結果



1.各尺度の分析

 1)「子どもの評価による両親間の関係尺度」の分析

  2)「子どもの認知する親の養育態度尺度」の分析

 3)「友人関係の親密性の認知尺度」の分析

 4)「自尊感情尺度」の分析

2.各尺度間の関係

 1)両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度、友人関係の親密性と青年の自尊感情の関係

 2)男女別による両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度、友人関係の親密性と青年の自尊感情の関係

 3)両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度、友人関係の親密性のそれぞれが青年の自尊感情に与える影響


1.各尺度の分析

  1)「子どもの評価による両親間の関係尺度」の分析

 まず、平均±標準偏差の値が尺度の下限値を越えた1項目は、データの分布にフロア効果が生じていると判断し、尺度から削除した。その後、全14項目について男女込みで、主因子解のプロマックス回転による因子分析を行った。固有値の減退状況と因子の解釈可能性から、先行研究と同様2因子解が妥当であると判断した。そして十分な付加量の見られなかった1項目を除き、残りの13項目について再度因子分析を行った。プロマックス回転後の因子パターンはTable1に示す。累積寄与率は54.02%だった。





 先行研究同様、第1因子は「両親間の愛情」、第2因子は「両親間の葛藤解決」とし、以後の分析を進めることにした。因子ごとのα係数は、第1因子、第2因子それぞれにおいて順に0.87、0.76であった。また、尺度全体のα係数は0.83であった。

  2)「子どもの認知する親の養育態度尺度」の分析

 母親の養育態度と父親の養育態度についてそれぞれ14項目を、別々に分析を行った。まず、母親の養育態度について平均値±標準偏差の値が尺度の上限値を越えた1項目は、データの分布に天井効果が生じていると判断し、尺度から削除した。残りの13項目を男女込みで、主因子解のプロマックス回転による因子分析を行った。固有値の減退状況と因子の解釈可能性から、先行研究と同様に2因子解が妥当であると判断した。そして十分な付加量が見られなかった1項目を削除し、再度因子分析を行った。プロマックス回転後の因子パターンはTable2に示す。累積寄与率は56,64%だった。






 次に、父親の養育態度全14項目を男女込みで、主因子解のプロマックス回転による因子分析を行った。固有値の減退状況と因子の解釈可能性から、母親の養育態度と同様に2因子解が妥当であると判断した。プロマックス回転後の因子パターンはTable3に示す。累積寄与率は57.00%だった。







 母親の養育態度、父親の養育態度のどちらも先行研究同様、第1因子は「受容」、第2因子は「統制」とし、以後の分析を進めることにした。因子ごとのα係数は、母親の養育態度では第1因子、第2因子それぞれにおいて順に0.86、0.81であった。父親の養育態度では第1因子、第2因子それぞれにおいて順に0.89、0.84であった。また全体のα係数は母親の養育態度で0.87、父親の養育態度で0.89であった。

  3)「友人関係の親密性の認知尺度」の分析

友人関係の親密性の認知について「相手に対する親密性」と「相手からの親密性の推測」の各7項目に分け別々に分析を行った。まず、「相手に対する親密性」について平均値±標準偏差の値が尺度の上限値を越えた4項目は、データの分布に天井効果、もしくはフロア効果が生じていると判断し、尺度から削除した。残りの3項目を男女込みで主成分法による因子分析を行った。その結果1因子で成立していることが確認された。累積寄与率は54.18%、α係数は0.57であった。また、「相手からの親密性の推測」について平均値±標準偏差の値が尺度の上限値を越えた2項目は、データの分布に天井効果が生じていると判断し、尺度から削除した。残りの5項目を男女込みで主成分法による因子分析を行った。その結果、1因子で成立していることが確認された。累積寄与率は55.24%、α係数は0.80であった。「友人に対する親密性」と「友人からの親密性の推測」の因子負荷量についてはTable4に示す。




  4)「自尊感情尺度」の分析

 自尊感情尺度全23項目について平均値±標準偏差の値が尺度の上限値を越えた1項目は、データの分布に天井効果が生じていると判断し、尺度から削除した。残りの22項目を男女込みで主因子法、及びプロマックス回転による因子分析を行った。先行研究では4因子解とされていたが、本研究では固有値の減退状況と因子の解釈可能性から、5因子解が妥当であると判断した。そして十分な負荷量が見られなかった5項目を除き、残りの17項目について再度因子分析を行った。プロマックス回転後の因子パターンはTable5に示す。なお、17項目による累積寄与率は67.86%だった。






 各因子内容は以下のように解釈された。第1因子はいずれの項目も、対人場面において他者の評価を気にするといった内容からなっている。これは井上(1981,1992),小塩(1998)と同様に他者からの評価を気にする因子であると考えられるので、小塩同様に「評価過敏」因子と命名した。第2因子と第5因子は井上(1992)の第2因子「社会的場面での不安」の項目と同一であった。その中で第2因子は人前を気にしたり、恥ずかしさを感じたりするという内容からなっている。そのため、第2因子は「対人不安」と命名した。また、第5因子は初対面の人など人と会話をすることへの不安の内容からなっている。そのため、第4因子は「対話不安」と命名した。第3因子は自分に価値があり、自分の能力に自信を持っているという内容からなっている。そこで、先行研究同様「自己価値」因子と命名した。第5因子は自己嫌悪や自分のミスを自分のせいだと感じるという内容からなっている。そこで、先行研究同様「劣等感」と命名した。因子ごとのα係数は第1因子、第2因子、第3因子、第4因子、第5因子それぞれにおいて順に、0.86、0.77、0.71、0.72、0.73であった。
 なお、因子1、2、4、5に対応する下位尺度についてそれぞれの因子に負荷量の高い項目の得点を全て逆転して加算することでその下位得点とするので、低い得点をとるほどその下位尺度の意味する特性が強いという解釈になる。そこで、因子1、2、4、5の逆転した得点と因子3の得点を合計し、自尊感情得点とした。また、尺度全体のα係数は0.82であった。

2.各尺度間の関係

1)両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度、友人関係の親密性と青年の自尊感情の関係

 子どもの評価による両親間の関係尺度の2つの下位尺度に相当する項目の平均値を算出し、「両親間の愛情」下位尺度得点(平均2.43、SD 0.65)、「両親間の葛藤解決」下位尺度得点(平均2.27、SD 0.57)とした。また、子どもの認知する親の養育態度尺度の2つの下位尺度に相当する項目の平均値を算出し、「母受容」下位尺度得点(平均3.83、SD 0.77)、「母統制」下位尺度得点(平均3.79、SD 0.73)、「父受容」下位尺度得点(平均3.19、SD 0.94)、「父統制」下位尺度得点(平均3.17、SD 0.87)とした。両親間の関係と子どもの認知する親の養育態度の下位尺度相関をTable6に示す。その結果、「夫婦間の愛情」と「母統制」(r=.21, p<.01)、「父統制」(r=.24, p<.01)、「父受容」(r=.36, p<.001)と弱い相関がみられた。また、「両親間の葛藤解決」は「父受容」(r=.26, p<.001)と弱い相関がみられた。



 友人関係の親密性の認知尺度の2つの下位尺度に相当する項目の平均を算出し、「友人に対する親密性」下位尺度得点(平均3.75、SD 0.64)、「友人からの親密性の推測」下位尺度得点(平均3.97、SD 0.65)とした。また、自尊感情尺度の5つの下位尺度に相当する項目の平均値を算出し、「評価過敏・逆」下位尺度得点(平均2.20、SD 0.81)、「対人不安・逆」下位尺度得点(平均2.48、SD 0.87)、「自己価値」下位尺度得点(平均2.75、SD 0.78)、「劣等感・逆」下位尺度得点(平均2.54、SD 0.87)、「対話不安・逆」下位尺度得点(平均2.66、SD 1.08)とした。また、自尊感情尺度全体の合計得点も算出し「自尊感情得点」(平均42.14、SD 10.77)とした。子どもの評価する両親の関係及び子どもの認知する親の養育態度、友人関係の親密性の認知の各下位尺度得点と自尊感情の下位尺度得点及び合計得点の下位尺度間相関をTable7に示す。その結果、夫婦間の愛情と自尊感情の下位尺度得点及び合計得点の間にとくに相関はみられなかった。夫婦間の葛藤解決と自尊感情得点(r=.21, p<.01)、対人不安・逆(r=.23, p<.01)に弱い相関がみられた。また、養育態度の各下位尺度得点と自尊感情尺度の合計得点及び下位尺度得点の間には特に相関はみられなかった。友人に対する親密性と対話不安・逆(r=.24, p<.01)の間に弱い相関がみられた。友人からの親密性の推測と自尊感情得点(r=.21, p<.01)、対話不安・逆(r=.26, p<.001) の間に弱い相関が、自己価値(r=.35, p<.001)と中程度の相関がみられた。



2)男女別による両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度、友人関係の親密性と青年の自尊感情の関係

 各尺度の下位尺度間相関の男女別による検討を行った。まず、男子青年の各尺度の下位尺度相関の結果をTable8に示す。その結果、夫婦間の愛情と対話不安・逆(r=.34, p<.01)の間に弱い相関がみられた。夫婦間の葛藤解決と自尊感情得点(r=.26, p<.05)、評価過敏・逆(r=.30, p<.05)の間に弱い相関がみられた。母・統制と評価過敏・逆(r= -.27, p<.05)の間に弱い相関がみられた。父・統制と自尊感情得点(r= -.26, p<.05)、対人不安・逆(r= -.34, p<.01)の間に弱い相関がみられた。友人に対する親密性と評価過敏・逆(r= -.27, p<.05)、自己価値(r=.29, p<.05)、対話不安・逆(r=.28, p<.05)の間に弱い相関がみられた。友人からの親密性の推測と自尊感情得点(r=.35, p<.01)、劣等感・逆(r=.29, p<.05)、対話不安・逆(r=.37, p<.01)の間に弱い相関が、自己価値(r=.59, p<.001)の間に中程度の相関がみられた。



 次に、女子青年の各尺度の下位尺度相関の結果をTable9に示す。その結果、友人に対する親密性と対話不安・逆(r=.23, p<.05)の間に弱い相関がみられ、友人からの親密性の推測と自己価値(r=.22, p<.05)の間にも弱い相関がみられた。両親の夫婦関係及び養育態度と自尊感情得点及び下位因子には相関はみられなかった。



3)両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度、友人関係の親密性のそれぞれが青年の自尊感情に与える影響

 両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度、友人関係の親密性のそれぞれが青年の自尊感情に与える影響をより具体的に検討するため、自尊感情得点及び各因子を従属変数とし、両親の夫婦関係及び子どもが認知する養育態度の各因子を独立変数とする重回帰分析を行った。全体の分析結果はFigure1に示す。また、自尊感情得点及び各因子を従属変数とし、友人関係の親密性の各因子を独立変数とする重回帰分析を行った。全体の分析結果はFigure2に示す。次に、このモデルをもとに、男女別に重回帰分析を行った。その結果をFigure3〜Figure6に示す。
 全体の結果では、夫婦間の愛情が母統制(β=.23,p<.05)に対して、父受容(β=.31,p<.001)に対して、父統制(β=.23,p<.01)に対して有意な関係があった。両親間の葛藤解決が父受容(β=.17,p<.05)に対して、評価過敏・逆(β=.11,p<.05)に対して、対人不安・逆(β=.22,p<.01)に対して、自尊感情得点(β=.20,p<.05)に対して有意な関係があった。父受容が対人不安・逆(β=.20,p<.05)に対して有意な関係があった。また、友人からの親密性の推測が対人不安・逆(β=.19,p<.05)に対して、自己価値(β=.42,p<.001)に対して、対話不安・逆(β=.18,p<.05)に対して、自尊感情得点(β=.27,p<.01)に対して有意な関係があった。以上の結果から、両親の葛藤解決から父受容と通って対人不安・逆へと向かうパスが確認された。
 両親間の葛藤解決及び父受容が対人不安・逆に与える影響は、友人からの親密性の推測が対人不安・逆に与える影響よりも大きかった。両親間の葛藤解決が自尊感情得点に与える影響は、友人からの親密性の推測が自尊感情得点に与える影響よりも小さかった。







 男子青年では夫婦間の愛情が対話不安・逆(β=.29,p<.05)に対して有意な関係があった。また父受容が対人不安・逆(β=.35,p<.05)に対して、父統制が対人不安・逆(β=-.43,p<.01)に対して有意な関係があった。友人に対する親密性は評価過敏・逆(β=-.66,p<.001)に対して、自己価値(β=-.32,p<.05)に対して、自尊感情得点(β=-.49,p<.01)に対して有意な関係があった。友人からの親密性の推測は評価過敏・逆(β=.53,p<.01)に対して、対人不安・逆(β=.43,p<.05)に対して、自己価値(β=.83,p<.001)に対して、対話不安・逆(β=.37,p<.05)に対して、劣等感・逆(β=.55,p<.01)に対して、自尊感情得点(β=.71,p<.001)に対して有意な関係があった。
 夫婦間の愛情が対話不安・逆に与える影響は、友人からの親密性の推測が対話不安・逆に与える影響より小さかった。夫婦間の葛藤解決が評価過敏・逆に与える影響は、友人への親密性及び友人からの親密性の推測が評価過敏・逆に与える影響に比べ小さかった。父受容が対人不安・逆に与える影響は友人への親密性が対人不安・逆に与える影響より小さかった。父統制が対人不安・逆に与える影響は友人からの親密性の推測が対人不安・逆に与える影響と同じであった。







 女子青年では夫婦間の愛情が母統制(β=.26,p<.05)に対して、父受容(β=.34,p<.001)に対して、父統制(β=.32,p<.01)に対して有意な関係があった。両親間の葛藤解決は母受容(β=.23,p<.05)に対して、父受容(β=.19,p<.05)に対して有意な関係があった。友人に対する親密性は対話不安・逆(β=.18,p<.05)に対して、友人からの親密性の推測は自己価値(β=.24,p<.05)に対して有意な関係があった。両親の夫婦関係及び両親の養育態度と自尊感情得点及び下位因子の間に有意な関係はなかった。








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