佐野文香の卒論
考察
- 気分緩和動機とそのほかの変数との関連について
探索的なパス解析の結果,いくつかの気分において気分緩和動機と事前の気分の間に共分散が認められる結果となりました。
本研究で扱った気分緩和動機尺度は特性として捉えられていたため,その時の気分によって動機も変化するという今回の結果は解釈を困難にするものとなりました。
もしこの気分緩和動機を状態と捉えたとしても,先行研究では,人はネガティブな気分の時にポジティブな記憶を想起しようとする傾向がある,ということが示されていたことから,ネガティブな気分は気分緩和動機の高さへつながると仮定されるはずが,今回は逆の結果になりました。
つまり,ネガティブな気分は気分緩和動機の低さへとつながるという結果になります。
気分緩和動機とはそもそも何であるか,その定義を明らかにし,それが状態を示すものか特性を示すものかを明確にしてから再検討が望まれます。
また,女性においては気分緩和動機の高さがポジティブな記憶想起へつながっていたのに対し,男性は気分緩和動機の高さがネガティブな記憶想起へつながっていました。
こちらも解釈が難しいところですが,もしかすると,男性が自伝的記憶想起によって気分を改善するという点で女性に劣るという示唆へつながっていくのかもしれません。
いずれにせよ,気分緩和動機についてさらに細かな検討を行ってから再度研究を行う必要があると言えます。
- 本研究の結果から
気分の種類,性別に,想起する記憶の性質と気分調整の関連の仕方が異なるという結果をふまえ,自伝的記憶想起を応用した研究へいくつか示唆できることがあります。
一つは,回想法など自伝的記憶を想起することでQOLを高める,精神的健康を改善するといった目的の研究においては特に,“どのような自伝的記憶が必要になるのか”という点に着目していく必要性があるといえます。
対象とする人の特性にも注意を向けながらより包括的な研究がなされていくべきでしょう。
また,イメージ法を使用するにあたって,単にネガティブな記憶を想起するよう教示しただけでは,完全に気分誘導が行えないという可能性が示されました。
実験参加者をどのような気分にさせたいのかを明確にし,想起させる自伝的記憶の性質を考慮していく必要があると言えます。