T.尺度の分析と信頼性
@育児ストレッサー尺度
育児ストレッサー尺度20項目のうち、"夫が育児に非協力的である"、"夫が
家事に非協力的である"の2項目は、父親育児サポートに対する期待感尺度・
実際の父親育児サポート尺度の内容と重複するため削除し、残りの18項目に
ついて因子分析を行った。主因子法により初期解を求め、プロマックス回転
を行った。その結果2因子を抽出した。第1因子は、"子どもが聞き分けがない
"、"どうしつけたらよいか分からなくなる"という項目から、子どもの問題行
動やしつけを表していると判断して、『子どもの問題行動としつけ』と命名
した。第2因子は、"自分の時間がない"、"子どもを育てるために我慢してい
ることがある"という項目から、育児による制約感を表していると判断して、
『育児による制約感』と命名した。次に、内的整合性を求めるために信頼性
係数を求めた。その結果、下位尺度1はα=.90、下位尺度2はα=.88であり、
内的整合性は確かめられた。なお、尺度項目採用の基準は.40以上である。
"育児は母親の仕事だと夫は思っている"という項目は、因子負荷量が.35、共
通性.17と低値であったため削除した。
A父親育児サポートに対する期待感尺度
父親育児サポートに対する期待感尺度の15項目について因子分析を行った。
主因子法により初期解を求め、プロマックス回転を行った。その結果2因子を
抽出した。第1因子は、"子どもに積極的に話しかけてくれること"、"子育て
の方針について、きちんと話し合いをしてくれること"という項目から、子育
てにおける態度を表していると判断して、『子育てにおける態度』と命名し
た。第2因子は、"子どもをお風呂に入れてくれること"、"掃除・洗濯・炊事
などの家事に協力してくれること"という項目から、具体的なサポートを表し
ていると判断して、『具体的サポート』と命名した。次に、内的整合性を求め
るために信頼性係数を求めた。その結果、下位尺度1は、α=.93、下位尺度2
はα=.82であり、内的整合性が確かめられた。なお、尺度項目採用の基準は
.40以上で、因子負荷量の差が±.10以上ある項目とした。"しつけ上のお手本
を自ら示してくれること"という項目は、因子負荷量が.30と低値であったため
削除した。"いざという時には、子どもの面倒を見てくれること"という項目は
、2因子両方に対して.40以上の因子負荷量を示したため削除した。
B実際の父親育児サポート尺度
実際の父親育児サポート尺度の15項目については、Aの父親育児サポートに
対する期待感尺度の項目と対応させて解釈するため、Aの父親育児サポートに
対する期待感尺度の因子分析の結果より2因子に分けた。次に、内的整合性を
求めるために信頼性係数を求めた。その結果、下位尺度1はα=.92、下位尺度
2はα=.81であり、内的整合性は確かめられた。
U.全尺度間の関連
全尺度間の関連を検討するために全尺度間の相関係数を求めた。
その結果、父親育児サポートに対する期待感の『子育てにおける態度』は、
父親のサポートに対する期待感の『具体的サポート』との間に正の相関が認め
られた(r=.67, p<.01)。父親育児サポートに対する期待感の『子育てにおけ
る態度』は、実際の父親育児サポートの『子育てにおける態度』との間に正の
相関が認められた(r=.42, p<.01)。父親育児サポートに対する期待感の『子
育てにおける態度』は、実際の父親育児サポートの『具体的サポート』との間
に正の相関が認められた(r=.30, p<.01)。父親育児サポートに対する期待感
の『具体的サポート』は、実際の父親育児サポートの『子育てにおける態度』
との間に正の相関が認められた(r=.20, p<.05)。また、父親育児サポートに
対する期待感の『具体的サポート』は、実際の父親育児サポートの『具体的サ
ポート』との間にも正の相関が認められた(r=.40, p<.01)。実際の父親育児
サポートの『育児における態度』は、実際の父親育児サポートの『具体的サポ
ート』との間に正の相関が認められた(r=.41, p<.01)。実際の父親育児サポ
ートの『育児における態度』は、心理的ストレス反応尺度との間に負の相関が
認められた(r=‐.19, p<.05)。育児ストレッサー尺度の『子どもの問題行動
としつけ』は、育児ストレッサー尺度の『育児による制約感』との間に正の相
関が認められた(r=.54, p<.01)。 育児ストレッサー尺度の『子どもの問題
行動としつけ』は、心理的ストレス反応尺度との間に正の相関が認められた(
r=.30, p<.01)。育児ストレッサー尺度の『育児による制約感』は心理的ス
トレス反応尺度との間に正の相関が認められた(r=.40, p<.01)。
V.「父親育児サポートに対する期待感」と「実際の父親育児サポート」が
「育児ストレッサー」に及ぼす影響
まず、「育児サポートに対する期待感」と「実際の父親育児サポート」を、
それぞれ中央値折半法でHigh群・Low群に分けた。
父親育児サポートに対する期待感と、実際の父親育児サポートを独立変数、
心理的ストレス反応を従属変数として、1要因分散分析を行った。
その結果、父親育児サポートに対する期待感との間には有意差は認められず
(F(1,111)=.00, n.s.)、実際の父親育児サポートとの間には有意な傾向が認め
られ、実際の父親育児サポートの主効果が認められた(F(1,111)=3.73, p<.10
)。つまり、実際の父親育児サポートが多い方が、育児ストレッサー得点は低
くなっている。
次に、育児サポートに対する期待感の下位尺度2つ、実際の父親育児サポー
トの下位尺度2つを、それぞれ中央値折半法でHigh群・Low群に分けた。
@)「父親育児サポートに対する期待感」と「実際の父親育児サポート」が『
子どもの問題行動としつけ』に及ぼす影響
父親育児サポートに対する期待感と実際の父親育児サポートそれぞれの『子
育てにおける態度』、父親育児サポートに対する期待感と実際の父親育児サポ
ートそれぞれの『具体的サポート』を、それぞれ独立変数、育児ストレッサー
尺度の『子どもの問題行動としつけ』を従属変数として、それぞれ2要因分散
分析を行った。
その結果、父親育児サポートに対する期待感の『子育てにおける態度』との
間には有意な差は見られず、実際の父親育児サポートの『子育てにおける態度
』との間にも有意な差は見られなかった(それぞれF(1,111)=.99; F(1,111)=2.
18 n.s.)。また、父親育児サポートに対する期待感の『具体的サポート』と
の間で、主効果が認められ、実際の父親育児サポートの『具体的サポート』と
の間で、主効果が認められた(それぞれF(1,111)=10.79,p<.05; F(1,111)=4.80
,p<.05)。つまり、『具体的サポート』に対する期待感が高い人の方が育児ス
トレッサー得点は高くなり、実際に『具体的サポート』が得られている人の方
が育児ストレッサー得点は低くなっていた。
A)「父親育児サポートに対する期待感」と「実際の父親育児サポート」が「
育児による制約感」に及ぼす影響
父親育児サポートに対する期待感と実際の父親育児サポートそれぞれの『子
育てにおける態度』、父親育児サポートに対する期待感と実際の父親育児サポ
ートそれぞれの『具体的サポート』を、それぞれ独立変数、育児ストレッサー
尺度の『育児による制約感』を従属変数として、それぞれ2要因分散分析を行
った。
その結果、どの変数とも有意な差は見られなかった(それぞれF(1,110)=2.03
; F(1,110)=1.88 n.s.)。
次に、父親育児サポートに対する期待感の合計得点から実際の父親育児サポ
ートの合計得点を引いた得点を出した。その得点を差得点と呼ぶこととする。
そして、差得点の値が0以下か0より大きいかで、父親育児サポートに対する期
待感の2因子それぞれのH・L群をさらに2つに分け、次のような4グループに
けた。これは、期待感も高く実際のサポートも多いという場合と、期待感も低
く実際のサポートも少ない場合を弁別できるようにするためである。例えば、
とても期待しているのに実際のサポートを得られておらず不満に思っている人
と、あまり期待はしていないが実際のサポートは十分得られており満足してい
る人とが、期待感と実際のサポートの差得点だけで見ると、2つの差得点の違
いが分からないことがあり、このようなことを防ぐためである。
B)期待感と実際のサポートのズレが『子どもの問題行動としつけ』に及ぼす
影響
父親育児サポートに対する期待感の『子育てにおける態度』の4グループ、『
具体的サポート』の4グループをそれぞれ独立変数、育児ストレッサー尺度の
『子どもの問題行動としつけ』を従属変数として、1要因分散分析を行った。
その結果、『子育てにおける態度』の4グループとの間には有意な差は見ら
れず(F(3,111)=.49 n.s.)、『具体的サポート』の4グループでは有意である
ことが示され(F(3,111)=3.43, p<.05)、TukeyのHSD法による多重比較の結果
、H不満AとL満足Aの平均値の間に有意な差が認められた。つまり、とても期
待しているが実際のサポートは得られていないグループの方が、あまり期待し
ておらず実際のサポートは十分に得られているグループよりも、『子どもの問
題行動としつけ』に関する育児ストレッサーが高いということが示された。
C)期待感と実際のサポートのズレが『育児による制約感』に及ぼす影響
父親育児サポートに対する期待感の『子育てにおける態度』の4グループ、
『具体的サポート』の4グループをそれぞれ独立変数、育児ストレッサー尺度
の『子どもの問題行動としつけ』を従属変数として、1要因分散分析を行った
。
その結果、『子育てにおける態度』『具体的サポート』のどちらの4グルー
プとも有意な差は見られなかった(それぞれ(F(3,110)=.398; (F(3,110)=1.34
n.s.)。
「育児ストレッサー」の下位尺度2つを、それぞれ中央折半法でHigh・Low群
に分け、下位尺度である『子どもの問題行動としつけ』と『育児による制約感』
を独立変数、「心理的ストレス反応」を従属変数として、2要因分散分析を行っ
た。
その結果、『子どもの問題行動としつけ』との間では、有意な傾向が認めら
れ(F(108,1)=3.03,p<.10)、「育児による制約感」との間では、で有意差
が認められ(F(108,1)=5.40,p<.05)、それぞれの変数の主効果が認められ
た。つまり、育児ストレッサーが高い母親の方が、低い母親よりも心理的スト
レス反応が高くなっているということが示された。
【考察】
T.「父親育児サポートに対する期待感」と「実際の父親育児サポート」が
「育児ストレッサー」に及ぼす影響
「育児ストレッサー」と「父親育児サポートに対する期待感」・「実際の父
親育児サポート」の分散分析結果から、実際の父親育児サポートが多い人の方
が、育児ストレッサーが低くなっているということが認められた。つまり、父
親が子どもの世話に積極的に参加したり、母親の気持ちや状況を察するなどの
サポートをするということは、子どもの問題行動などによる母親の育児ストレ
ッサーを低減させるのに有効であるということが言えるだろう。
次に、下位尺度ごとに検討した結果について考えてみる。
結果から、期待感の下位尺度である『具体的サポート』得点が高い人の方が
、育児ストレッサーの下位尺度である『子どもの問題行動としつけ』得点が高
くなっており、また、実際の父親育児サポートの下位尺度である『具体的サポ
ート』得点が低い人の方が、育児ストレッサーの下位尺度である『子どもの問
行動としつけ』得点が高くなっていた。『具体的サポート』の項目内容は、"
子どもをお風呂に入れてくれること"、"子どもがぐずったときにあやしてくれ
ること"などであり、『子どもの問題行動としつけ』の項目内容は、"どうしつ
けたらよいか分からなくなる"、"子どもがまとわりついて離れない"などであ
る。しかし、『子どもの問題行動としつけ』と「父親育児サポートに対する期
待感」・「実際の父親育児サポート」の下位尺度である『子育てにおける態度
』の間には直接的な影響は認められなかった。この結果について考えると、育
児中の母親は"子どもが言うことを聞かない"、"子どもがかんしゃくを起こす"
などのような具体的な子どもの問題行動に対することに対してストレスを感じ
ており、そのようなストレッサ―に対しては、実際に"子どもをお風呂に入れ
てくれる"などの父親の具体的なサポートが得られることが影響すると考えら
れる。一方、『子育てにおける態度』には、子育て全般にわたる内容が多いた
め、あまり影響が見られなかったのではないだろうか。このように考えると、
『具体的サポート』に対する父親への期待感が低い方が、『子どもの問題行動
としつけ』のような「育児ストレッサー」を低くすることに有効であると言え
、また、『具体的なサポート』を得られていることが、『子どもの問題行動と
しつけ』のような「育児ストレッサー」の低減には重要であると言えるだろう
。
また、育児ストレッサーの『育児による制約感』は、「父親育児サポートに
対する期待感」とも「実際の父親育児サポート」とも直接的な影響は認められ
なかった。このような結果になった背景について考えると、いくつかのことが
考えられる。1つ目は、現在の父親育児サポートの実態を考えると、平日は仕
事で忙しく週末に子どもの相手をするといったサポートが多いため、母親の仕
事の忙しさを和らげるほどの影響は認められなかったのかもしれないというこ
とであり、2つ目は、"自分の時間がない"などのようなことは、母親の内で起
こっている感情であるので、父親のサポートは影響しにくかったのかもしれな
いということである。3つ目は、『育児による制約感』は、『子どもの問題行
動としつけ』のような具体的な問題とは異なって、"自分の時間がない""子ど
ものために趣味や仕事を制約される"などの項目内容であり、これらのことは
、育児における様々な背景が重なって引き起こされており、父親育児サポート
以外の要因も影響していると考えられるため、「父親育児サポートに対する期
待感」「実際の父親育児サポート」のような、父親の育児サポートのみを聞く
項目では影響が見られなかったのかもしれないということである。
U.「父親育児ストレッサーに対する期待感」と実際のサポートのズレが
「育児ストレッサー」に及ぼす影響
「育児ストレッサー」の『子どもの問題行動としつけ』では、『具体的サポ
ート』に対する期待感が高い人で、期待よりも実際のサポートを得られていな
い人の方が、期待感が低い人で、期待以上に実際のサポートを得られている人
の方が、育児ストレッサーが高くなっている。これら以外のグループ間では影
響は認められなかった。
この結果について考えると、〈期待感も高いが実際のサポートも得られてい
る母親と、期待感は高いのに実際のサポートは得られていない母親〉、〈期待
感が低いが実際のサポートは得られている母親と、期待感は低いが実際のサポ
ートも得られていない母親〉、〈期待感が高いが実際のサポートも得られてい
る母親と、期待感は低く実際のサポートも得られていない母親〉の3組を比較
した時には有意差は見られなかったが、〈期待感は高いのに実際のサポートは
られていない母親と、期待感が低いが実際のサポートは得られている母親〉の
間には有意差が認められた。よって、仮説1と仮説2が部分的に支持されたと言
える。このことから、「期待しているのに実際のサポートが得られていない母
親」と「あまり期待していないが、実際のサポートを得られている母親」の間
で、明らかに満足感に差があり、そのことが育児ストレッサーの高さに影響し
ているということが考えられるだろう。このように考えると、期待感が高いの
に実際のサポートが得られていないという状態は育児ストレッサーを高くして
しまうため、期待感が高い母親に対しては期待感以上のサポートがどれだけ実
際になされているか、ということが重要であると言えるだろう。また、期待感
が低い母親で実際のサポートも得られているという状態であると育児ストレッ
サーも低くなっており、期待感が低い母親に対しても実際のサポートがなされ
ているということは育児ストレッサーを低くするために有効であると言えるだ
ろう。
V.「育児ストレッサー」が「心理的ストレス反応」に及ぼす影響
「育児ストレッサー」と「心理的ストレス反応」の分散分析の結果から、「
育児ストレッサー」の下位尺度『子どもの問題行動としつけ』得点が高い人の
方が、「心理的ストレス反応」得点が高くなっている。同様に、下位尺度の『
育児による制約感』得点が高い人の方が、「心理的ストレス反応」得点が高く
なっている。よって、仮説3は支持された。
また、「育児ストレッサー」と「心理的ストレス反応」の尺度間の相関が、
有意な正の相関を示していることから、「育児ストレッサー」と「心理的スト
レス反応」の関係性は高いと考えられる。
これらの結果から、育児ストレッサーを低めることは、母親の心理的ストレ
ス反応を低くし、精神的健康を維持することに有効であると言えるだろう。こ
のように、ストレッサーとストレス反応の関係性が高いという結果は、岡安ら
(1992)の研究結果とも合致している。
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