考察


1. 劣等感と劣等感反応特性の関連について

 仮説1について,「家庭水準の低さ」から「防衛反応」には有意な関連が見られたが,「運動能力の低さ」から劣等感反応特性へ有意な関連は見られなかったため,仮説1は1部支持された。

 まず,劣等感尺度の「家庭水準の低さ」が「防衛反応」と「劣等感の表出抵抗」に有意な正の影響を与えていた点について考察を行う。補償行動についてAllport(1937)は,「直接的な適応の経路を通しては到達できない目標は,いろいろな補償を通して追及される」ということを主張した。友尻(2011)は補償の中でも「防衛反応」について,自分が劣等感を感じる相手とは核心の話題には触れないようにしたり,人と比べてできなくて悔しいときには無理にでも忘れようとしたりするような行動であると指摘している。また,補償における「劣等感の表出抵抗」に関してはその人に対して悔しいと思っても態度には出さないなどの行動や思考をすることと指摘している。家庭水準の低さについて劣等感を抱いている場合,自分だけのことではなく家族についても考えることになるため,他の人に劣等感を抱いていることを明らかにし振舞う人よりも,劣等感を隠す人の方が多いこと推考える。よって,「家庭水準の低さ」に関しては自らだけでなく,家族にも関係することであり,自分一人の力で解決することが難しい問題であるため,「防衛反応」や「劣等感の表出抵抗」で補償を行い,無理にでも忘れようとしたり相手に劣等感を悟られないように行動したりしていると考えられる。

 次に劣等感尺度の「運動能力の低さ」から「防衛反応」へ有意な関連が見られなかった点について考察を行う。まず,坂(2008)は,青年期における劣等感の発達的変化について研究を行っており,中学生では「学業成績の悪さ」,高校生では「身体的魅力がないこと」,大学生では「友達づくりの下手さ」に劣等感を抱くという結果を示した。また,本研究の重回帰分析において,「運動能力の低さ」から劣等感反応特性には有意な影響が見られなかったことから,青年期の中でも特に大学生において,「運動能力の低さ」はそれほど重視されておらず,個人的に劣等感を感じても周りから評価されることなどは少なく,補償行動に繋がらないという可能性が考えられる。また,「運動能力の低さ」を補うために補償行動や劣等感の表出を抵抗しても,直接的に運動能力を高めることはできないため,有意な関連が見られなかったのではないかと推測される。

 結果より,「性格の悪さ」が「努力志向性」に正の影響を与えていたことと「異性との付き合いの苦手さ」が「劣等感の表出抵抗」に負の影響を与えていたため,その二点についても考察を行う。まず,「性格の悪さ」と「努力志向性」に関して,友尻(2011)は,自分よりよくできる人を目標として努力したい,苦手だと思っても努力を続けて少しずつでも克服していくという行動や考え方が努力志向性であると述べている。これより,自分の性格が悪いことで劣等感を抱いている人は,その性格を克服するために努力しようと行動したり考えてたりしていることが考えられる。また,青年期は,劣等感が強まる時期であるとともに(返田,1986),他者との比較が激しくなる時期であるため,自己について考え直す機会が多く,性格の悪さを認知した際によりよくしようと努力する人が多いことが考えられる。次に,「異性との付き合いの苦手さ」と「劣等感の表出抵抗」について考察を行う。友尻(2011)により,「劣等感の表出抵抗」に関してはその人に対して悔しいと思っても態度には出さないなどの行動や思考をすることと指摘している。有意に負の影響を与えているため,「異性との付き合いの苦手さ」について劣等感を抱いた人は,態度や行動に出す傾向があると考えられる。大学生が重要領域におく対人関係に類似した「異性との付き合いの苦手さ」に劣等感を感じた際に,あえて他の人に劣等感を抱いたと分かるような行動や考え方をみせることで,相手との会話の話題にしたり相談したりしていることが考えられる。

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