最終的に本研究で明らかになったことを述べたい。
自己関連付け傾向を高める要因は、相手への信頼や相手からの信頼、
そして人とうまくやっていけるという自信よりも、
人から見られているという自意識のほうがより重要で
あることがわかった。
対人的自己効力感は自己関連付けを強める要因であると想定していたが、
それは公的自己意識が高いということが条件であった。公的自己意識が高い場合は、自己関連付け
について対人的自己効力感の高い群と低い群で差がみられた。しかし、公的自己意識が低い場合には、
自己関連付けについて対人的自己効力感の高い群と低い群に差が見られなかった。つまり、他者から
見られている自分を意識しない人にとって、自己関連付け傾向は対人的自己効力感の高低とはあまり
関係ないといえる。
「自己関連付け」には、公的自己意識の高さは欠かせなかった。公的自己意識が高いと
いうことが前提となり、それに様々な要因が重なり合いながら自己関連付けが発生していることが分か
った。
公的自己意識は、他者からの視線や評価を気にする傾向であり、
公的自己意識が高いと他者が自分に関心を持っているだろうと思い込みやすい。
そして、他者の行動は自分に向けられているものだと感じやすくなり、また他者から評価されることに
対する不安も高まり、そのような気持ちから「私は、どう思われているのだろう」と相手の考えている
ことを知りたい気持ちや、「私は、嫌われているのかもしれない」といった被害的な気持ちが強くなり
、自己関連付けが高まるといえる。
公的自己意識と自己関連付けの下位尺度との関連についてさらに考えてみた。
疎外感とは宮下・小林によると、「集団生活や社会生活の中で自分が他者から排除されている、
または他者との間に距離感・違和感・不信感を感じ、どうしても溶け込めない認知感情である。」
と言われている。ということは、本研究の結果から考えてみると、公的自己意識が高いこと、つ
まり相手の視線を気にするという感情には、不安感情などのネガティブ感情が伴っていることが多いと
考えられる。
また、Riggio(1987)は、社会的感受性に優れている人は、自意識が高く社会的に不安であり、
社会的相互作用への参加を嫌うようになる可能性があると指摘している。
つまり、因果関係ははっきりいえないが、公的自己意識が高いと社会的感受性が豊かであるともいえ
、感受性が豊かであるからこそ他者のささいな行動やしぐさに敏感に反応してしまうのだろう。
人にどのように見られているかということについての心配は、自己関連付けはもちろんのこと、
対人不安、自己呈示を初め、多くの対人的な現象と関連している。今後、公的自己意識の発達的要因に
焦点を当て検討することで、自己関連付けの発生時期について明らかになることも出てくるだろう。
高い自己関連付け傾向を持ち対人関係に悩んでいる人にとって、公的自己意識に焦点を当てた治療は有
効だろう。
次に、対人的自己効力感について考えたい。
仮説@「『対人的自己効力感』の低さと『自己関連付け』の高さは関連している
」は、規則的関連性は低いにしても示唆された。
実際にスキルが不足しているという事実よりも、主観的に自分のスキルが不足していると感じること
の方が、対人不安を引き起こす上ではるかに重要であるという、Leary(1983)の視点から見てみると、
対人的自己効力感は自分がどのくらい他人とうまくやっていけるかという自信の自己評価でもあるか
ら、自分で自己効力感がひくいと感じているということは、対人場面において他者に望ましい印象を
与えることができず、そのような対人場面では肯定的に評価されないと結論付け、不安になって
「もしかして嫌われているのではないか」と自己関連付けしてしまいやすくなるということにつなが
っていると考えられる。
さらに、対人的自己効力感の下位尺度について考えてみる。
「友人への信頼」は自らが友人を信頼したり、仲間と協力したり、何かを分か
ち合うことに対して肯定的に捉えているかどうか
という因子である一方、「友人からの信頼」は逆に、友人から自分自身が必要とされ、信頼されてい
るかどうかの期待や自信を示す因子である。本研究では、「友人からの信頼」因子の方は自己関連付
けとの関連は見られなかった。つまり、信頼感という視点からみてみると自分が相手から信頼されて
いるかどうかというよりも、自分が相手を信頼しているかということのほうが自己関連付けにより
重要であることが明らかになった。
著者は、質問紙調査の形で友人との対人場面における自己関連付け傾向を調べたわけだが、
友人といってもさまざまな関係がある。友人の親密度によっても、自己関連付けの程度が違う可能性
が考えられる。
今回は対人的自己効力感と自己関連付け傾向の関連を検討したが、このように自己関連付け傾向を
強めている要因について研究が行われれば、自己関連付け傾向の低減のために臨床的な場面で応用
されることも期待される。
自己関連付けをさらに深く検討していくためには、より多くの観点が必要であると感じた。
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