第2章
理論と実践を行き来する活動においては、子どものコミュニケーション能力の発達に対する効果のみならず、ボランタリーに関わっている学生自身の変化をも客観的に検討することが重要な研究の視点となる。例えば、子どもに教えるという体験を通じて変化することが予想される「教育者としての自己概念」に注目することは教員を志望する学生にとってどのような経験が重要なのかを客観的に知る手がかりを与えてくれることにつながると考えられる(廣岡ら,2005a)。 子どもと大学生との関わりにおける学生の変化については、主に教育実習や観察学習などが主な研究のフィールドとされてきた。(吉田・佐藤,1991;藤田,2004)その一方で、これらの実習以外の活動での学生の変化を検討した研究は少ない。 わくわくコミュニケーションクラブは、上述の教育実習や観察実習とは異なる以下の特色を持つ。 ・序章でも述べたように、この活動の最大の特徴は、心理学という理論的な背景を持ったプログラムの計画や実施を行っている点にある。特に、専門的に教育心理学を学んでいる学生が、「子どものコミュニケーション能力を高めたい」という意識を持って行っている学生企画型の活動であり、実践による効果や子どもの反応について心理学的に検討しようとする研究的な視点を持つことで、心理学やコミュニケーションについてのその学生自身の学習となっていることが予測される。 ・さらに、学生企画型の活動であることから、活動案の作成から実践、評価までの一連の活動を自分たちで考えているため、単に子どもを観察したり補助的に関わったりするよりも深く子どものことを観察しようとすると同時に、自分の行動についても深く考察する志向性が生まれることが考えられる。 ・また、学校教育とは異なる場面で、教師としてではなくボランティアスタッフとして関わっている点も特徴的である。学生がボランティアスタッフとして関わることは、教育実習のような教師見習いとして関わることに比べ、子どもが楽しい時や楽しくない時などに、率直な反応が返ってくるという点で、子どもとの関わり方や活動の内容など、考えるところも多いだろう。 ・さらに、3年間続いている実践ということもあり、同じ子どもと長期間関わる中でその変化や成長を間近で感じたり、活動スタッフの入れ替わりなどによるある種の葛藤を経験したりもしている(廣岡ら,2006a)。 このように、本活動には教育実習や観察実習とは異なる様々な特徴があり、学生に及ぼす影響は多大にあると考えられるが、このような活動における学生の変化に焦点を当てた研究はほとんどされてこなかった。 よって本章では、学生が心理学をベースとした教育実践活動の中で、子どもについて、または活動についてどのような視点を持って活動をしているのかを探り、学生がこの活動から学習することが時期によってどのように変遷していくのかを探索的に検討する。 また、本活動のようにメンバーの入れ替わりのある集団の変化に伴いどのようなコミュニケーションを繰り広げてきたのかにも焦点を当て、このような学生によるボランタリーな取り組みにおいて学生にとってどのような効果が期待できるのか、その可能性を検討する。 ★研究1では、わくわくコミュニケーションクラブで3年間活動を続けたスタッフによって書かれた活動の感想の変化を検討する。 ![]() ★研究2では、その他のスタッフに活動による自己の変化についてを自由記述で求めた。それぞれ、Moolde上に流された感想を分析することで、スタッフ集団の意識の変遷を探る。 ![]() |