※要約
1.主張性スキル
2.シャイネス
3.シャイネスと主張性スキル
4.シャイネス・主張性スキルと対人ストレスイベント
※要約
他者と相互理解しあい、対人関係をより適応的に維持、発展させていくためには、適切に自他の考えや感情を伝え合うことが重要である。そのような円滑な対人関係を運営し、適応的な生活を送っていくために、社会的スキルの1つである主張性スキルを習得し発揮することは、我々にとって、非常に重要な課題であるといえる。すなわち、この主張性スキルが欠如することによって、様々な対人的不適応が引き起こされることが考えられる。対人的不適応と主張性スキル欠如に深く関連する概念として、シャイネスが挙げられる。シャイネス傾向が強い人物は、対人場面において発生する赤面・発汗、他者と関わる際に起こる強い不安感や、望ましい行動が抑制的などから、対人関係に障害をきたすといわれている。シャイネスに関する、心理学的研究においては、シャイネスによる対人的障害の実態とその原因を明らかにし、それを改善するための研究が多くなされている。近年では、適応的な対人関係を築くために必要とされる社会的スキル欠如の解消を目指して、社会的スキル訓練などの効果を検討する研究が多くなされている。シャイな人物の場合、一般的に主張性スキルが欠如しているといわれており、その治療・改善では主張性スキルを習得し、更にスキル実行を妨害しているとされるシャイネス独特の認知傾向を改善することで、人間関係の中で積極的に主張性スキルを発揮できるようになる事が目標とされている。しかし、必ずしも思うような訓練効果が得られていないのが現状である。よって、社会的スキル訓練を効果的に行なうためには、個人の欠如しているスキルに対して適切に介入し、そのスキルを向上させなければならない。これらのことから、シャイな人物が社会的スキルを向上させ、対人的不適応を解決していくためには、シャイな人物の社会的スキルに関する問題と、スキル欠如によってもたらされる対人的不適応の実態及び原因を、より詳しく調べていく必要性があるいえる。よって、本研究では、シャイな人物のスキルに関する問題を明らかにするため、シャイネスに対する治療アプローチとしての社会的スキルトレーニングで中心となる主張性スキルとシャイネスの関連を検討していく。更に、シャイな人物のスキル欠如によってもたらされる対人的不適応の実態及び原因を明らかにするため、対人場面で不安感を感じたり、他者との積極的な関わりを避けるシャイな人物にとって、どのような対人関係がストレスとなるのかという事に焦点を当て、ストレスを生じさせる直接的な要因である対人ストレスイベントと主張性スキルとの関連を検討していく。
以上の問題と目的を踏まえ、以下では、本研究で取り扱う個々の概念とそれらの関連について、更に詳しく述べていく。
1.主張性スキル
我々は他者との関係の中で生きており、一生の内に様々な人間関係を築く。多くの人は、他者とどう接してよいかわからずに、人間関係をうまく築く事がでないことに悩み、そしてより豊かなで円滑な人間関係の中に身を置きたいと望んでいる。人間関係は、コミュニケーションの受け手と伝え手で成り立っており、お互いがメッセージを適切に送り、受けることによって円滑に展開される。このように適切な関係を築き、維持発展させていくためには、コミュニケーションに関わる双方が社会的に適切な方法を用いて、自分の考えや感情を伝えていく必要があるといえる。このような円滑で適切な関係を促進する要因として、社会的スキルが注目されている。社会的スキルは学習可能であり、トレーニングなどにより身に付けることで、コミュニケーション不全を解決し、人間関係をより豊かにしていくことが可能であると考えられる。
社会的スキル(social skill)は、近年、パーソナリティを規定する要因の1つとして、もしくはそのものを個人特性の1つとして取り扱われることが多く(大坊, 2003)、研究者によって様々な定義がなされている。社会的スキルは様々な側面を持ち、その構造は多次元であるため、どのような側面に注目するかによって定義は様々であるが、人が対人関係を円滑に開始する、あるいは対人関係を維持するために、相手に効果的に反応する際に用いる言語的、非言語的な行動レパートリー(相川,1993)などと、状況に応じて、適切な対人行動をとれるかどうかを問題として、定義されていることが多い。つまり、社会的な受容と個人の社会的適応を前提として、適切な対人行動をとることができる場合に、社会的スキルが備わっているといえる(大坊,2003)。
社会的スキルの1つとして、自己主張あるいは主張的行動は対人関係不安を低減させる働きや、対人行動ストレスに対処する際に重要な働きをすると言われており、臨床・教育などの様々な分野で重要視され、研究対象とされてきた。自己主張や主張的行動の定義も社会的スキルと同様に、統一的な定義はなく多様であるとされている。大坊(1999)によると、定義の分類は「権利主張」「自尊心の維持」「意思・感情表明」「他者尊重」「適切な表現」など着目する点は多様であるいわれている。一般的に、自己主張あるいは主張的行動は、「自分の権利も相手の権利も尊重しつつ、思っていること、考えていることを素直に表現する」(相川,2000,平木,1993,2000)「自分自身の権利あるいは感情などを社会的に容認される形で、率直に表明する行動」(古市ら、1991)などとされ、攻撃的、もしくは不安を伴うものと区別されて定義されているものが多い。 自己主張・主張的行動の具体的な反応には、代表的なものとして「自分の欠点を受け入れる」「賛辞を与え、受け取る」「人との関係を開始し維持する」「肯定的感情を表現する」という肯定的反応と、「人気のない意見や人と違った意見を表明する」「行動を変えるよう依頼する」「不合理な要求を拒否する」といった否定的ないしは葛藤をはらむ反応などがあげられる(相川,2000)。このように自己主張・主張的行動を構成している要素は、多次元的であるが、その根本には、様々な対人場面で適切に振る舞い、自他の権利を共に尊重しつつ、対人関係を円滑に進めるという考え方が存在するといえる。
2.シャイネス
シャイネスは、個人の社会適応に重要な影響を及ぼす個人特性の1つであり、これまでにその心理メカニズムや形成過程、あるいは治療的、教育的関与の方法について社会心理学、発達心理学、あるいは行動療法を中心とする臨床心理学などから多大な関心がはらわれてきた(菅原, 1996)。
多くの場合、シャイネスは対人不安研究の一環として位置付けられているが、研究者によってそれぞれ異なった定義がなされており、個人の主観的経験(感情的側面と認知的側面)と特有の外顕的行動という2つの側面から操作的に定義されている。その二側面での特徴が並存する場合のみをシャイネスとみなすのか、また具体的にどのような主観的経験や外顕的行動をシャイネスとみなすのかという点などで研究者間の合意が得られていない。Zimbardoは、シャイネスについて定義する事を差し控えており、その代わりに、それぞれ、研究者が自前の定義を使用することを認めている。しかし、彼は、シャイネスの構造について明確な定義はしていないが、「人への恐れ」であるということを指摘している。後藤(2001)は、シャイネスの特徴として、シャイな人物の主観的な経験(情緒的不安定や自尊感情の低さ、不合理で自己非難的思考などの感情的・認知的要素)から説明されるものであることを指摘している。また、Leary(1983)も、シャイネスは懸念や神経過敏等の主観的経験を指すときに用いるべきであると示唆している。これは、対人不安感を抱いているにも関わらず、周りの人には全く気付かれない人が存在するのと同様に、シャイネスが高い人の中にも、一見全くシャイに見えないような人物が見られる事や、シャイネス経験が主観的であり個々人に応じて多様であるとする研究知見によるものである。しかし、現在では、BussやCheekなどによって提唱されている、シャイネスの3要素モデルがシャイネス研究の主流となってきている。感情、行動、認知の3要素の特徴いずれか一つでも顕著に認められれば、それをシャイネスとみなすという、より包括的な見方が定着しつつあるといわれている(後藤、2001)。この3要素からシャイネスの高い人の特徴を説明すると、対人場面での情動的覚醒の自覚と身体的特徴(赤面・動悸・発汗)、本人が望んでいるような社会的行動の抑制、公的自己意識が高く、他者からの否定的評価の懸念と自己非難的思考等が挙げられている(Cheek&Watson,1989)。
岸本(1999)は、シャイネスに関してはこれら3要素全てが重要であるが、そのうちのどれか一つがシャイな人の経験の普遍的な側面というわけではなく、つまり、シャイネスの症状あるいは要素の組合せによって幾つかのサブタイプが存在すると述べている。菅原(1998)は、不安に耐えながら積極的な社会活動を行なっている人々の存在や、不安傾向の高さが必然的に対人関係からの撤退を促すものでない事を考慮し、シャイネスとは不安傾向と消極傾向という2つの独立した個人特性の組合せによって構成されているとし、シャイネスの異なる特性次元として「対人不安傾向」、「対人消極傾向」を取り上げた。公的自己意識の高さと拒否回避要求の高さに特徴づけられる「対人不安傾向」は、他者から拒否されることに強い警戒感を持ち、他者の言動に注意を向ける「否定的評価に対する過敏さ」の表れであり、一方社会的スキルの低さと賞賛欲求の低さによって特徴づけられる「対人消極傾向」は、他者から期待され、望ましい関係を築くという目的そのものを喪失した「対人関係に対する無力感」の表れであると説明している。
以上のことから、本研究ではシャイネスを「特定の対人状況において、他者からの評価に直面したり、もしくは想像したりすることから生じる自己非難的思考を伴った不安、緊張あるいは抑制された行動傾向」として扱う。また、一見シャイには見えないシャイな人々の存在を考慮し、シャイネスを菅原(1998)の提唱する「対人不安傾向」「対人消極傾向」の2つを独立した特性からなるものとして取り上げ、これら2つの傾向を組合せて、シャイネスを4つの群に分類して取り上げていく。4つの群は、それぞれ「高不安―消極群」(他者と関わることに不安を感じ、対人的な相互場面から遠ざかる人物)「高不安―積極群」(他者と関わることに不安を感じつつ、他者との関係を積極的に持とうとする人物)「低不安―消極群」(他者と関わることに不安を感じはしないが、積極的に他者と関係をもたない人物)「低不安―積極群」(他者と関わる際に不安を感じる事はなく、他者との関係を積極的に持とうとする人物)である。
3.シャイネスと主張性スキル
社会的スキルの実行や獲得を妨げ、円滑な対人関係を築くことを困難にし、対人的不適応を引き起こす要因についての研究やそれを改善するためのプログラム等がいくつか研究されてきている。その中でシャイネスは、自己主張・主張的行動と反対の対人的不適応に関わる概念であり社会的スキルと大いに関連するものとして注目されている。
一般的にシャイネスが大きな問題になるのは、主観的な認知や内的な懸念よりも、公的な場面で表出してしまう稚拙な行動であり、それによって引き起こされる自己否定的な認知から逃れるために、対人的行動を抑制・回避し、その結果対人行動の練習や報酬の不足を招くことであるといわれている。よってシャイネスに対する治療的アプローチは、対人行動練習の不足等を補うために社会的スキルの欠如を解消し、人間関係の中で積極的に自己主張あるいは主張的行動をとる方向へと導く目的で進められてきている(後藤,2003)。このような流れの中で、相川(1998,2000)は、シャイな人物に対する社会的スキル訓練の試みを行っている。しかし、訓練の適用例は、必ずしも思うような訓練効果が得られていないのが現状である。スキル訓練を効果的に行なうためには、個人の欠如しているスキルに対して適切に介入し、そのスキルを向上させる必要がある。よって、シャイな人物が訓練を受ける際は、どのような社会的スキルを持っているのか、また社会的スキルの何処に問題があるのかを更に明らかにすべきである。これらが明らかになることにより、シャイな人物が様々な対人場面で適切な行動をとり、適応していくための援助をする手がかりが、より多く得られると考えられるためである。
ところで、先述したとおり自己主張・主張的行動は肯定的なものから、否定的なものまで様々な反応があるとされており、単一の特性あるいは行動傾向というよりも、むしろ多面的な内容を持つものとして捉えられている。シャイな人物にとって、否定的ないしは葛藤をはらむような主張を行なうのは難しいであろうことは簡単に想像がつくが、自己主張の肯定的な反応の程度においては、シャイネスの個人差を規定する「対人不安傾向」「対人消極傾向」の傾向の強さによって差があると考えられる。例えば、古市(1993)は、自己主張の程度や側面が、性差や性格特性によって異なることを確認している。このことから、シャイネスというパーソナリティ特性を規定する自己主張性スキルの程度や種類が、シャイネスの個人差によっても異なってくることが考えられる。シャイネスの類型に関して、菅原(1998)は、「対人不安傾向」と「対人消極傾向」の両傾向を組み合わせて、「高不安―消極群」(対人場面で不安になり、かつ回避的・拒否的である=対人不安傾向・対人消極傾向の強い人物)、「高不安―積極群」(対人場面で不安になっても回避的でない=対人不安傾向は強いが対人消極傾向は強くない人物)、「低不安―消極群」、「低不安―積極群」に分けている。先述したように、「高不安―積極群」は、他者から拒否される事に強い警戒感を抱いているにも関わらず、積極的に他者と関わることから、不安を感じながら気を使いながらではあるが、他者との関係を維持するためのスキルを使用していると考えられる。対人関係を円滑に運ぶために用いられるのが社会的スキルであり、その一部で重要な位置を占める主張性スキルを、上記で述べたように、シャイで対人不安感を抱いているにも関わらず、周りの人には全く気付かれないような人物が、多少なりとも使用している可能性があると考えられる。このことから、次のような仮説を導く事ができる。
仮説1
「高不安―消極群」と「高不安―積極群」とでは否定的もしくは葛藤をはらむ主張に関するスキルの高さに差はないが、「高不安―積極群」の方が対人関係を円滑にするための肯定的な反応を含む主張に関するスキルの程度はより高い。
4.シャイネス・主張性スキルと対人ストレスイベント
対人関係は、個人に精神的/身体的健康の維持・促進に肯定的影響を及ぼし、社会的スキルを学ぶ場として個人の成長や自律を促す重要なものである。しかし、橋本(1995,1997)は、対人関係が深刻なストレッサーとして、否定的影響をもたらす事を述べており、そのストレッサーとなりうるライフイベントの1つとして、対人ストレスイベントを取り上げ、それらの分類を行なっている。主に、@対人葛藤(社会の規範から逸脱した顕在的な対人衝突事態)、A対人劣等(社会的スキルの欠如などにより劣等感を触発する事態)、B対人磨耗(対人関係を円滑に進めることに伴い気疲れを引き起こす事態)の3種類に分類されている。これら、ストレスの直接的な規定因となると言われているストレスイベントの生起は、最近の研究で部分的にはパーソナリティに起因する事が示されており(Magnus, Diener, Fujita, &Pavot,1993)、個人的要因(パーソナリティや性差など)がライフイベントの生起を規定していることを示唆している(橋本,1997)。これらのことから、個人の内的要因の1つである社会的スキルが、対人ストレスイベントの経験のしやすさを媒介している可能性が考えられる。橋本(2000)は、菊池・堀毛(1994)のKiss-18を用いて、各対人ストレスイベントと社会的スキルの関連を検討する研究を行なっており、社会的スキルが対人劣等と負の相関、対人葛藤・対人磨耗とは無相関という結果を得ており、社会的スキルの保持が、必ずしも全ての否定的対人関係の抑制に有効であるとは限らないと結論付けている。しかし、社会的スキルは様々な側面を持ち、その構造は多次元であり、その測定されるレベルも様々であるといわれている(大坊,1998)。つまり、各対人ストレスイベントと関連する社会的スキルがどのようなものであるかは、明らかにされていない。扇子ら(2001)は、学校ストレスと濱口(1994)によって分類された複数の主張性スキルの関係を場面ごとに検討し、主張性が低くなるほどストレス度が高くなることを明らかにしている。
このような研究結果より、主張性スキルはストレスの起因に関連していると推測される。よって、本研究では、引き続き社会的スキルの中の主張性スキルを取り上げ、ストレスを引き起こすとされる対人ストレスイベントとの関連を検討していく。 また、シャイネスと対人ストレスイベントに関して、シャイな人物にとって、様々な他人と相互作用を試みなければならない対人関係は、多かれ少なかれ苦痛をもたらすものであり、対人関係から否定的影響を受けやすいと考えられる。このことから、シャイネスの各類型を考慮し、シャイネスによってもたらされる対人ストレスイベントを推測すると、「高不安―積極群」は、不安が強いにもかかわらず、他者と関わることから、その否定的影響を受けやすいと思われる。彼らは、表面的には、社会的スキルを利用し、問題のない相互作用を実現・維持していても、内心では気疲れを感じている可能性がある。よって、シャイネスのサブタイプの1つである「高不安―積極群」に関しては、対人ストレスイベントの1つである、対人磨耗をより経験しやすくなっていると考えられる。また、シャイネスのもう1つのサブタイプである「高不安―消極群」に関しては、橋本(1997)より社会的スキル欠如が媒介となり、対人ストレスイベントの対人劣等もしくは対人葛藤をより経験しやすくなっていると考えられる。以上のことから、シャイネス・主張性スキル・対人ストレスイベントに関して次のような仮説を導くことができる。
仮説2
主張性スキルが低い程、より多くの対人ストレスイベントを経験する。
仮説3
高い不安を感じながらも人と積極的に関わろうとする「高不安―積極群」は、シャイネスの他のタイプと比べて、肯定的な主張性スキルが高いほど、対人磨耗をより頻繁に経験している。また、「高不安―消極群」は、シャイネスの他のタイプと比べて、主張性スキルの低さから対人劣等・対人葛藤をより頻繁に経験している。
以上の仮説の検討を踏まえ、シャイな人物のスキル欠如によってもたらされる対人的不適応の実態及び原因を明らかにするため、ストレスを生じさせる直接的な要因とされる対人ストレスイベントと主張性スキル及びシャイネスとの関連を明らかにしていくことを第2の目的とする。
方法へ
結果と考察へ
今後の課題へ