【結果】


1.各尺度の因子構造と信頼性分析

2.性別と愛着対象の違いによる愛着の各下位尺度の検討

3.性別による対人的構えの各下位尺度得点および充実感得点の検討

4.親への愛着、親以外の対象への愛着、対人的構え、充実感 〜4つの尺度の関連〜




1.各尺度の因子構造と信頼性分析

(1)親への愛着尺度の因子分析

 親への愛着尺度全26項目について、主因子法による因子分析を行った。因子数は佐藤(1993)に基づき3因子を指定し、バリマックス回転を施した。その結果、“安心・依存”、“不信・拒否”、“分離不安”の3因子が抽出された。

次に、父親と母親ごとにそれぞれの因子について.45以上の高い負荷量を示した項目得点を合計したものを、「父親(または母親)安心・依存得点」「父親(または母親)不信・拒否得点」「父親(または母親)分離不安得点」として、その後の分析を行った。

また、各下位尺度の内的整合性を確認するために、Cronbachのα係数を算出したところ、「安心・依存」はα=.785、「不信・拒否」はα=.740、「分離不安」はα=.731を示し、分析可能な内的整合性をもつものと考えられる。

(2)親以外の対象への愛着尺度の因子分析

親以外の対象への愛着尺度全26項目について、主因子法による因子分析を行った。因子数は佐藤(1993)に基づき3因子を指定し指定し、バリマックス回転を施した。その結果、“不信・拒否”、“依存”、“不安”の3因子が抽出された。

 次に、友人と恋人ごとにそれぞれの因子について.45以上の高い負荷量を示した項目得点を合計したものを、「友人(または恋人)不信・拒否得点」「友人(または恋人)依存得点」「友人(または恋人)不安得点」として、その後の分析を行った。

また、各下位尺度の内的整合性を確認するために、Cronbachのα係数を算出したところ、「不信・拒否」はα=.794、「依存」はα=.667、「不安」はα=.638を示し、分析可能な内的整合性をもつものと考えられる。

(3)対人的構え尺度の因子分析

対人的構え尺度全25項目について、主因子法による因子分析を行った。因子数は佐藤(1993)に基づき3因子を指定し、バリマックス回転を施した。その結果、“対人不安”、“親和性”、“孤立性”の3因子が抽出された。

 次に、それぞれの因子について.35以上の高い負荷量を示した項目得点を合計したものを、「対人不安得点」「親和性得点」「孤立性得点」として、その後の分析を行った。

また、各下位尺度の内的整合性を確認するために、Cronbachのα係数を算出したところ、「対人不安」はα=.843、「親和性」はα=.606、「孤立性」はα=.752を示し、分析可能な内的整合性をもつものと考えられる。


2.性別と愛着対象の違いによる愛着の各下位尺度の検討

 父親・母親・友人・恋人それぞれに対する愛着の良好さについて、性別の違いによる差を明らかにするため、親への愛着の3つの下位尺度である「安心・依存」「不信・拒否」「分離不安」および親以外の対象への愛着の下位尺度である「不信・拒否」「依存」「不安」をそれぞれ従属変数として、(2:男性・女性)×(2:父親・母親)および(2:男性・女性)×(2:友人・恋人)の2要因分散分析(混合計画)を行った。

(1)親への愛着について

 「安心・依存」では、対象の主効果(F (1,208) 5.42, p.05)、交互作用(F (1,208) 4.06, p.05)ともに有意であった。

「不信・拒否」では、交互作用(F (1,208) 7.71, p.01)が有意であった。

「分離不安」では、対象の主効果(F (1,208) 10.03, p.01)、が有意であった。

(2)親以外の対象への愛着について

「不信・拒否」では、対象の主効果(F (1,197) 4.33, p.05)が有意であった。

「依存」では、対象の主効果(F (1,197) 110.98, p.001)、が有意であり、また交互作用(F(1,197)=13.65,p.001)が有意であった。

「不安」では、性別の主効果(F (1,197) 9.73, p.001)、対象の主効果(F (1,197) 119.37, p.001)ともに有意であった。



3.性別による対人的構えの各下位尺度得点および充実感得点の検討

 対人的構え尺度から抽出された各下位尺度および充実感得点について、性別の違いによる差を明らかにするため、性別を独立変数、各下位尺度得点および充実感得点を従属変数としたt検定を行った。

(1)対人的構え

分析の結果、「孤立性」得点において、女性の平均得点の方が男性の平均得点よりも有意にやや高かった。「対人不安」得点、「親和性」得点においては有意な性差は認められなかった。

(2)充実感

分析の結果、「充実感」得点には有意な性差は認められなかった。



4.親への愛着、親以外の対象への愛着、対人的構え、充実感 〜4つの尺度の関連〜

 回想された親への愛着(過去の愛着)が親以外の対象への愛着(現在の愛着)にどの程度影響を与えているのかを明らかにするために、父親・母親ごとの「安心・依存」、「不信・拒否」と「分離不安」を説明変数、友人・恋人ごとの「不信・拒否」「依存」「不安」を予測変数とする重回帰分析を、また過去の愛着と現在の愛着が対人的構えにどの程度影響を与えているのかを明らかにするために、父親・母親ごとの「安心・依存」「不信・拒否」「分離不安」および友人・恋人ごとの「不信・拒否」「依存」「不安」を説明変数に、対人的構えの「対人不安」「親和性」「孤立性」を予測変数とする重回帰分析を、さらに過去と現在の愛着および対人的構えが充実感にどの程度影響を与えているのかを明らかにするために、父親・母親ごとの「安心・依存」「不信・拒否」「分離不安」および友人・恋人ごとの「不信・拒否」「依存」「不安」、対人的構えの「対人不安」「親和性」「孤立性」を説明変数に、「充実感」を予測変数とする重回帰分析の、階層的重回帰分析を行った。

なお、2要因の分散分析およびt検定においていくつかの下位尺度得点には性差があることが認められたため、以上の条件で男女別にも同様の検討を行った。

以下に分析で得られた結果を全体、男性、女性の順に述べ、結果のパス図を示す。

(1)全体

@過去の愛着と現在の愛着との関連

 「友人:依存」について、分析の結果、「母親:不信・拒否」と「母親:分離不安」ともに有意な正の関連がみられた。関連の強さは「母親:不信・拒否」の方が「母親:分離不安」よりも強かった。つまり、友人への「依存」に対して母親への「不信・拒否」がやや強く、「分離不安」が弱く影響していると考えられる。

 「友人:不信・拒否」について、分析の結果、「母親:安心・依存」のみ有意な正の関連がみられたが、標準偏回帰係数、重決定係数はやや低い値であった。つまり、友人への「不信・拒否」に対して母親への「安心・依存」が弱く影響していると考えられる。

 「友人:不安」について、分析の結果、「母親:不信・拒否」のみ有意な正の関連がみられた。つまり、友人への「不安」に対して母親への「不信・拒否」が強く影響していると考えられる。

 「恋人:依存」と「恋人:不信・拒否」について、分析の結果、ともにどの下位尺度とも有意な関連はみられなかった。

 「恋人:不安」について、分析の結果、「母親:不信・拒否」のみ有意な正の関連がみられた。標準偏回帰係数、重決定係数は、有意ではあるがやや低い値であった。つまり、恋人への「不安」に対して母親への「不信・拒否」が弱く影響していると考えられる。

A過去・現在の愛着と対人的構えとの関連

 「対人不安」について、分析の結果、「父親:分離不安」と「母親:安心・依存」、「母親:不信・拒否」、「友人:不信・拒否」、「恋人:不信・拒否」ともに有意な正の関連がみられた。関連の強さは「恋人:不信・拒否」が最も強かった。また、「母親:分離不安」のみ有意な負の関連がみられた。つまり、一般の他者に対する「対人不安」に対して父親への「分離不安」と友人と恋人への「不信・拒否」、母親への「分離不安」が強く影響し、母親への「安心・依存」および「不信・拒否」が弱く影響していると考えられる。

 「親和性」について、分析の結果、「友人:依存」と「恋人:不安」ともに有意な正の関連がみられたが、関連の強さは「恋人:不安」よりも「友人:依存」の方が強かった。また、「友人:不信・拒否」のみ有意な負の関連がみられた。つまり、一般の他者に対する「親和性」に対して友人への「依存」と「不信・拒否」が強く影響し、恋人への「不安」が弱く影響していると考えられる。

 「孤立性」について、分析の結果、「友人:不信・拒否」のみ有意な正の関連がみられた。また、「友人:不安」と「恋人:依存」ともに有意な負の関連がみられたが、関連の強さは「恋人:依存」の方が「友人:不安」よりも強かった。つまり、一般の他者に対する「孤立性」に対して友人への「不信・拒否」と恋人への「依存」が強く影響し、友人への「不安」が弱く影響していると考えられる。

B過去・現在の愛着、対人的構えと充実感との関連

 「充実感」について、分析の結果、「恋人:不安」と「対人不安」ともに有意な負の関連がみられたが、関連の強さは「恋人:不安」よりも「対人不安」の方が強かった。つまり、「充実感」に対して「対人不安」が強く影響し、恋人への「不安」が弱く影響していると

考えられる。

(2)男性

@過去の愛着と現在の愛着との関連

 重回帰分析の結果、「友人:依存」のみ、「父親:不信・拒否」から有意な正の関連がみられた。つまり、友人への「依存」に対して父親への「不信・拒否」が強く影響していると考えられる。

 他の下位尺度については、分析の結果、ともにどの下位尺度とも有意な関連はみられなかった。

A過去・現在の愛着と対人的構えとの関連

 「対人不安」について、分析の結果、「母親:不信・拒否」と「恋人:不信・拒否」ともに有意な正の関連がみられた。関連の強さは「恋人:不信・拒否」よりも「母親:不信・拒否」の方が強かった。つまり、一般の他者に対する「対人不安」に対して母親への「不信・拒否」と友人と恋人への「不信・拒否」が強く影響していると考えられる。

 「親和性」について、分析の結果、どの下位尺度とも有意な関連はみられなかった。

 「孤立性」について、分析の結果、「友人:不信・拒否」のみ有意な正の関連がみられたが重決定係数は低い値であった。つまり、一般の他者に対する「孤立性」に対して友人への「不信・拒否」が強く影響していると考えられる。

B過去・現在の愛着、対人的構えと充実感との関連

 「充実感」について、分析の結果、「恋人:不信・拒否」と「対人不安」ともに有意な負の関連がみられたが、関連の強さは「恋人:不信・拒否」よりも「対人不安」の方が強かった。つまり、「充実感」に対して「対人不安」が非常に強く影響し、恋人への「不安」がやや強く影響していると考えられる。


(3)女性

@過去の愛着と現在の愛着との関連

 重回帰分析の結果、男性と同様に「友人:依存」のみ、「母親:不信・拒否」から有意な正の関連がみられた。つまり、友人への「依存」に対して母親への「不信・拒否」が強く影響していると考えられる。

 他の下位尺度については、分析の結果、ともにどの下位尺度とも有意な関連はみられなかった。

A過去・現在の愛着と対人的構えとの関連

 「対人不安」について、分析の結果、「母親:安心・依存」と「友人:不信・拒否」、「恋人:不信・拒否」ともに有意な正の関連がみられた。関連の強さは「母親:安心・依存」よりも「友人:不信・拒否」と「恋人:不信・拒否」の方が強かった。つまり、一般の他者に対する「対人不安」に対して友人と恋人への「不信・拒否」が強く影響し、母親への「安心・依存」が弱く影響していると考えられる。

 「親和性」について、分析の結果、「友人:依存」と「恋人:不安」ともに有意な正の関連がみられた。また、「友人:不信・拒否」のみ有意な負の関連がみられた。関連の強さは「恋人:不安」よりも「友人:依存」の方が強く、「友人:依存」よりも「友人:不信・拒否」の方が強かった。つまり、一般の他者に対する「親和性」に対して友人への「不信・拒否」と「依存」、恋人への「不安」が強く影響していると考えられる。

 「孤立性」について、分析の結果、どの下位尺度とも有意な関連はみられなかった。

B過去・現在の愛着、対人的構えと充実感との関連

 「充実感」について、分析の結果、「恋人:依存」と「恋人:不信・拒否」、「対人不安」に有意な負の関連がみられたが、関連の強さは「対人不安」が最も強かった。つまり、「充実感」に対して「対人不安」が強く影響し、恋人への「依存」と「不信・拒否」がやや強く影響していると考えられる。