佐野文香の卒論
考察
- 気分の種類という点から
男女ともに,活気についてのモデルにおいては,
事前の活気状態が想起される記憶の性質に影響を及ぼしているとは言えませんでした。
つまり,活気を上げただけでは記憶の質は向上しないということが示唆されます。
また,無気力についてのモデルにおいては,
想起された記憶の質が無気力状態を改善しているとは言えませんでした。
無気力状態を改善するに当たっては,自伝的記憶想起の効果は期待できないという事が示唆されます。
以上のように,自伝的記憶想起との関連は気分の種類によって違うということが示されました。
特に無気力状態を改善する方法については,何か他の方略を用いた方がよいということが示唆され,今後の研究に期待するということになりそうです。
- 性差という点から
男性においては,全体として事前のネガティブな気分は想起される記憶の詳細さに負の影響を与え,また,想起された記憶の詳細さは事後の気分状態を改善する方向へ作用していました。
つまり,男性は女性と比較し,記憶の“詳細さ”がキーワードとなることが示唆されます。
先行研究でも示されているように男性は女性に比べ詳細な記憶を想起しにくい傾向があります。
このことをふまえると,男性が自伝的記憶の想起を利用して気分調整を行うに当たっては自伝的記憶の詳細さを重視する必要があるといえるでしょう。
因みに他の先行研究において,抑うつ傾向が高い人は記憶の詳細さが阻害されやすく,逆に詳細な記憶を想起させる介入を行う事で症状が軽減したという結果も示されています。
男性と抑うつ傾向との関連を含めてさらなる検討が必要だと考えられます。
ただし,気分調整には自伝的記憶想起以外の方略も存在するということを念頭に置き,男性がいかなる方法でネガティブ気分を改善しているかに着目していくことも重要でしょう。
他方,女性においては全体として記憶の“ポジティブさ”がキーワードになることが示唆されます。
先行研究では,女性は男性より感情的な記憶の成績に優れ,感情コントロールについても優れていると示されています。
このような男女の違いは発達とともに増大することも示されており,女性が社会の中で生きていく上で,感情コントロールがより重要になるという事,さらにその場合にポジティブな記憶の想起が役立つという可能性が示唆されます。