3.コミュニケーションの双方向性


3−1.動画配信上の自己開示について

 本研究では視聴者の配信者に対する親近感について検討する。

相手に対して親近感を持つには,両者の双方向の自己開示が重要だが,ネット上の動画においては,特に配信者は自己開示的な要素が多い。たとえば,他の動画の裏話や休日の出来事に始まり,自身の恋愛観や過去の自分が辛かった時期の話をすることがある。よって,配信者と視聴者のコミュニケーションを検討するにあたって,自己開示の重要性が高いと言える。視聴者は配信者の個人的な情報を知れば知る程,視聴者は配信者への親近感が向上すると考えられる。そこでこれから自己開示について言及していく。

V.J.ダーレガ(1999)によると自己開示は,ある人が他の人に対して,自分と意見が共通しているとわかっているか,他の魅力を感じている際に個人の情報,自分の感情や意見を話すことである。関係している当人同士で進行する社会的相互作用の一環であり,個人が開示する内容は,相手との会話や出来事(過去,現在,予期できる未来)と,互いに二人の関係に対して持っている感情によって決められる。

 具体的には,懇意でなかった人と何回か真面目な話をし,個人的なことを開示すると,相手は友達になったと判断し,大量に個人情報を開示する。逆に相手からの開示内容がふさわしくないと感じたり相手を好きにならなければ,好意的に反応せず今後の関係発展も抑えてしまう,というように自己開示と関係性は直結していると言える。

 動画配信サービスにおいては,他のメディアよりも自己開示の双方向性が高いと言える。前述のとおり配信者の自己開示が多いのは勿論だが,視聴者のコメントを配信者も読むことができるため,視聴者にも自己開示の機会があると言えるであろう。


3−2. 動画配信上の配信者の自己開示について

  ネット上の動画配信者の多くは,動画や配信の際に,自分の顔や名前,居住地といった情報は公開せず,反対に,親しい友人にしか話さないような個人的な情報を開示している。たとえば配信者自身がゲーム実況などの感想を言う際や雑談を通して,自分の個人的な思い出や趣味嗜好のような友達にしか話さないことや,自己の価値観や個人的な経験といった仲のいい友達にもあまり話さないことを話すことがある。以下の文章は,配信者の1人である壱百満天原(2022)の過去についての発言を文字に起こしたものである。

学校引きこもり時代に学校行かずに不登校で引きこもりで何やってかってポエム書くことと夢小説書いて…ポエム夢小説書いてインターネットやっててツイッターやってました。いや黒歴史ですよ。でももうなんか黒歴史も乗り越えちゃった。(中略)それを見て「いや恥ずかしい」って思うけど同時に可愛いとも思うんですよね。


 リアルタイムで動画を配信する者は,一方的に長時間話し続けなければならない仕事であることから,そもそも自己開示的な話以外,話すことがないということもあるかもしれない。しかしそれ以上に,配信者側からは視聴者の顔が見えていないため,何千人にも届いているという実感がないまま発信しているのではないかと推察できる。また,配信者自身が匿名性を含んだ「キャラ」を作っている可能性も考えられ,そのキャラを通した人間像で配信していることも自己開示のハードルを下げているのではないかと考えられる。佐藤・吉田(2008)では,自己の匿名性は対人的な相互作用の不安感を低減させる傾向を示していた。個人が特定されるのではないかという不安がなく,安心,リラックスして相互作用を行うことが可能であると述べている。よって,匿名性が保証され,個人情報が伝わることがない状況であれば,むしろ個人的な情報を発信しやすく感じていると考えられる。



back/next