考察


3. 劣等感と劣等感反応特性の交互作用が自尊感情に与える影響について

仮説3を検討するため,劣等感と劣等感反応特性の交互作用項を投入した階層的な重回帰分析の結果,STEP1からSTEP2へのΔR2の値は有意にならなかったが,交互作用の検討を進めるために結果を取り上げたところ,劣等感尺度の「友達づくりの下手さ」得点が高い人について,劣等感反応特性尺度の「防衛反応」との交互作用項から自尊感情に正の影響が,劣等感尺度の「家庭水準の低さ」と劣等感反応特性尺度「努力志向性」との交互作用項と,劣等感尺度の「性格の悪さ」と劣等感反応特性尺度の「劣等感の表出抵抗」との交互作用項,劣等感反応特性尺度の「統率力の欠如」と「劣等感の表出抵抗」の交互作用項から自尊感情に有意な負の影響が見られた。これらより,仮説3は棄却された。

 まず,「友達づくりの下手さ」と「防衛反応」の交互作用が自尊感情に正の影響を与えていた点について考察を行う。返田(1986)は,青年期は他の時期に比べ劣等感が強まる時期であるということを示し,坂(2008)は,青年期における劣等感の発達的変化についての研究で,大学生においては「友達づくりの下手さ」に劣等感を抱くという結果を明らかにした。また,友尻(2011)は,劣等感に対する反応として,代償が相対的に多く用いられる傾向にあったことを示し,その行動で自己の劣等性に直接向き合うことを避け,他のことで満足を得ていくことで情緒的安定を保とうとしていると推測している。結果より,防衛反応得点が低い場合は自尊感情得点も低下していたことより,大学生の重要領域である「友達づくりの下手さ」に劣等感を抱いた際に防衛反応を取ることで劣等感を忘れようとしたり,劣等感を感じている相手と関わらないようにしたりすることによって自尊感情が低下することを抑えていることが考えられる。この結果より,劣等感を感じた際に他のことで満足を得たり劣等感の原因を避けたりする防衛反応を取ると,自尊感情に影響が及ぼされることが示唆された。

 次に,「家庭水準の低さ」得点が高い人が,劣等感反応特性である「努力志向性」得点が高いと自尊感情得点が低くなっており,「努力志向性」得点が低いと自尊感情得点は高くなる傾向がみられたこと,「家庭水準の低さ」得点が低い人が,劣等感特性である「努力志向性」得点が高いと自尊感情も高くなり,「努力志向性」得点が低いと自尊感情も低くなる傾向がみられた点について考察を行う。これらの傾向より,家庭に対して劣等感を抱いている人で努力志向性傾向のある人は,自尊感情が低くなることが考えられる。家庭の問題について自らも努力をしていかなければならないという状況に直面し,自尊感情が低下しているのではないかと考える。また,劣等感を抱いていない人において,努力志向性傾向のある人は自尊感情が高く,努力志向性傾向があまり見られない人は自尊感情が低い傾向がみられた。これらより,家庭の問題に直面していないうえで努力をしようとしている人は,更に家庭をよりよくしようと努力する余裕があり,自尊感情が高くなることが考えられる。

 次に,「性格の悪さ」,「統率力の欠如」と「劣等感の表出抵抗」の交互作用について,それぞれの劣等感得点が高いときと低いとき,どちらも補償行動として「表出抵抗」を行うと自尊感情が高くなり,「表出抵抗」を行わなければ自尊感情が低下する傾向がみられた点について考察を行う。友尻(2011)は,補償における「劣等感の表出抵抗」に関して,「その人に対して悔しいと思っても態度には出さない」などの行動や思考をすることと指摘している。これより,結果から,劣等感を感じた際に態度に出さなければ自尊感情が高く,態度に出すと自尊感情が低くなることが考えられる。これらより,「性格の悪さ」や「統率力の欠如」について劣等感を抱いた際に,他の人に劣等感を抱いていることを知られてしまうと自尊感情が低下することが示唆された。

 



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