【問題と目的】
4.自己効力感
自己効力感とはある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信のことであり,セルフ・エフィカシー(Self-Efficacy)とも言われている。
つまり,自己効力感とはある出来事に対して,私にはこれをやり遂げるだけの能力や力があるという自身の能力認知に関わる傾向である。
Bandura(1977)の社会的学習理論に基づくと,自己効力感には2つの水準がある。1つは個々の課題や状況において遂行・達成することができるという課題固有の自己効力感(task-specific self-efficacy: 以下SSEとする)で,もう1つは特定の出来事に左右されずより長期的・一般的に個人の日常生活などの行動傾向に影響を及ぼしているとされる特性的自己効力感(generalized self-efficacy:以下 GSEとする)である。後者のGSEは,自己効力感を高く認知するか低く認知するかといった個人差が想定される。Sherer, Maddux,Mercandante,Prentice-Dunn,Jacobs & Rogers(1982)はこのGSEについて研究し,GSEが過去の成功・失敗体験から形成され,個人差があることを明らかにした。さらに,GSEは現在の状況だけでなく,未体験の未来の状況においてもうまく対処できるという期待感に影響を与える可能性を示唆している。GSEとSSEの関連については,GSEがSSEの情報源になっている(Watt&Martin,1994)という指摘や,特定の課題や場面では行動に対するSSEの高低が重要な要因として挙げられるが,そのSSEには個人のより一般的なGSEの高低が影響を与えている可能性がある(坂野・東條,1980)という指摘がこれまでにされている。
自己効力感の高低による原因帰属の違いについてもこれまでの研究で明らかになってきている。藤田・笹川(1991)や Shereret al.(1982)などの研究によると,GSEが高い人ほど出来事に対する原因を内的で統制可能な原因として帰属していること,内的統制可能な原因帰属を行う者は行動によって生じた結果が自身に関連するものとして捉え,周囲の状況においても統制可能感を感じていることが指摘されている。これらのGSEが高い人の原因帰属スタイルは,楽観性が高い人の原因帰属スタイルと異なることが分かる。一方で,黄ら(2005)の研究では楽観性と自己効力感に中程度の相関がみられることを示している。
先行研究において自己効力感が高い人は先延ばし傾向が低いこと,楽観性が低い人は自己効力感が低いことが明らかになっている(安藤,2004)。また,谷口・鈴木・安福(2013)は自己効力感が低いほど課題遅延傾向が高くなることを明らかにしており,「自分にはこの課題は十分にできるという可能性を持っていると感じていること」が課題の先延ばし行動の低減につながっているのではないかと考察している。
これらのことから,自己効力感の高低と楽観性,先延ばし傾向には関連があると考えられる。本研究ではGSEの測定のために広く用いられている特性的自己効力感尺度を使用し,先延ばし傾向との関連について検討する。
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