V.研究2(本調査)
1.方法
調査対象
県内のSCが配置されている中学校の教師184名。内訳は、男性118名、女性65名、不明1名。対象者の年代は、20歳代25名、30歳代58名、40歳代78名、50歳以上23名。役職は、管理職11名、生徒指導担当教諭18名、教育相談担当教諭4名、養護教諭7名、学年主任14名、担任83名、その他47名。ただし、生徒指導担当教諭及び教育相談担当教諭が担任やその他と兼務していると回答した場合、それぞれ生徒指導担当教諭と教育相談担当教諭に回答したものして示した。
調査内容
@SCと連携して生徒支援をしていくことに対する学校の状況(学校の連携状況):予備調査及び先行研究(伊藤,1997;鈴木ら,2001)を参考に全28項目を作成。
ASCと連携して生徒支援をしていくことに対する教師の意識・態度(教師の意識・態度):先行研究(瀬戸,2000;伊藤,2000)及び予備調査から全10項目を作成。
BSC配置による効果:予備調査及び瀬戸(2000)から全10項目を作成。
C連携上の問題:予備調査から全12項目を作成。
D現在のSC及びSCとの連携体制に対する満足度、必要度:全3項目。
以上のものを「とてもあてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「全くあてはまらない」の4件法で回答を求めた。
2.結果と考察
SC及びSCとの連携体制に関する教師の評価
「現在のSCとの連携体制に満足している」という項目に対し、「ややあてはまる」と回答したものが約半数を占め、「とてもあてはまる」と回答したものを合わせると現在のSCとの連携体制に満足していると回答したものは60%を超えた。しかし、「あまりあてはまらない」「全くあてはまらない」との回答も40%近くにのぼった。「現在のSCの活動に満足している」という項目に対しては、「とてもあてはまる」「ややあてはまる」と回答したものは合わせて65%以上みられた。教師の半数以上がSCの活動及びSCとの連携体制にある程度満足をしていると考えられる。また、「SCは今後も必要だと思う」という問いにいたっては、「とてもあてはまる」が約75%、「ややあてはまる」が約20%で、合わせると95%を超えた。現段階でSCが配置されている中学校の多くの教師がSCの必要性を強く感じていると推測される。
次に、SC配置による変化に対する評価を求め、それぞれの項目を平均得点(レンジは1〜4点)の高い順から示した(Fig.1)。「SCの存在が子どもたちの居場所として効果があったと思う」という項目の得点が最も高く、それに対し、「教師の負担が軽減した」という項目のみ、中間点(2.5点)を下回った。教師はSC配置による子どもへの効果は評価しているものの、必ずしも、それにより教師の負担が軽減されるわけではないことが示された。
Fig.1 SC配置による変化の各項目平均得点とその順位
各質問紙尺度の因子構造の検討
@学校の連携状況:
全28項目について主因子法・プロマックス回転を行った。第1因子は、「教師とSCの間で、生徒の様子について自由に話をする雰囲気がある」「SCには教師を協力して子どもを差立てていく姿勢がみられる」など6項目からなり、〈教師とSCの良好な関係〉(α=.92)と命名した。第2因子は、「教師、生徒、保護者とSCとの連絡調整がスムーズに行われている」「SCが参加する事例研究会や校内研修会が活発に行われている」など7項目からなり、〈学校の支援体制〉(α=.85)と命名した。同様に第3因子は、〈教師の教育相談への関心〉(α=.81)、第4因子は〈SCの積極的な活動〉(α=.85)と命名した。 因子分析結果
A教師の意識・態度:
全10項目について、主因子法・プロマックス回転を行った。第1因子は「非常勤であるSCに打ち明けるのは不安がある」「SCにはできれば自分の仕事に立ち入られたくない」など5項目からなり、〈連携への抵抗感〉(α=.79)と命名した。第2因子は、「生徒に対して、教育相談やSCについての広報活動や紹介を積極的に行った」など3項目からなり、〈積極的な関わり〉(α=.77)と命名した。 因子分析結果
BSC配置による効果:
全10項目について、因子分析を行ったところ、一因子性が確認された(α=.88)。
C連携上の問題:
全12項目について、主因子法・プロマックス回転を行った。第1因子は、「SCの勤務時間が少なく、生徒への継続的な相談活動が困難である」「長期にわたり一貫性あるSCの活動が困難である」など5項目からなり、〈連携上の制約〉(α=.87)と命名した。同様に、第2因子は〈SCの働きかけの弱さ〉(α=.78)と命名した。
各因子を構成する項目の合計得点を平均したものを、各尺度の下位得点として、その後の分析に用いることにした。
性別、役職などによる各因子得点の差
(1)性別による各因子得点の差
性別によって連携に対する意識に違いがあるのかを明らかにするために、上記の各尺度のそれぞれの因子についてt検定を行った(Fig.2)。その結果、〈連携への抵抗感〉において有意な差がみられた(t=2.13,
p<.05)。また、〈教師とSCの良好な関係〉と〈SC配置による効果〉では有意な傾向がみられた(それぞれ、t=-1.83,
p<.10 ; t=1.87, p<.10)。連携への抵抗感は女性の方が男性と比較して有意に小さく、女性の方が、学校の支援体制やSC配置による効果をより肯定的に評価していることが示唆された。このことから、女性はSCと連携して生徒支援を推進していくことに対して、男性ほど抵抗感はなく、また、SCとの関係は良好だとより感じており、SC配置による効果も男性より高く評価していると考えられる。
Fig.2 性別による各因子得点の差
(2)同じSCが継続して配置されている、されていない、による各因子得点の差
全ての調査協力校で2年以上SCが配置されていることから、去年と同じSCが継続して配置されている、いないによる各因子得点に差があるのかを検討するため、t検定を行った。その結果をFig.3に示した。その結果、全ての因子において有意な差が見出された。つまり、去年と同じSCが配置されている中学校の教師は、去年と異なるSCが配置されている中学校の教師と比べて、学校の連携状況をより肯定的に評価しており、教師自身連携に対する抵抗感も小さく、連携に対して積極的に関わっていると評価していることが示された。さらに、SC配置による効果に対する評価も高く、SCの働きかけの弱さを感じることは、去年と異なるSCが配置されている中学校の教師と比較して小さいことが明らかにされた。
Fig.3 同じSCの継続配置の有無
役職別による各因子得点の差
役職4水準(管理職、生徒指導担当教諭・教育相談担当教諭、養護教諭、その他の教師)を独立変数としてそれぞれの因子について分散分析を行った。その結果、〈積極的な関わり〉において、有意差がみられ(F(3,180)=8.91,
p<.01)、多重比較の結果、その他の教師と生徒指導担当教諭・教育相談担当教諭、その他の教師と養護教諭との間にそれぞれ有意な差がみられた(その他<生指・教相、その他<養護)。また、「SC配置による効果」においても有意な差がみられたが(F(3.174)=2.69,
p<.05)、多重比較で有意な差は見出されなかった。
〈学校の支援体制〉では、有意な傾向がみられ(F(3,171)=2.20, p<.10)、多重比較の結果、管理職とその他の教師の間に有意な傾向がみられた(その他<管理職)。
生徒指導担当教諭・教育相談担当教諭や養護教諭はその他の教師よりも、積極的にSCとの連携に関わっていることが示唆された。また、その他の教師は管理職が評価しているほどは学校の支援体制が整っていると評価していないのではないかと思われる。
Fig.4 役職による各因子得点の差
4.SC配置による効果H群、L群による比較
SC配置による効果と各因子との関連をより明確にするため、SC配置による効果H、L群によるt検定を行った(Fig.5)。その結果、全てに有意な差が見出された。このことから、SC配置による効果を高く評価している教師は、教師とSCが良好な関係を築けており、学校の連携体制も整っており、その学校の教師が教育相談に対して関心を強く持っており、またそれらの学校や教師側の要因に加え、SC自身も積極的な活動を行っていることが示唆される。
Fig.5 SC配置による変化H・L群による比較
5.「SC配置による効果」に「教師の意識・態度」及び「学校の連携状況」が及ぼす影響
「SC配置による効果」に「教師の意識・態度」及び「学校の連携状況」が及ぼす影響について明らかにするため、「教師の意識・態度」の下位尺度得点を従属変数、「学校の連携状況」の下位尺度得点を説明変数とした重回帰分析を行った。
その結果、教師の〈連携への抵抗感〉は〈教師とSCの良好な関係〉からのみ、中程度の負の影響(β=-0.43,
p<.01)を受けていることが示された。つまり、〈教師とSCの良好な関係〉が教師の連携への抵抗感を小さくさせること、〈学校の支援体制〉や〈SCの積極的な関わり〉は教師の連携への抵抗感に影響を及ぼす要因にはあまりならないことが示唆された。
また、教師の〈積極的な関わり〉は、〈教師とSCの良好な関係〉よりやや弱い正の影響(β=.39,
p<.01)を、〈学校の支援体制〉より弱い正の影響(β=.22, p<.05)を受けていることが示された。つまり、〈教師とSCの良好な関係〉及び〈学校の支援体制〉が教師の積極的な関わりを高める影響を持つこと、〈教師の教育相談への関心〉や〈SCの積極的な関わり〉は教師の積極的な関わりにはほとんど影響を及ぼさないことが示唆された。
次に、「SC配置による効果」を従属変数、「教師の意識・態度」の下位尺度得点を説明変数とした重回帰分析を行ったところ、「配置による効果」は教師の〈連携への抵抗感〉から弱い負の影響(β=-.23,
p<.01)を、〈積極的な関わり〉から中程度の正の影響(β=.47, p<.01)を受けていることが示唆された。
すなわち、SC配置による効果を高めるには、連携への抵抗感を小さくすることが有効であり、そのためには、教師・SCが共通理解をもったり信頼関係を築くことが有効だと思われる。さらに、教師自身が積極的に関わることがSC配置による効果を高めるのに有効であり、そのためには、教師・SCが共通理解をもったり信頼関係を築くとともに、学校の支援体制を整えることが有効であると思われる。