考察


2. 劣等感と自尊感情の関連について

 仮説2について,劣等感と自尊感情の関連について調べるために,劣等感尺度と劣等感反応特性尺度を従属変数に,自尊感情尺度を独立変数とした重回帰分析を行った。

 劣等感の8要因からは「異性との付き合いの苦手さ」が自尊感情に負の影響を有意に与えているが,それ以外の要因から自尊感情への有意なパスはみられなかった。よって,仮説2は一部支持された。これらより,「異性との付き合いの苦手さ」が自尊感情に有意に負の影響を与えた点と「友達づくりの下手さ」が自尊感情に影響を与えなかった点について考察する。

 仮説にも示したように,青年期は対人関係に関して劣等感を抱きやすいとされている。また,坂(2008)によって,個人が重要としている自己の領域が劣等感に影響を与えることが主張されている。「異性との付き合いの苦手さ」得点の平均値は2.89であり,大学生は異性との付き合いを重要領域に置く人が多いことが考えられる。異性との付き合いにおいて,恋愛関係についての研究をみると,神薗・黒川・坂田(1996)は恋愛関係にある者の方が自尊心や充実感が高いことを明らかにし,山下・坂田(2005)も恋愛関係にある者の方がない者よりも自尊感情が高いことを明らかにしている。これらより,大学生は対人関係において異性との付き合い方に関しても重要視しているため,自尊感情に影響を及ぼすと考える。

 次に「友達づくりの下手さ」が自尊感情に影響を与えなかった点について考察する。 坂(2008)は,大学生では「自分で自分自身を認める助けとなる友達をうまく作れないこと」で劣等感が高くなるとしていた。本研究で使用した「友達づくりの下手さ」項目は「友達グループに入れない自分」「うまく友人と話せない自分」などといったコミュニケーションに関する項目であったため,この項目で示されている友人が,「自分自身を認める助けになる」友人であるかどうかは測れていない。また,大学生の友人関係はとても幅広く,岡田(1995)によると「希薄さ」「表面的」「浅い関係」と指摘されている。そのため,大学生の幅広い交友関係で見ると,「自分自身を認める助けとなる」友人を作れないことで劣等感と自尊感情に影響があることが考えられるが,友達についてどのように捉えるかによって,大学のコミュニティで友人関係に劣等感を抱いたとしても,自尊感情にまでは影響が見られないことが考えられる。

 坂(2008)は,大学生では,「自分で自分自身を認める助けとなる友達をうまく作れないこと」で劣等感が高くなり,自尊感情の低下に繋がると指摘している。よって,仮説2を立てたが,本研究では「友達づくりの下手さ」が自尊感情に有意に影響を与えていなかった。本研究において,仮説5を検討するために行った,劣等感と劣等感反応特性の交互作用項を投入した重回帰分析の結果では,劣等感尺度の「友達づくりの下手さ」と劣等感反応特性尺度の「防衛反応」との交互作用項から自尊感情に正の影響がみられた。よって,「友達づくりの下手さ」という劣等感から自尊感情へ直接的に影響するのではなく,何か補償行動を行うことで自尊感情が変動する可能性が考えられる。



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