1、方 法
(1)調査対象
 2003年10月の下旬に、中国上海市の重点中学校1校の2年生5クラス241名、普通中学校1校の2年生5クラス246名を対象とした。調査は無記名質問紙方式で施行された。記入漏れや、記入ミスのあったものを除き、有効回答者339名(重点中学校の男子65名、女子84名で、普通中学校の男子80名、女子110名:有効回答率69.6%)を分析の対象とした。
 なお、中国では新学期は9月なので、今回の調査対象は1年生から2年生に進学したばかりの子どもたちであった。
 
(2)調査材料
予備調査で得られた4尺度計85項目を使用された。
 
 2、結果
(1)、因子構造分析
各尺度の因子構造の検証するために、予備調査と同じ手法を用いて、まず、主因子分析による固有値1.0以上の基準をもとに因子数を仮定し、仮定された因子数に基づいて、再度、主因子法、バリマックス回転による因子分析を行った。
 
 @学校ストレッサー尺度の因子分析の結果、「教師との関係因子」、「学業因子」、「友人関係因子」、「家族因子」という4因子が抽出された。以上4因子24項目(説明率は全分散の37.92%)の信頼性を検討したところ、α係数=0.80となっている。
Aストレス反応尺度の因子分析では、、「抑うつ因子」、「無気力因子」、「不機嫌因子」「不確定感因子」が抽出された。以上の4因子17項目(説明率は全分散の43.21%)のα係数を算出したところ、α=0.88で、高い信頼性が確認された。
 Bコーピング尺度の因子分析では「積極的対処法因子」、「回避的対処法因子」、「認知的対処法」の3因子計20項目が抽出された。3因子の寄与率%=35.786 α係数=.766であった。
 Cソーシャル・サポート尺度は予備調査で得た13項目を1因子として使われた。
 
(2)ストレス反応と各因子の相関係数について
ストレス反応と学校ストレッサー、コーピング、およびソーシャル・サポートとの関連性を究明するために、ストレス反応尺度を従属変数として、各因子との相関係数を調べた。その結果、@ストレス反応と学校ストレサーの各因子の相関係数は有意であることが分かった。ストレス反応と学校ストレッサーでは正の相関が示された。Aストレス反応とコーピングの各因子との相関係数では、「積極的対処法」は負の相関が示されたが、僅かばかりなので、相関が無いと見なすことが出来ると考えられる。「回避的対処法」と「認知的対処法」は有意で、正の相関を示している。Bストレス反応とソーシャル・サポートでは、有意な負の相関が確認された。つまりソーシャル・サポートをたくさん得られた子どもたちは、ストレス反応が低くなる傾向にあることが示唆された。
 
(3)各尺度の学校差と性差に
まず、学校ストレッサー認知度、コーピングの仕方、ソーシャル・サポート有無、及びストレス反応の度合いでは、学校の差があるかないか、性差があるかないかを明らかにするために、校別と性別を要因として、2要因分散分析を行った。
1)学校ストレッサー尺度:
学校ストレッサー尺度の4因子では、学校差、性差、およびその交互作用の有意性がなかった。重点校が普通校よりは勉強が大変で、学業ストレッサーをもっと強く感じるだろうという仮説@は立証できなかった。その故、重点校であろうか、普通校であろうか、子どもに注ぐストレッサーはそれほど変わらないということが言えるだろう。
 
2)ストレス反応尺度:
ストレス反応尺度では、性差で主効果が見られたのが「抑うつ因子」と「自信喪失因子」だった。「抑うつ因子」(F[1,335 ]=4.619,*p<0.05);「自信喪失因子」(F[1,335 ]=11.408, **p<0.01)、何れも男子よりも女子の得点が有意に高かった。それらの結果から、女子は“抑うつ不安”、“自信喪失”において、ストレス反応の表出が高い傾向にあることが明らかにされた。なお、「自信喪失因子」では交互作用(F[1,335 ]=3.299, p<0.10)の有意傾向が見られた。「不機嫌因子」では、学校差の有意傾向と交互作用の有意傾向があった。普通学校の得点が重点学校に比べて高いことが示された。それらの結果から「重点校のほうがストレス反応も高いと考えられるだろう」という仮説Aが覆された
3)コーピング尺度:
コーピング尺度の「回避的対処法」因子では、学校差、性差、および交互作用とも有意ではなかった。「積極的対処法」と「認知的対処法」両因子において、性差について有意な主効果が認められ、前者は(F[1,335]=8.538,**p<0.01),後者は(F[1,335]=5.334,*p<0.05),いずれも女子が男子より高得点であった。それ故,仮説B「ストレスを除去するために女子は男子よりコーピングを多く利用するだろう」が立証された。
「積極的対処法」因子では、普通学校が重点学校より得点が高く、学校差の有意傾向(F[1,335]=3.536,p<0.10)が認められた。これは前項の結果に裏づくこととなった。ストレス反応に応じてコーピングする度合いが変化することが本研究で明らかとなった。
 
4)ソーシャル・サポート尺度
 1因子としてのソーシャル・サポート尺度では性差の主効果が見られた。その上、学校の差も認められた。性差では、男子より女子のほうが著しく高得点であり、その有意差(F[1,335]=31.213,***p<0.001)が確認された。学校の差では普通学校の得点が重点学校より高く、有意差(F[1,335]=6.370,*p<0.05)が認められた。
 その結果から、男子よりは女子のほうが上手にサポートを得られていることが分かった。それは、仮説D「女子は男子に比べて、より多くのサポートが受けられているのではないか」を支持することとなった。そして、普通学校の子どもたちが重点学校に比べて、サポートをたくさん得られていることが分かった。それで、「重点校は普通校よりサポートがたくさん得られているのではないか」という仮説Cが覆された。
 
(4)4群について
 最近のストレスの調査研究では、ストレス反応を規定する要因として、ストレッサーだけでなく、個人の特性やコーピング(Lazarus&Folkman,1984)、およびソーシャル・サポート(Cohen & Wills,1985)といった媒介変数の重要性が指摘された。学校ストレス過程を明らかにするためには、もちろんそれらの変数を考慮に入れることが重要であろう(岡安ら 1992)。それは、ストレッサーから、ストレス反応に至る心理ストレス過程は決して直線的ではないことが示唆されている。前項の研究結果もそれに裏付ける結果となった。
 本研究はコーピング、およびソーシャル・サポートがストレス反応への影響を究明するために、学校ストレッサーの平均得点によって、高群と低群に分けた。そして、高群をストレス反応の平均得点によって、さらにストレス高群と低群に分けた。同じく、学校ストレッサーの低群もストレス反応の平均得点によって、高群と低群に分けられた。それで、高*高群、高*低群、低*高群、低*低群という4つの群が仕分けられた。
 仕分けられた4群を2要因分散分析したところ、コーピングでは、ストレッサー群、および交互作用に有意性がなかったものの、ストレス反応群の主効果の有意性(F[1,335]=4.334,*p<0.05)が確認された。学校ストレッサー高群、低群に係わらず、ストレス反応の高群はストレス反応の低群より得点が高かった。これは、「ストレス反応に応じてコーピングする度合いが変化する」という前述された結果と一致したこととなった。
 サポートでは、交互作用には有意性が認められなかったが、学校ストレッサーの2群に有意性(F[1,335]=5.203,*p<0.05)とストレス反応2群に有意性(F[1,335]=6.448,*p<0.05)が確認された。ストレス反応の高、低にかかわらず、ストレッサー低群はストレッサー高群に比べ、得点が高く、また、ストレス反応低群はストレス反応高群より、得点が高かった。ストレス反応高群に比べ、ストレス反応低群のほうはサポートがより多く得られていることが分かった。
 さらに、コーピングでは、4群を1要因分散分析したところ、4群(4グループ)の間の差に有意性(F[3,335]=4.209,**p<0.01)が確認された。また、その後の検定で、コーピングを従属変数にして、4群の多重比較が行われた。その結果、高*高群と低*低群の間の差に有意性が認められた。高*高群のほうが、低*低群よりコーピングを多くしていることが分かった。
 ソーシャル・サポートでは、同じく4群を1要因として分散分析をした。その結果、4群(4グループ)の間に有意な差(F[3,335]=7.842,***p<0.001)が示された。それを多重比較したところ、高*高群は、すべての群との間に有意な差があったが、ほかの3群の間には有意な差がなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
2004/3/31



 
 



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