本研究では、シャイネスに対する治療アプローチとしての社会的スキルトレーニングで中心となる主張性スキルとシャイネスの関連をより詳しく検討するため、シャイネスの特性である「対人不安傾向」と「対人消極傾向」を独立したものとして測定し、それらの強度の違いによって組み合わされたシャイネスのサブタイプによっては、所有するまたは欠如している主張性スキルの側面が異なっているかどうかを検討することが第1の目的であった。更に様々な対人場面で、他者との相互作用を円滑に進める際に重要となる社会的スキルの1つである主張性スキルを取り上げ、対人場面でのストレッサーとなりうる対人ストレスイベントと主張性スキル及びシャイネスとの関連を明らかにしていくことが、第2の目的であった。 以下では、得られた結果をもとに仮説の検証と考察を行っていくこととする。
1.各尺度の因子分析結果
2.仮説1について
3.仮説2について
4.仮説3について
1.各尺度の因子分析結果
各尺度について主因子法およびプロマックス回転による因子分析を行なった。
シャイネス尺度の因子分析の結果、2因子が抽出された。
第1因子は対人場面における消極傾向を表す項目が多く見られたことから、"対人消極傾向"と命名した。
第2因子は、対人場面における不安傾向を表す項目が見られたため、"対人不安傾向"と命名した。これは、菅原(1998)による結果とほぼ一致する。
更に、菅原(1997)をもとに、シャイネスを構成する、2つの独立した個人特性「対人不安傾向」と「対人消極傾向」を測定し、それら2つの傾向を平均点の高低によって組み合わせ、被調査者を4つのサブタイプ(「高不安―消極群」「高不安―積極群」「低不安―消極群」「低不安―積極群」)に分類したものを分析に用いた。
主張性スキル尺度の因子分析の結果、5因子が抽出された。
第1因子は、自己の権利を主張し、理不尽な要求等を攻撃的でない方法で拒絶する能力を表す項目が見られたため、"権利防衛"と命名した。
第2因子は、他者に対して賞賛、感謝等の肯定的な感情を表明する能力を表す項目が見られたため"肯定的な感情・思考の表明"と命名した。
第3因子は、不愉快な行動を変えるように他者の権利を侵害しない範囲で要求したり、他者とは異なる意見を攻撃的ではない方法で述べるといったような項目が見られたことから"否定的な意見・感情の表明"と命名した。"否定的"としたのは、働きかけた他者が、その内容によっては、否定的な意見・感情として捉えてしまい、対人関係上のリスクを引き起こしてしまう事が考えられるためである。
第4因子は、自己の過ちを認め、自己に向けられた批判等を処理する能力を表す項目が見られたため"個人的限界の表明"と命名した。
第5因子は、自分一人では対処できない問題に関して、他者の権利を侵害しない範囲で援助を要求する能力を表す項目が見られたため"援助要請"と命名した。
対人ストレスイベント尺度の因子分析の結果、3因子が抽出された。
第1因子は、対人場面において劣等感を感じる出来事を表す項目が見られたことから"対人劣等"と命名した。
第2因子は、対人場面において対人葛藤を引き起こすような出来事を表す項目が見られたことから"対人葛藤"と命名した。
第3因子は、対人関係を円滑に進めるに伴う気疲れを引き起こす出来事を表す項目が見られたことから"対人磨耗"と命名した。これは、橋本(1997)とほぼ同一の因子構造が示された。
2.仮説1について
「高不安―消極群」と「高不安―積極群」とでは否定的もしくは葛藤をはらむ主張に関するスキルの高さに差はないが、「高不安―積極群」の方が対人関係を円滑にするための肯定的な反応を含む主張に関するスキルの程度はより高い。
シャイネスの各タイプによって、主張性スキルの高さが変わるのかどうかを明らかにするため、因子分析で得られた5つの主張性スキル因子(「権利防衛」「肯定的な感情・思考表明」「否定的な意見・感情表明」「個人的限界の表明」「援助要請」)について、シャイネスの各群(4)を独立変数とした1要因分散分析を行なった。その結果、「援助要請」スキルを除く、4つの主張性スキル(「権利防衛」「肯定的な感情・思考表明」「否定的な感情・意見表明」「個人的限界の表明」)について、有意な差がみられた。更に、シャイネス群のどこに差があるかを調べるために、多重比較(Tukey法)を行なった。
その結果、「対人不安傾向」の高い「高不安―消極群」と「高不安―積極群」の間に、「権利防衛」「否定的な感情・意見表明」スキル得点において、有意な差がないことが明らかになった。しかし、他者に対して賞賛、感謝等の肯定的な感情を表明する「肯定的な感情・思考表明」スキルに、有意傾向がみられた。この結果から、対人場面に積極的に関わろうとする「高不安―積極群」が、対人関係を開始・維持するために、「肯定的な感情・思考表明」スキルを用いていることが考えられる。また、「対人不安傾向」の高いシャイな人物に関しては、自己効力感の低さや、他者からの否定的評価を過度に恐れるといった歪んだ認知傾向が強いために、自分の権利を防衛したり、遠慮なく自分の意見を述べるといった行動を実行に移すことが難しいと考えられる。
肯定的感情・思考表明得点
以上の結果より、他者と関わることに不安を感じ、対人的な相互場面から遠ざかる「高不安―消極群」よりも、他者と関わることに不安を感じながらも、他者との関係を積極的に持とうとする「高不安―積極群」の方が、他者に対して賞賛、感謝等の肯定的な感情を表明するといった肯定的な主張性反応を含む「肯定的な感情・思考表明」スキルが高くなることが明らかにされた。また、否定的ないし葛藤をはらむ主張的反応を含む「権利防衛」「否定的な感情・意見表明」スキルは「高不安―消極群」と「高不安―積極群」との間で、同程度であることが明らかになった。よって、仮説1は一部支持されたといえるだろう。このことから、シャイネスと主張性スキルの欠如は、同一のものとして見なされることが多いが、シャイネスのサブタイプの違いによっては、所持するスキルの種類・程度が異なることが一応は、示されたといえる。
大坊(2003)は、特定の対人場面を苦手とする者が何らかの基準で幾つかの群に分けられるとすれば、そのグループに対して、異なった訓練内容を適用できるといった社会的スキルトレーニングの応用可能性を示唆している。社会的スキルトレーニングでは、訓練の際、苦手意識・遂行不安といった認知的な問題や、根本的なスキル欠如の問題が注目されるが、シャイネスの社会的スキルトレーニングを行なう際は、アセスメントによりその個人差を見極め、それぞれの問題点を明確にすることでより効果的な介入による解決が可能となるであろう。
よって、シャイネスに注目した本研究においては、シャイネスの独立した特性である「対人消極傾向」「対人不安傾向」の傾向の強さによって、所有するまたは欠如している社会的スキルの側面が異なっていることが明らかとなった。これらの結果より、シャイネスの異なるタイプを見極め、社会的スキルトレーニングを柔軟に適用していく必要性があるといえる。
3.仮説2について
主張性スキルが低い程、より多くの対人ストレスイベントを経験する。
主張性スキルの高さによって、対人ストレスイベントの経験の頻度が変わってくるのかどうかを調べるために、主張性スキル因子合計得点の平均値を算出し、平均値以上・未満の被験者をそれぞれ「主張性スキル高群」「主張性スキル低群」として分類し、これらを独立変数、対人ストレスイベント得点(「対人劣等得点」「対人葛藤得点」「対人磨耗得点」)をそれぞれ従属変数とした1要因分散分析を行なった。
その結果、すべての対人ストレスイベントについて1%水準で有意な差が見られた。以上の2つの分析結果より、主張性スキルが低い程、対人ストレスイベントをより多く経験していることが示され、仮説2は支持されたといえる。
先行研究で(橋本,2000)、他者と対等にコミュニケーションが取れないことで引き起こされる「対人劣等」について、社会的スキル欠如がその生起に関わっていることが示唆されている。本研究でも同様に、主張性スキルと「対人劣等」の間に負の相関がみられたことから、社会的スキルの一つである主張性スキルの欠如が「対人劣等」の生起と関連があることが示された。更に主張性スキルの欠如は、「対人劣等」のみならず、「対人葛藤」「対人摩耗」を含むすべての対人ストレスイベントの生起に関わっていることも明らかになった。これらの結果から、自分の言いたいことや感情を相手の事も考慮しつつ表明する主張性スキルは、対人関係から引き起こる否定的な影響に対処していくための重要な個人的要因であると考えられる。
4.仮説3について
高い不安を感じながらも人と積極的に関わろうとする「高不安―積極群」は、シャイネスの他のタイプと比べて、肯定的な主張性スキルが高いほど、対人磨耗をより頻繁に経験している。また、「高不安―消極群」は、シャイネスの他のタイプと比べて、主張性スキルの低さから対人劣等・対人葛藤をより頻繁に経験している。
各シャイネス群及び主張性スキルによって、各対人ストレスイベントの経験の頻度が変わるのかどうかを検討するために、シャイネス4群と5つの主張性スキル得点(「権利防衛」「肯定的な感情・思考表明」「否定的な感情・意見表明」「個人的限界の表明」「援助要請」)を平均値以上・未満で、高低に分けたものを独立変数とし、各対人ストレスイベント得点(「対人劣等」「対人葛藤」「対人摩耗」)を従属変数とする、シャイネス(4)×主張性スキル(2)の2要因分散分析を行なった。
「対人劣等」について、「権利防衛」「否定的な感情・意見表明」「個人的限界の表明」「援助要請」スキルが低い群が、高い群よりも「対人劣等」をより経験していることが明らかになった。さらに、多重比較の結果より、「高不安―消極群」と「低不安―積極群」は、低い2群に比べて「対人劣等」をより経験していることが明らかになった。
これらの結果から、シャイネスを規定する特性の1つである「対人不安傾向」の高さと以上4つの主張性スキルの低さが、「対人劣等」の生起に関連していると考えられる。これは、本研究での結果と同様に、「対人劣等」は、ほとんど全ての主張性スキルと関連していることから、主張性スキルのどの側面が欠如しているかというよりも、主張性スキルの欠如によって、様々な対人場面でうまく振舞うことができず、他者との相互作用において、不全感を抱きやすくなり、結果「対人劣等」を頻繁に経験するといったことが考えられる。また、対人場面で不安を持つシャイな人物は、自尊心が低く、対人場面での些細な失敗することで、他者からよく思われていないと信じ込み、自己を過度に否定的に捉えてしまうといわれている(後藤,2000)。結果、対人場面においては、自己を否定的に捉えることで、「対人劣等」を感じる頻度が多くなってしまうと考えられる。更に、結果から、他者と関わりの中で、不安を感じるシャイな人物は、主張性スキルが不足している場合には、「対人劣等」をより頻繁に経験していることが考えられる。つまり、主張性スキルの欠如は、対人場面で不適切な自己主張を招き、「対人不安傾向」の高さは、そのような適切な行動が取れない自己に対して、より否定的な認知を抱かせるといった「対人劣等」をより頻繁に経験しやすくなるといった事態を引き起こすことが考えられる。
「対人葛藤」については、「肯定的な感情・思考表明」「個人的限界の表明」「援助要請」スキルが低い群が、高い群よりも、「対人葛藤」をより経験していることが明らかになった。つまり、「肯定的な感情・思考表明」「個人的限界の表明」「援助要請」スキルの低い人物は「対人葛藤」を引き起こす事態に対処できず、ストレスを感じているといったことが考えられる。また、「対人磨耗」に関しては、「肯定的な感情・思考表明」「否定的な感情・意見表明」「個人的限界の表明」スキルが低い群が、高い群よりも「対人摩耗」をより経験していることが明らかになった。更に、「対人葛藤」及び「対人摩耗」について、シャイネスの主効果がみられなかったことから、シャイな人物の特性である、対人場面において不安を感じる、もしくは他者と積極的に関わることを避けるといった傾向のみでは、「対人葛藤」「対人摩耗」の生起を促す要因とはならないことが明らかとなった。
以上の結果から、「高不安―消極群」は、シャイネスの他のタイプと比べて、主張性スキルが低さから、対人劣等をより頻繁に経験しているという仮説は支持されたといえる。しかし、「対人劣等」について、シャイネスの主効果がみられなかったことから、「高不安―消極群」は、シャイネスの他のタイプと比べて、「対人葛藤」をより頻繁に経験しているという仮説は支持されなかった。また、「対人摩耗」についての、シャイネス(4)×「肯定的な感情・思考表明」(2)の2要因分散分析で、交互作用がみられなかったことから、不安を感じながらも、他者と積極的に関わろうとする「高不安―積極群」は、シャイネスの他のタイプと比べて、肯定的な反応を含む主張性スキルが高いほど、「対人摩耗」をより頻繁に経験しているという仮説は支持されなかった。よって、シャイネスは、「対人葛藤」「対人摩耗」の生起に関連なく、「肯定的な感情・思考表明」「個人的限界の表明」「援助要請」スキルの欠如が、「対人葛藤」の生起に関連していることが示された。これは、シャイな人物でも、「肯定的な感情・思考表明」「否定的な感情・意見表明」「「個人的限界の表明」「援助要請」スキルを習得しているか否かで、「対人葛藤」や「対人摩耗」の経験の頻度が変わってくることが考えられる。また、本研究では、シャイネスは主張性スキル欠如をもたらす可能性が示されていることから、シャイネスは、「対人葛藤」「対人摩耗」の生起に直接的な関連は持たないものの、それら対人ストレスイベントを促進すると思われる主張性スキル欠如を媒介するといった関係にあることが予測される。
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