの類型に分けられるとしている。具体的には,他者の存在を気にするかしないか,自己を積極的に表出するかしないか,の2次元から考えた。結果として,他者の存在を気にせず自己は積極的に表出しない者は「わが道の独自性欲求」,他者の存在を気にしながら自己を積極的に表出しない者を「抑圧型の独自性欲求」,他者を気にしながら自己を積極的に表出する者を「自己顕示型の独自性欲求」,そして他者を気にせず自己を積極的に表出する者を「自己中心型の独自性欲求」と命名し,このような4種類に分けられることが明らかになった。


2−2. 山岡(1993)のユニークネス尺度について

 前述の岡本(1985)に対して,山岡(1993)は独自性欲求尺度に対して違った視点を示している。山岡(1993)はSnyder & Fromkin(1980)の言う独自性欲求を「自尊感情を高めるようなポジティブな側面における他者との差異の認識に対する欲求」(下線は筆者)と定義した上で,Snyderらは独自性欲求の高い者には達成欲求の強さや自尊感情の高さといった特徴があると考えていたことを確認した。しかし,山岡(1993)によると岡本(1985)の日本語版独自性欲求尺度を利用した予備調査においては,本尺度と自尊心尺度とは一貫した相関が見られなかった。また,尺度を構成する因子の中で正の相関が見られたのは1つのみであった。つまり,既存の独自性欲求尺度においては彼らが当初主張していたほど独自性欲求と自尊心が結びついていなかったといえる。当時の独自性欲求尺度は他者との相違や差異が自身の自尊心向上に結びつくような欲求というよりも,『社会的受容を拒否して他者との差異を強調する者』」(山岡,1993)に近いという考えが示された。元々の尺度で測られていたものは,ポジティブな側面よりは意図的に周囲から目立ち,非難されるような行動を起こすリスクを取りやすいという意味合いが強かったと解釈できる。そこで,山岡は,ユニークネスの本来の定義である「ポジティブな他者との差異への欲求」の強さを反映した「ユニークネス尺度」を新たに作成した。


2−3. ユニークネス欲求と時代背景

 このように,現状では,独自性もしくはユニークネスについて岡本(1985)と山岡(1993)による尺度が作成されている。しかし,両尺度とも作成されてから30年以上の時間が経っており,それ以降新たな尺度の作成等の研究はない。現在と30年前とを比べると,一世代違うわけで,世代間で時代背景も異なり,一般的な価値観やいろいろなものに対する意識が異なってきていることが推測される。例えば,現代では“ダイバーシティ(多様性)”や“個性を活かすこと”に対する意識も高まっていると言える。そのような背景のなかで,特に若者世代では “ユニークネス”への一般的な評価や,その具体的な概念も,以前に比べて大きく変化している可能性がある。

 また,上記の2つの研究以降,特に若者世代におけるSNS利用の普及という大きな時代の変化があったと言える。これに関連した現代の特徴としては流行の変化が以前より激しくなる傾向や,リアルの空間以外で自己を表現したり特定のこだわりや個性で他者と繋がったりすることなどが考えられる。尺度に関する研究では,宮下(2001)による類型化でも「他者の存在を気にすること」と「自己を主張する」という視点が重視されていたことや,最新のユニークネス尺度においても周囲と「違うことがしたい」という意識がうかがえる項目が見られる。このようなことから,ユニークネス欲求に関して考える際は周囲からの評価や「どう見られているか」という意識,ユニークネスをいかに表に出すかという問題も考えることになる。SNSは現代,自身を何らかの形で表現したり,SNS上で繋がっている者にどう見られるかを気にしたりすることもよく見られる現象であるため,本研究でもこの点も考慮をする。


2−4. 独自性欲求・ユニークネスの類型化

 こところで,山岡のユニークネス尺度項目には「自分のことは自分で決めないと気が済まない」「自分なりの価値観を持っている方である」のように,自律性を強調する傾向と,「自分とよく似た服を着ている人を見ると不快になる」「誰も持っていない珍しいものを見ると思わず欲しくなる」のように,周囲との類似性を積極的に避ける傾向の視点に分けられると考えられる。

 ユニークネス欲求が高い者は必ずしもこれらの側面から測られる傾向が共に強いとも限らないし,岡本(1985)の他者の存在を気にするか気にしないかで類型化されている例を考慮すると,山岡のユニークネス尺度も類型化が可能であると考えられる。そして,岡本(1985)の研究においては4つの類型の間で「創造的構え」という点に着目した特徴の違いが見られたが,山岡(1985)の尺度を類型化した際にも,類型間で何らかの傾向や性質の違いが見られると予想できる。具体的な「ユニークネス欲求が強い者の類型」を考えてみると,例えばユニークネスを積極的に周囲に顕示したりすることで目立ち,それによりユニークネス欲求が満たされる場合と,自分のユニークネスであると認識しているような価値観や趣味,こだわりなどを自分の中で持ったり,それを理解してもらえる他者と共有し合ったりすることでユニークネスが承認され,ユニークネス欲求が満たされる場合で分けられると考える。「周囲との違いを強調したいから,あえてみんながしていることとは違うことをしたい」という考えも「自分らしさや自分独自のこだわり大切にしたいから,周りとは違っても自分が良いと思うことをしたい」という考えも「ユニークネス」であるといえる。当然,二つが両立することも考えられるが,片方だけの考えが強い個人もいると考えられる。

このような考えに基づいてユニークネス欲求の類型化ができることを考えると,本研究でも岡本(1985)が利用したような2指標4時限のクロス図で表せる。今回は,ユニークネス尺度の項目内容から「ユニークネス主張傾向」(自己のユニークネスを周囲に知ってもらえるよう積極的に表出すること)「類似性回避傾向」(“周りと違う”状態をどれだけ重視するか)の2指標で考える。

結果として,4類型に分けることができると予想する。例えば,両者とも高い者は周りと違っていたいと考え,具体的なユニークネスも周囲に認識してもらう必要性を感じるという特徴から「個別性主張型」という類型が現れると予想する。反対に,周囲との違いも,周囲からユニークネスを見てもらうこともそれほど気にしない者は自分自身のこだわりのみを重視すると考えられるため「こだわり型」と呼ぶことができる。周りと違っていたいが具体的なこだわりや個性はあまり意識したり表したりしないものも存在すると考えられるため,「同調回避型」と呼び,周囲と違って痛いとは特に思わないがこだわりや個性は見てもらいたい者は「長所重視型」と呼ぶこととする。

以上をまとめると,時代背景の変化や,ユニークネス欲求を「ユニークネス表出傾向」と「類似性回避傾向」で考えられることから,山岡(1993)による尺度項目に新たに項目を付け加えた上でユニークネス欲求が強い者を上記の4類型に分けられると仮説づけた上で本研究を進めて行く。

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