考察


・両親の夫婦関係及び父親の養育態度と子どもの自尊感情の関係

・両親の夫婦関係及び母親の養育態度と子どもの自尊感情に関係がなかった理由


・青年の自尊感情への両親の夫婦関係からの直接的な影響

・両親の夫婦関係と養育態度の関係

・男女別の結果の差異
 
 
 
女子青年で夫婦関係が自尊感情に影響を与えなかった理由

  男子青年に対する両親からの影響
 
  両親と対人不安の関係


  自尊感情への友人からの影響

  男子青年における友人から自尊感情への影響


本研究の目的は2つあった。1つは、両親の夫婦関係が両親の子どもに対する養育態度を媒介として子どもである青年の自尊感情に影響を与えているのかどうか、また、男女で影響に違いはあるのかについて明らかにすることであった。2つは、青年の自尊感情にとって両親の夫婦関係及びその養育態度と友人関係のどちらの方がより強い影響をもつのかについて明らかにすることであった。
 本研究で明らかになったことの1つは、青年の自尊感情に対して両親の夫婦関係及び両親の養育態度は関係があり影響を与えているということである。重回帰分析の結果から、両親の夫婦間の愛情及び葛藤解決から父受容への影響と、父受容から対人不安・逆への影響が確認された。このことから、1つ目の目的に関する両親の夫婦関係は子どもに対する養育態度を媒介として自尊感情に影響を与えるという仮説は父親の養育態度は媒介とするが、母親の養育態度は媒介としないという点で一部支持された。さらに、夫婦関係が子どもの自尊感情に影響を与える直接的プロセスの存在が確認された。

両親の夫婦関係及び父親の養育態度と子どもの自尊感情の関係

 本研究の結果から(Figure1)、青年の自尊感情に対して、両親の夫婦関係が父親の受容の養育態度を媒介として影響を与えていることがわかった。このことは仮説と一致し、青年の自尊感情にとって両親の夫婦関係は養育態度という間接的プロセスを経て影響を与えていると言える。また、父受容が自尊感情に影響を与えていたことから養育態度のなかでも受容の態度が自尊感情にとって重要であると考えられる。Sears (1970)は男女の小学校6年生を対象に、両親のしつけのパターンと自尊感情の関係を調べた。その結果、両親の暖かさや受容の要因は他の要因に比べ男女の子どもの自尊感情にとって重要であることが見出された。本研究では青年を対象としているが、Sears(1970)と同様に子どもの自尊感情にとって両親から受容されているということが重要であるという結果になったことは同様であると思われる。子どもにとって、両親が自分のことを認めていてくれる、大切に思っていてくれるといったことが認識できることは、青年になってからも自分という人間を適切に評価するために重要であると考えられる。また、Sears(1970)や宇都宮(2005)が子どもの自尊感情にとっては父親よりも母親からの影響を強く受けているとしているのに対して、本研究では母親からの影響は確認されず、父親からの影響のみ確認された。父親の子どもへの関わりに関して、平山(2001)は父親が子どもと会話やスポーツのような行動などをどのくらい共にしているのかを父親本人と母親に評定させ、中学生の子どもの精神健康度との関係をみている。その結果、父親の家庭関与の低い群の子どもの精神的健康度は父親の家庭関与の高い群に比べて男女共に低いことが明らかにされている。以上のことから、子どもへの発達にとって母親がどのように関わるかということだけでなく、父親がどのように関わっているのかということも非常に重要になるということが分かる。そのため、父親は子どもと積極的に関わりを持ち、厳しくしつけを行うだけでなく、いつも子どものことを大切に思っているということが伝わるような関わりを行っていくことが、子どもが自尊感情を育てていくために大切になるだろう。

両親の夫婦関係及び母親の養育態度と子どもの自尊感情に関係がなかった理由

 本研究で相関係数及び重回帰分析の結果(Table7,Figure1)から、青年の自尊感情に対して両親の夫婦関係は子どもである青年への養育態度を媒介として影響を与えるという仮説は母親の養育態度を媒介としないという点で支持されなかった。その理由として今回使用した質問紙が母親の養育態度と青年の自尊感情の関係を調べるのに適していなかったのではないかと考えられる。今回使用した子どもの認知する両親の養育態度を調べる尺度は養育態度を受容と統制の2つの側面から捉えている。受容は子どもの悩み事を真剣に聞いたり、子どもが失敗しても「次頑張ろう」と言ったりするような子どもに合わせ子どもの事を考える態度である。統制は約束を守るように話したり、悪い事をしたら叱ったりするというような子どもに対して厳しくありながら社会で生活する上で大切な力を与えてくれる態度である。一般に、多くの子どもは家庭で父親に比べ母親と共に過ごす時間が長いと思われる。長い時間を共に過ごす中で、母親は子どもと関わるとき常に優しく受容するのではなく、時には厳しく叱ることが必要となってくるだろう。そのため、子どもにとって母親の自分に対する態度は受容と統制のどちらも高い状態で併せもったものであると考えられる。本研究の対象者も同様に母親の養育態度を受容、統制共に高いと認知している人が多かったと思われる。このことから、母親の養育態度におけるデータの分布の偏りが生じていた可能性があり、自尊感情との関係を見ることができなかったのではないかと考えられる。石川(1981)は、女子高生を対象にして、両親の養育態度および自尊感情と子どもの自尊感情の相関分析を行っている。その結果、母親の子どもに対する情緒的支持および子どもの自律尊重は子どもの高い自尊感情と結びつく基本的要因であることが見出されている。以上のことから、母親の養育態度と子どもの自尊感情は関係がまったくないとは言えず、今後も研究を進めていく必要があると思われる。

青年の自尊感情への両親の夫婦関係からの直接的な影響

 次に、青年の自尊感情に対し両親の夫婦関係がどのような影響を与えているのかについて議論する。青年の自尊感情に両親の夫婦関係の中で、両親間の葛藤解決との関係のみがみられた(Table7,Figure1)。この結果は、Neighbors,Forehand,&Bau(1997)の成人前期において、両親の不和がストレッサーとなっているとの報告と一致すると考えられる。このことから、青年の自尊感情にとって、両親の葛藤はストレッサーとなる。しかし、その後どのように葛藤を解決しているのか、ということが重要となると考えられる。両親間で起きたトラブルが長時間解決しないことは、両親の間に流れる険悪な雰囲気の中に子どもを長時間さらすこととなる。そのことは幼少期だけでなく青年へと成長した後も、不安やストレスを与えることになる。そのため、両親が葛藤をうまく解決することで夫婦関係が安定的なものとなり、子どもにとって安心できる家庭となり、そのことが子どもの自尊感情を安定させていく、と考えられる。
 また、重回帰分析の結果(Figure1)から、夫婦間の葛藤解決は自尊感情全体だけでなく、評価過敏・逆と対人不安・逆に影響を与えていた。評価過敏は他の人が自分のことをどのように考えているのかを気にしたり、周りからの評価を気にしたりする様子を表している。対人不安は人前で話をするときに不安を感じたりはにかみを感じたりする様子を表している。このことはどちらも他者の視線を気にするという点で似ていると言えるだろう。夫婦間の葛藤が解決しないことは両親がお互いに対して嫌悪感や不快感を持っているという印象を直接子どもに与えると思われる。このように両親がお互いに悪い評価をしている姿を目にする中で子どもはいつか自分も両親に悪い評価を受けているのではないかと不安を感じるようになるのではないだろうか。その理由として、葛藤の際に生じる両親の怒りの態度が自分の行った行為に対しても向けられるのではないかという不安を感じると思われるからである。自分の行動が両親の怒りの対象となる可能性を感じることで、子どもは常に両親から自分の行動がどう思われているのかという評価を気にするようになると思われる。そのことがやがて両親からの評価や視線だけでなく、他者からの評価や視線を気にすることに繋がると思われる。そのため、夫婦間でいつまでも葛藤が解決されない場合、子どもは周囲からの評価や視線を気にするようになるのだろう。逆に、夫婦間で葛藤が起こっても解決が行われている場合、両親はお互いのことを悪く評価する事は少なくなり、子どもは両親が自分を悪く評価するのではないか、という不安をもちにくくなるのではないだろうか。以上のことから、両親の夫婦間の葛藤が解決しない場合の両親の言動を基に、子どもは両親や他者からの評価や視線を気にするようになるのではないかと考えられる。

両親の夫婦関係と養育態度の関係

 両親の養育態度と青年の自尊感情の間には一部しか関係はみられなかった。しかし、両親の夫婦関係が両親の養育態度と関係があることは確認された(Table6,Figure1)。特に、両親間の愛情は両親の養育態度との関係が強かった。両親の愛情は、父と母それぞれ相手がいないとさみしそうであったり、2人でいることが多かったりという内容を含んでいる。このように、夫婦としてお互いに支えあい、仲良く過ごすことができる場合、両親が葛藤関係にある状態が多い場合に比べ、母親、父親共に精神的に余裕が生まれるのではないだろうか。そしてこの精神的な余裕が子どもへの関わり方をよりよくしていくのではないかと考えられる。
 また、両親間の愛情は母親の養育態度に比べ、父親の養育態度と関わりが強かった。このことから、両親が子どもと関わる際、特に父親は夫婦関係がどのような状態なのかということに影響を受けやすいと言える。先行研究から、父子関係は母子関係より夫婦関係の影響を受けやすいことが示唆され(Cummings&O’Reilly,1997)、夫婦関係の悪さは母子関係よりも父子関係に悪い影響を及ぼすとされている(Amato&Keith,1991;Belsky,Rovine&Fish,1989;Booth&Amoto,1994)。このことからも、父親の子どもへの関わりは夫婦関係の状態の影響を受けていると考えられる。その理由として、母親と父親による子どもとの関わりの違いが挙げられる。母親は子どもと普段から密接な関わりがあるため、夫婦関係の変化によって子どもとの関わり方が変化せず、常に同じように接することができることが多いと考えられる。それに対し、一般的に父親は母親に比べ、子どもと関わる割合が少ないと思われる。その短い関わりの中で父親はどのように子どもと関わるかを母親や家庭の様子に合わせて変化させているのかもしれない。そのため、父子関係の良好さにとって夫婦関係は重要なものとなるだろう。

男女別の結果の差異

 男女別で行った相関係数及び重回帰分析の結果から、両親の夫婦関係及び両親の養育態度が子どもである青年の自尊感情に関係や影響があることは男子青年では確認された(Table8,Figure3)が、女子青年では確認されなかった(Table9,Figure5)。そのことから、目的1に関する男子青年より女子青年の方が強い影響がみられるという仮説は支持されなかった。またこの結果は、これまで日本で両親の結婚生活についての認知は、女子青年において重要であるという報告と異なる。このことから、青年の自尊感情を変化させるものがどのようなものなのかということを議論する。

女子青年で夫婦関係が自尊感情に影響を与えなかった理由

 本研究の結果から、女子青年は両親の夫婦関係及び両親の養育態度が自尊感情に影響を受けないということが明らかになった。しかし先行研究の結果と併せて考えると、女子青年の自尊感情にとって、両親の夫婦関係など両親からの影響がまったくないとは考えにくい。そのため、今後は家庭の雰囲気など本研究で扱ったものとは異なる側面から、家庭が女子青年に与える影響を考えていくことで、女子青年と家庭の関わりについてより深く考えていかなければならないだろう。しかし、本研究の結果から両親の夫婦関係よりも、自尊感情に対して強い影響を与えるものが存在している可能性が考えられる。そこで、どのような要因が自尊感情に影響を与えているのかについて考える。青年の自尊感情と強い関わりがあると思われるものの一つに自分の外見や見た目が挙げられるだろう。馬場・菅原(2000)は女子大学生を対象に、痩身願望と自尊感情の間に負の相関があることを明らかにしている。また、田崎・今田(2004)は男女大学生を対象に、男女共に痩身願望と自尊感情の間に負の相関があることを明らかにしている。このことから、青年にとって自分のスタイルが痩せているのかどうかなどの外見は自尊感情と強い関わりがあると思われる。自分の見た目に満足している人は、満足をしていない人に比べ、自分に自信を持ち、自分自身に満足することができるのではないだろうか。青年の多くは、自分の外見や見た目に対して、周囲の他者やメディアに登場する有名人と比較し、整った外見であるかどうか、痩せているかどうかといったことを判断すると思われる。周囲の人と比べて自分がどうであるのかということを判断し、自分がどのような存在であるのかということを考えていくことにより自尊感情を変化させていくと思われる。
 また、恋愛関係がどのようなものなのかということも青年の自尊感情に影響を与えているのではないかと考えられる。恋人がいる、好意を持っている異性がいる青年の場合、その関係が良好な場合、良好でない場合に比べ自分に対して自信をもつことができると思われる。なぜなら、自分が誰かと良好な付き合いを行うことができているということが自分への自信に繋がっていくと考えられるからだ。また、恋人がいる場合、その相手は自分に対し好意を持っているということになる。つまり、その相手からありのままの自分という存在を認めてもらえていると認識することができるようになり、自尊感情を高めていくことができるようになるのではないかと考えられる。
 以上のことから、青年の自尊感情にとって大切だと思われるものは個人によって様々なものがあると思われる。そのため、女子青年では、両親の夫婦関係及び両親の養育態度が自尊感情に影響を与えていないという結果になったのではないかと考えられる。しかし、本研究では、両親の夫婦関係や友人関係がどのようであるかと、青年の自尊感情との関係についてのみ調査している。そのため、他にどのような要因が自尊感情に関係しているのかについてはあくまで推測の域である。今後はこのような様々な要因を比較して青年の自尊感情にとって何が重要なのかを考えていくことで、青年への理解が深まっていくだろう。

男子青年に対する両親からの影響

 重回帰分析の結果(Figure3)から、男子青年では、両親の愛情が対話不安・逆に、父・受容と父・統制が対人不安・逆に対して影響を与えていた。このことから、男子青年と両親の夫婦関係との関連について、今までの研究ではあまり重要視されていなかったが、男子青年においても両親の夫婦関係との関連について考えていくことは非常に意味があるということが示唆された。
 一方、両親の愛情及び父親の養育態度が影響を与えていた自尊感情の因子は対話不安・逆と対人不安・逆であった。対人不安・逆は人前を気にしたり、周りの目を気にする程度を表している。また、対話不安・逆は人と会話する際にどのようなことを話せばよいかということを気にする程度を表している。自尊感情は自分に対する評価感情であることから、他人と関わっている際の自分についてどのように評価しているのかという点ではこの2つの因子は自尊感情を表しているといえる。つまり、今回の結果から、男子青年にとって両親の夫婦関係や養育態度は、自尊感情の中でも特に人との関わりに対して自信をもっているかどうかということに影響を与えていると言える。では、男子だけでなく女子も含めた青年全体が他者と関わりを持つ際に、両親の果たす役割はどのようなものがあるのだろうか。

両親と対人不安の関係

 春日井(2006)は、現代の青年の、本来は「素の自分」を出し合う親密圏で過剰に気を遣い、逆に「配慮ある自分」で付き合う公共圏で、不機嫌そうに見える「素の自分」を出して一息ついている姿について指摘している。そこで、子ども達が周囲の他者とのつながりの実感を持てるような関わりを親や教師は行っていかなければならないとしている。子ども同士、子どもと他者とのつなぎ役として親が関わっていくことは子どもの自己形成を支援するものとなる。子どもが他者とのつながりを感じる場面について春日井(2006)は2つの場面を挙げている。1つは子ども同士が楽しい時間を共有する場面であり、楽しいことを仲間と経験することは自己肯定感の土台となるとしている。もう1つの場面は、自分にとって辛いことを話すといった負の感情や体験を出し合う場面である。日常生活の中で子どもは悲しい気持ちや辛い気持ちのような負の感情を心の中に閉じ込めて生活をしていることが多い。負の感情や体験を表出し、受けとめてもらうことで、他者は共存的他者となる。また、自分の中にある気持ちを話すことで心の中を整理していくことができるようになる。そのことから、親が子どもの負の感情を受けとめることで、子どもは他者とのつながりを感じ、どのように他者と関わっていけばよいのかということを学んでいくだろう。そして、学童期や思春期に両親との関わりの中から学んだことを、活かしたり、発展させたりして青年は他者との関わりを円滑に行っていくと思われる。このことから、青年の他者との関わりを考えるうえで、両親が果たす役割は大きいと思われる。

自尊感情への友人からの影響

さらに、本研究で明らかになったことの1つは、友人関係は自尊感情に強い影響を与えているが、両親の夫婦関係及び養育態度が一部では友人関係よりも強い影響を与えているということであった(Table7,Figure2)。重回帰分析の結果から、全体では、両親間の葛藤解決及び父受容が対人不安・逆に与える影響は、友人からの親密性の推測が対人不安・逆に与える影響よりも大きかった。男子青年では、父統制が対人不安・逆に与える影響は友人からの親密性の推測が対人不安・逆に与える影響と同じであった。このことから、目的2に対する、青年の自尊感情は、両親の夫婦関係及び子どもに対する養育態度からの影響より友人からの影響の方が強くなるという仮説は一部支持されたと言える。この結果は学童期を過ぎると、自尊感情はクラスなどにいる仲間からの影響を受けるというものと合致している。また、小塩(1998)は、自分は深い友人関係を築いていると認知している青年では自尊感情が高くなるとしている。このことから、青年の自尊感情にとって友人関係の親密さは非常に重要であると言える。その一方で、本研究の結果から、青年の自尊感情にとっても両親の築いている夫婦関係や、自分に対する関わりは、自分の築いている親密な友人関係と同様に重要になる部分でもあると言える。このことから、自尊感情にとって両親という存在は幼少期だけでなく、成長してからも重要であることが分かる。また、両親と子どもの関係について、乳幼児期や学童期の子どもとの関係のみを考えるのではなく、青年期の段階の子どもとの関係について今後も研究を行っていくべきであると考えられる。
 さらに、友人関係の親密性の推測の因子である友人への親密性に比べ、友人からの親密性の推測の方が自尊感情に与える影響は大きかった。つまり、自尊感情が安定したものとなるためには、友人のことを精神的に頼れたり、うまく関係を保てていると認識することより、友人から自分は信頼されていたり、一緒にいたいと感じてくれていると認識できていることの方が自尊感情には大切であるということである。このことは自尊感情が周囲の人からどのように思われているかなどによって変化することから理解できるだろう。友人が自分のことを信頼してくれたり、一緒にいたいと感じてくれたりしているということで、自分は相手から頼られている、認めてもらえているという気持ちを感じることができるようになるだろう。友人からの親密性の推測の因子は自己価値の因子へと強い影響を与えていた。このことからも、友人が自分のことを大切な存在であると認識することは、自分が価値のある存在であるという認識をもてるようになっていくために必要であると考えられる。

男子青年における友人から自尊感情への影響

 また、男子青年では、重回帰分析の結果(Figure4)、友人への親密性が評価過敏・逆、自己価値、自尊感情得点に負の影響を与えていた。このことから、男子青年では友人に対して信頼感を持っていると自尊感情が低くなるということが示唆された。友人からの親密性の推測は自尊感情に対して正の影響を与えているのに対し、友人への親密性が自尊感情に負の影響を与えたのはなぜだろうか。友人に対して親密性を感じているということは、自分には仲の良い他者がいるということを認識しているということである。このように他者と親密な関わりを持てるということは、他者から受容される経験ができるようになり、自尊感情が安定したものになっていくきっかけとなるだろう。しかし、友人との関わりの中で、自分が友人からどのような人間であると見られているのか、友人に比べて自分はどのような優れた部分があるのかといったことを考えることもあるだろう。つまり、ときには友人のことをライバル視して、例えば学習面において自分はどのような程度であるのかということを判断していくこともあるだろう。そのとき、比較する対象として、あまり親密でない他者よりも親密である他者を選ぶことが多いと思われる。そのため、友人に対して親しさを感じている場合に、その友人と自分を比較したりする過程の中から、周囲からの評価を気にしたりするようになるのではないかと思われる。




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