考察
2. やりとりと心理的距離の関係について
仮説2について,コメント経験あり群とコメント経験なし群に分けてt検定を行った。その結果,下位尺度「不信」において「コメントあり」の方が得点が低いという有意傾向が見られた。また配信ジャンルによる違いについて1要因分散分析を行った結果,「趣味」「生活実用」ジャンルの方が「不信」の得点が低く5%水準で有意であった。
下位尺度の「不信」は「配信者は自分勝手で自己中心的だと思う。」といった項目から構成されており,得点が大きいほうが配信者に不信感を抱いているといえる。「コメントあり」の視聴者の方が「コメントなし」より配信者に不信感を抱いていないという点について,「不信」は「安心」や「頼もしさ」より配信者の目にどう映るか,自分にとってネガティブな反応がされないかへのリスクの有無に重要な意味を持っているからではないかと考察した。 配信ジャンルについては「雑談」「ゲーム実況」ジャンルが「不信」得点が高く,「生活実用」「趣味」ジャンルが低かったため,同じ趣味といった共通項があり,それについての話となるので,それに沿った考え方が似てくること,逆に「雑談」「ゲーム実況」ジャンルでは動画の内容上,話す内容が多岐に渡ることで,反対意見が出る可能性が上がったり,エンタメとして配信者同士で茶化しあうことやドッキリ企画などが度を過ぎることがあり,そういうことが増えると,不信感が高まるのではないかと考察した。
しかし,そのほかの下位尺度では有意な差はなかった。その上,有意差はなかったとはいえ「安心感」に関してはコメントあり群よりコメントなし群の方が得点が高い結果となった。これは,質問紙調査ではコメントありと回答した人は全員コメント回数が1〜数回であったことが原因であったと考えられる。今回の調査の回答者のなかに頻繁にコメントを書き込むといった人がおらず,コメントあり群であっても,あまりやりとりを通した関係性が構築される前の状態であるか,数回のコメントを通して何らかの理由でコメントを続けることはとくになかった,すなわち配信者と関係を構築しようとは思っていない人が多かったと考えられる。それに「過去にコメントしたことがある」人(=今はコメントはしていない)のデータも多く入っていると考えられる。
配信(生配信)か動画(収録動画)かについて,コメントあり群とコメント無し群の違いについて,いずれの尺度においても有意差が得られなかった。配信(生配信)というリアルタイムでのやりとり(配信者と視聴者間でのリアルタイムでのやりとり)ができるか,動画投稿後にしか残すことのできない収録された動画投稿上でのコメントかの違いで,視聴者が「配信者が見てくれている」という期待を持ちやすいかどうかを検討するために行ったが,こちらも,そもそもコメントをしない視聴者が多かったことで結果に表れなかったと考えられる。
調査2のインタビュー調査で,動画配信者に対する親近感について尋ねたところ,2人の回答者は2人とも「ある」と回答した。理由として,ライブ性やコメント,配信者の考え方,が挙げられた。これは前納・岩佐・内田(2012)の,深夜ラジオにおいては空間的にはバラバラでも,同じ時間帯に同じ番組を視聴しているライブ感覚や,リスナーからの投稿はがきで同世代の声が電波に乗るシステムで,そこでの一体感が高まったことと同様のことが言えるであろう。
しかしSTS尺度に則った質問への回答に関しては,コメント経験が数回の人と毎回コメントを行っている人とでは,やりとりの有無によってその後のコメント行動や印象に違いがあったと考えられる。
これまでにコメントした経験が数回と回答した人は,登録者の多さも相まって配信者のコメント反応の有無について(おそらく自分含めた)ファン全体への返答のみであった。その後,自分のコメント行動の変化は特になく,STS尺度に則った質問でも「ファン大多数に向けてではあるが個人特定には無い」という考えが軸にあった。
それに対し,もう一人の毎回コメントをしていると回答した人が視聴している動画の配信者からは,回答者のコメントに対する反応も数回あると回答した。そして返答されてから自分のコメント行動が増えたと回答している。STS尺度に則った質問でもおおむね肯定の反応が得られた。
←back/next→