2.親子関係の発達


 親子関係の在り方は,子どもの成長や家族全体の幸福に深く影響を与える重要なテーマである。

 子どもの発達段階が上がるごとに親子関係も変化し,その一過程として,反抗期が存在する。反抗期は,2歳半頃からの第一反抗期と,12歳頃からの第二反抗期がある。反抗期は大人の側からの言い方であり,子ども側に立った言い方をすれば,心的葛藤を通じて発達する自我伸長期とも言える(石川,2008)。まず,第一反抗期は,それまでは親の意向をすんなりと受け入れていた子どもが,自分の考えと欲求を言語や行動で徐々に表せるようになり親の移行に反発することが増える時期である。これは親にとっては聞き分けなくわがままを言っているように感じる時期でもあり,「イヤイヤ期」とも呼ばれている。次に第二反抗期は,親や周りの大人に対して素っ気ない態度をとったり,心の葛藤を外にぶつけ,物や人にあたったりするという行動が見受けられる時期である。石川(2013)は,第二反抗期を,「思春期段階のもので,親に対して反抗的な態度をとる時期」と定義している。第二反抗期は,親からの自立を目的としたものだと捉えられ,子どもから大人への脱皮の時期だと言うことができる。また,反抗を怒りの表出と捉えた場合,怒り感情を外部に表す行為は,相手を信頼し,自分に起こった不都合や欲求不満を解消してほしいという内面情報を打ち明ける行為となる(上原・森・中川,2019)。思春期の時期に反抗を通して自分を探し,自分を見つけ出すことは,成長段階の中でも大切な時期なのである。

 本研究では,青年期後期の時期にあたる,大学生に焦点をあてる。青年期は第二反抗期が終了し,子どもから大人に成長していくための移行期であり,児童期と成人期の間に位置する時期である。こうした青年期は,身体的・心理的・社会的な側面で発達がみられる時期であり,青年期後期はその最終段階にあたるだろう。

 大学生を対象に行った先行研究の中で,小高(1998)は,大学生801人を対象に,「親に対する態度・行動」を調査した。そこでは,親子関係を4つに分類している。一つ目は親と情愛的な絆を感じ,親を尊敬し,親に服従した親子関係である「密着した親子関係」,そして親に対して距離を置いて冷静に接することができないが,その一方で情愛的な絆は弱い「矛盾・葛藤的な関係」,さらに親に反発を感じ,親と距離を置いた「離反的な親子関係」,最後に,親を一人の人間として認め,しかも親に対して尊敬や感謝の念を持っている,レベルの高い「対等な親子関係」と分類した。小高(1998)では,こうした親子関係の在り方が,心理的離乳を通した自立までの過程になっていると考えられている。つまり,子どもは親に対する反抗と依存を繰り返す中で,成長し,自立へ向かっていくのである。

 そして,青年期の親子関係について,平石・久世・大野・長峰(1999)は,青年期後期の親子間コミュニケーションは,青年期前期や中期に一旦離れた関係であった親と子が再び結びつきを取り戻し,仲間のような相互的な関係に至るという特徴があると指摘する。また青年期は,青年自身は今まで価値観や判断の基準としていた親からの分離をめぐって,親子間で対立・葛藤を生じさせながら親子関係の再構築がなされる時期である(藤原・伊藤,2017)。このことから,過去に対立や葛藤を重ねていた親子関係にも,青年期になると変化がみられ,その後の関係へと繋がっていくのではないかと考えられる。以上から,親への反抗経験の有無は,青年期においても重要な意味を持つと言える。

 しかし近年,親への反抗期経験がないという人が増加しているという。黒沢(2010)は,近年あまり反抗期が顕在化せず,せいぜいプチ反抗期がある程度である親子が増えていると指摘する。加えて丹羽(2020)は,大学生414名を対象に反抗期について調査をしたところ,反抗期のない人が半数程度いたと報告している。また,同様に反抗期の研究を行った二森・石津(2017)は,有効回答数の243人のうち,反抗期あり群が53.1%,反抗期なし群が46.9%という結果を報告している。よって,反抗期経験がある人とない人は,それぞれおよそ半数程度だと分かる。こうした,近年増加している反抗期経験がない層に着目すると,親子間で分離や対立・葛藤が行われない緊密な親子関係が青年期まで継続したということなのだろうか。

 また,反抗期の性差に関して小高(2008)は,男子よりも女子の方が先に親への反抗が始まる場合が多いということを指摘する。小高(2008)は,中学1年生?大学4年生という,幅広い年齢の男女1740名を対象に,親への態度について調査を行った。その結果,父親よりも母親からより多く前向きな影響を受け,情愛的な絆が強いことが分かり,他の先行研究の結果を支持する形となった。一方で,母親との対立が強いことも分かった。親との親和は,中学3年生で減少し,その後増加し,大学生頃に安定するという。このように,現代の反抗期の在り方は,多様化している(橘・ジェイムス,2023)。

 過去の先行研究で大学生を調査対象とした研究では,青年期後期以前に,親への反抗経験があったかどうかについては明らかにされている研究は多くはない。よって本研究では,現在の親子関係の在り方を調べると同時に,過去に反抗期経験があるかどうかによる傾向も検討する。



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