2.宿題に関する心理学的研究
2. 宿題に関する心理学的研究
広辞苑(第2版)によると,「宿題」とは,学校で学習したことの復習または予習のため家庭で行う課題のことである。その種類は様々で,小学校で出される宿題としては,漢字ドリルや計算ドリル,手作りのプリントや音読,日記などがある。他に,夏休みや冬休みといった長期休みに出されるポスター作成や読書感想文なども宿題の一部である。しかし,文部科学省が定めた学習指導要領に「宿題」という項目は含まれておらず,宿題は「家庭学習を視野に入れた指導」・「総合的な学習の時間」の一環として扱われている。一定の基準はなく,その指導内容や実態は各校,各教諭の裁量に任せており,複雑多岐に渡っているため,子どもたちの学習に対する宿題の効果は一定でなく,未知数である(太田,2019)。また,デジタル化や一人一台タブレットが導入されたことにより,紙ベースに留まらずデジタル上の宿題も普及しつつあり,宿題が持つ意味は広がりつつあるのではないだろうか。
宿題は多くの学校現場で日常的に取り組まれている学習方法である。住田(2022)は宿題のメリットとして,授業時間外での学習時間が増えることによる即時的な学力の向上や,将来的に自立した学習態度や学習習慣が身につくことに加えて,学習に対するスキルを育てることなどを挙げている。一方で,学習に対する動機づけや興味を阻害したり,丸写しなどの行為を助長したりするなど,宿題にはデメリットもある(太田,2019)。このように,宿題が及ぼす教育的効果についてはプラスの影響もマイナスの影響も与えうるとして,賛否両論が絶えない(太田,2019)。先行研究の中でも,宿題が学習にもたらす効果や,与える影響について統合的な分析が多く行われてきたものの,明確な結果の一致が見られないという現状がある(Cooper,2006)。そもそも「宿題」といってもその目的や内容は限られておらず,校種や学年等によって大きく異なることから,効果の有無を一纏めにして論じることは困難であると考えられる。
宿題は小学1年生からほとんど毎日取り組んでいるものであり,子どもたちにとって,ある程度習慣化された行動となっている。学年が進むにつれて,宿題に要する時間や宿題をいつもしている者が増加していく一方で,宿題への意欲や取り組み方の工夫は個人によって大きな差が生まれている。杉村・田村(1992)では,新しいことに自発的に取り組もうとする内発的意欲と,困難なことをやり遂げようとする達成意欲の,2つの学習意欲が宿題とどのような関係があるかを検討している。内発的意欲の高い者は,宿題をすればよく覚えられると答えた者が有意に多く,内発的意欲の高い者は宿題の効用を認識していると示されている。また,内発的意欲の高い者は自分からすすんで宿題をし,宿題をするのが好きと答えている者が多く,自発的,積極的に宿題に取り組んでいることが分かる。一方で,達成意欲の高い者は宿題をいつもしていると答えた者が多く,予習や復習についても自発的に取り組んでいる者が多かった。
このように,これまでの先行研究の結果から,宿題には内発的な学習の動機づけが重要だと考えられる。
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