7.本研究の目的


 本研究では,社会的クリシン志向性がストレスにどのような影響を及ぼしているのか検討する。具体的には,社会的クリシン志向性がストレスの認知過程である二次評価を通して心理的ストレス反応に対してどのように関連するのか明らかにする。研究の意義は大きく分けて2つ考えられる。

 一つ目に,批判的思考態度を育み,リテラシーを高めていくことで,人々の日常にどのような良い影響を及ぼすのか検討した先行研究が少ないことが挙げられる。磯和ら(2014)において,批判的思考は,平成8年以来の中央教育審議会答申で掲げられる「生きる力」と共通する部分をもつ概念であると述べられる。そのため,批判的思考態度を教育場面でどのように育んでいけばよいのか検討する目的の研究は数多くある。しかし,批判的思考態度が真にどのような影響をもたらすのか,とりわけ社会的クリシンの性質については検討の余地がある。そこで,その性質を明らかにしていくことで,批判的思考態度の有用性を再確認したい。

 二つ目に,批判的思考態度とストレスの関連に焦点を当てた先行研究が数少ないことである。批判的思考態度を育むことによるメリットは多岐にわたることが想定されるが,その中でも本研究では,ストレスとの関連を取り上げる。なぜなら,批判的思考態度により,ストレスを認知し対処方法を取捨選択していく過程を適切にしていくことができると考えられるからである。本研究の先行研究となる池田ら(2014)では,クリシン志向性について,廣岡ら(2001)のクリシン志向性尺度が他者の存在を想定する状況におけるソーシャル志向性と他者の存在を必ずしも想定しない状況におけるノンソーシャル志向性の2つの下位尺度から構成されるところ,後者の尺度を用いている。これは,クリシン志向性とストレスの関係を図るときに,ストレスを個人がどのように対処するのか,という意味合いで検討を進めているためである。

 しかし,本研究では,ソーシャル志向性を重視し,社会的クリシン志向性の尺度(磯和ら, 2015)を活用したい。なぜなら,ストレスが環境と個人との関係で生じるものであるならば,ストレスへの対処が一概に個人の内部で完結しているとは考えにくく,社会的クリシンとの関連を検討することで,ノンソーシャル志向性の尺度では得られなかった結果が生まれる可能性があるからである。

 さらに,ストレスと社会的クリシン志向性との関連を検討する上では,ストレスの対処方法だけでなく,ストレスの発生過程に注目したい。ストレスは,個人がストレッサーを認知し,対処方法を考え,実行していく過程で捉えられる。先行研究では,批判的思考態度,コーピングの選択,心理的ストレス反応の関連をそれぞれ検討しているが,ストレッサーを「認知」することについては検討されていない。そのため,本研究では認知的評価尺度(杉山ら, 2010)を加え,社会的クリシン志向性がストレッサーに自身で対処しうるかなど,コーピングを取捨選択する以前に,ストレスの特性的な認知が社会的クリシン志向性とどのように関連するか検討を加えたい。



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