考察


4. 仮想的親近感について

 本研究では,動画配信の配信者に対して,配信者に対するコミットメントと同時に,ある種の親近感を持っているのではないかと考えて,この点について検討した。本研究では,この親近感のことを「仮想的親近感」と名付けて検討した。直接的に会うこともなく面識もない状態ではあるが,コメントなどのやりとりを通して親近感を感じることはあり得る。SNS上でも同様のことが言えよう。相手がどんな人物かもわからないままに,親近感を感じて交流を続ける事例はたくさんある。北村・佐々木・河井 (2016)はツイッター(現X)について交流相手に既知の友人の少ない「弱いつながりのSNS」であると称した。その上で「新しい異性との出会いを見つけるため」「新しい友人・知人を作るため」という項目が上位にある「オンライン人気獲得動機」と既にいる友人と交流する「既存社交」について「平均的にみたときのツイッターの利用動機は情報ニーズによって支えられている傾向が強いとはいえ,対人交流もその目的の主なものの一つであり,無視できる要素ではない」と述べた。

 仮説4の仮想的親近感について調べるため,橋(1999)での規範的コミットメントと継続的コミットメントを総合したといえる「連帯感・忠誠心」が他の尺度より低いか調べるために,コミットメント尺度の情緒低愛着と連帯感・忠誠心の合成得点を比較した。その結果,情緒的愛着の平均値が2.571,連帯感・忠誠心の平均値が1.390であることを踏まえると,水越(2007)のネットコミュニティは「制約条件が一旦弱まっている」ため,「存続が難しく,うまいマネージメントなくしては存続できない可能性が高い」というのはおおむね支持されたといえるだろう。

 調査2のインタビュー調査のコミットメント尺度を踏まえた質問でも,視聴期間やコメント経験が多いほど規範意識もとい同調の感覚が高いというわけでは無く,時期によって変わったりした。継続的コミットメントについても,継続していきたいと考える場合もそうでない場合も,当該動画を「見れるときに見る」というスタンスであり,それが継続して視聴できる理由のようであった。

 また,インタビュー調査では,その動画配信者との関係性の認識については,「アイドルとファン」「アイドルよりは近い存在だけどコンテンツとして割り切っている」と回答していたり,回答者の配信者に対する熟知性については,「全ては知らないで,アイドルとしてはまあまあ。ファンの中でチェックするってなるとなかなか知っている方」「昔から知っている人よりは知らないなと思うんですけど,でも最近のことだとだいぶ分かってきてる」という回答が得られた。



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