現代日本では、各分野の心理的ストレスに関する研究が盛んになされているが、母国の中国では、心理的ストレスに関してはまだまだ未開拓の領域だといっても過言ではないだろう。本研究は中国の子どもたちの学校ストレスを対象に取り上げることにした。高学歴を目指す中国の子どもたちの学校ストレスを問題にするには、まず問題の社会的背景を直視しなければならない。
1、社会背景(その1):「一人っ子」政策*
周知のように、中国は世界で一番人口の多い国である。巨大な人口負担を抱えた中国は経済の発展を図るには身が重過ぎる。そこで、1978年に中国政府は「一人っ子」政策を全面的に打ち出した。
中国の家庭、特に都市部の家庭では、「一人っ子」がほとんどである。子どもが生まれた時点から祖父母4人と両親2人の愛を1身に受け、小皇帝のように大事に保護され、不自由のないような、気ままな生活を送っている。それで、“小皇帝”とよばれている子どもたちは、さらに「心理的耐性の低い世代」とか、「自己主義の一族」と言われている。
2、社会背景(その2):重点校の誕生**
中国では1966年に、これ以後、十年も続いた文化大革命が起きた。“四人組”が倒されてからの1977年5月24日に、ケ小平主席が“・・・・・・教育事業は2本の足で歩くように、教育の普及に重みを置きながらも、質を高めるのにも注意する。重点小学校、重点中学校、重点大学を設けることによって、厳しい試験を経た最も優れた人を重点中学校と重点大学に集中させる。”という指示を出した。1981年の末まで、全国には重点小学校が5271校あり、全小学校の0.6%を占め、重点中学校が4016校あり、全中学校の3.8%を占めた。
このような狭い扉を潜り抜けるためには、子どもたちは過酷な進学競争を生き抜くこととなる。
3、社会背景(その3):高度成長期***
ケ小平主席が1992年に談話を発表してから、中国の改革開放がさらに進んで、高度成長期に突入した。中国の大中都市では、外資会社や、合弁会社が多く現れた。中国人の収入の差が開いていく一方である。よい学歴=よい仕事=よい報酬=よい生活という方程式が出来上がった。それに従って、よい大学に入るには、まず重点高校に、重点高校に入るにはまず重点中学校に、重点中学校に入るにはまず重点小学校にというような逆の方程式も出来上がった。1995年、上海市中小学生学業負担現状調査の結果によれば、74%の保護者は自分の子どもが大学を卒業してほしいそうだ。その高い期待値は、3%〜5%の生徒しか大学に進学することができない現実との差があまりにも大きすぎる。また、子どもの多い家庭では、親が子どもに対する期待も多様化できるのに対して、“一人っ子”の家庭では、親が子どもに対する期待は社会風潮に影響され、高学歴に集中する傾向が見られた。
日本の学校ストレスに関する研究は、大体80年代になってからのことである。それらの先行研究を参考にして、中国のいまの学校ストレス現状というベースラインを把握し、いま、日本のような学校ストレスが原因で起した諸問題を未然に防ぐのも本研究の目的の1つである。本研究のもう1つの目的は、ラザルスのストレス理論に基づき、ストレッサーからストレス反応までのプロセスを探求することである。
4、仮説:
@重点校は普通校より学業、家族ストレッサーに対する評価が高いだろう。
A仮説@から、重点校のほうがストレス反応も高いと考えられる。
Bストレス反応を除去するために、女子は男子よりコーピングを多く利用するだろう。
C重点校は普通校よりサポートをたくさん得られているのではないか。
D女子が男子と比べて、より多くのサポートを得られているのではないか。
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