5.主観的幸福感
本研究では,人生における幸福や精神的健康をはかるために,主観的幸福感という概念を取り上げる。
主観的幸福感(Subjective Well-Being)は,感情の状態や満足といった現在の心理状態に焦点を当てた概念である。これはQOL(Quality of life:生活の質)研究の発展の中で生まれてきたもので,QOLの主観的あるいは心理的側面と言える。すなわち,主観的幸福感の研究は,個人がどれだけ幸せであると感じながら生きているかを把握することを目的とする研究分野として位置づけられる(石井,1997)。
本研究では,主観的幸福感の定義として,「感情状態を含み,家族・仕事など特定の領域に対する満足や人生全般に対する満足を含む広範な概念(Diener, Suh, Lucas, & Smith,1999)」を採用する。ポジティブな感情価が高く,ネガティブな感情価が低いこと,そして人生への満足感が高いことは,主観的幸福感が高い状態だと言えるだろう。
家族間コミュニケーションと主観的幸福感について検討した赤澤・水上・小林(2009)は,家族形態や地域による差は見られたものの,親-子,祖父母-孫という世代間の相互作用の在り方が,個人の主観的幸福感に影響を与えている可能性を示唆している。また,愛着スタイルと主観的幸福感の関連について検討した尾田(2012)では,自分の居場所を感じ,安心してありのままの自分でいられることが幸福感を高め,他者と安定した人間関係を築くことに繋がると指摘する。本研究では,良好な親子関係が,人生における幸せにつながるのではないかという視点から,検討していく。
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