5.コーピング
心理的ストレス反応に対して対処する過程は,コーピングと呼ばれる。コーピングは,対処努力とも呼ばれ,心理的ストレス反応が低減したかどうかではなく,ストレッサーの低減を目指したかどうかにより定義される(小杉, 2006)。つまり,コーピングが失敗し,心理的ストレス反応が低減しなかったとしても,ストレッサーに対処しようとした努力こそが,コーピングと呼ばれるのである。
コーピングは,いくつかの類型に分けられる。谷口ら(2006)において,コーピングは時点によって,特性的コーピングと状況的コーピングに分けられる。特性的コーピングは,特定の出来事や時点に限定せず,個人が日常的に使用する傾向としてのコーピングを指す。一方,状況的コーピングは,最近体験した強い緊張を感じた状況と限定して,状況により選択される対処努力を指す。
Lazarus(1988 林訳 1994)では,2種類の対処方略が紹介されている。一つ目に,「問題焦点(中心)型コーピング」がある。これは,問題に対して解決しようと行動を起こし,環境と個人の関係を変化させていくことである。二つ目に,情動焦点(中心)型コーピングがある。情動焦点型コーピングは,状況を変化させるのではなく,解釈を変化させることで情動を調節し,心理的ストレス反応を解消しようとする過程である。情動焦点型コーピングは,嫌なことを考えないようにするなどの「注意の展開」と問題を否認するなどの「関係の意味を変更する」というサブカテゴリーがあるとされる。
加えて,尾関(1993)では,上述の2種類に加え,情動焦点型コーピングのサブカテゴリーを一つの種類と捉え,問題を放置して現実逃避するような方法をとる回避・逃避型のコーピングを提言している。さらに,松田(1997)では,Lazarusにより細分化された8類型が紹介されている。具体的には,問題を積極的に解決しようと努力する「対決型」,問題を考えないようにする「距離をとる型」,感情や行動を表に出さないようにする「自己コントロール型」,他者にアドバイスを求める「社会的支援模索型」,自己責任として反省する「責任受容型」,薬物やアルコールに依存する「逃避型」,問題解決に向けて慎重に検討する「計画型」,問題を前向きに捉え直す「肯定評価型」に類型される。
池田ら(2014)によると,これらのコーピングスタイルは,どれか一つを選択することが最善とされるのではなく,ストレスの状況や反応によってコーピングの方法を組み合わせて使い分けることが必要だと述べられる。また,ストレスに対して適切なコーピングを選択実行できる能力は,ストレス・コーピング・スキルと呼称されたり(木島, 2008),メタ認知との関連からメタ・コーピングと提言されたりする(Kato, 2012)。さらに,加藤(2001)では,コーピングの柔軟性に富んでいると,精神的に健康である可能性が高いことが明らかにされている。これらの先行研究を踏まえると,ストレスコーピングでは,個人と環境を俯瞰的に捉えて適切な方法を取捨選択することが不可欠であることがわかる。
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