総合考察
本研究で得られた結果から、以下の点が判明された。
1、重点校と普通校との厳密な差がなくなった。
仮説@が立証できなかったこと、仮説A、仮説Cが覆されたことについて考えられる原因として、上海市の中学校には、すでに重点校と普通校の厳密な差がなくなっていることであろう。今回、筆者が本調査を依頼した普通校の2年生の生徒はIQテストを受けて入学したこと、また、予備調査を依頼した普通校も重点クラスが2クラス設けられていることを調査後に聞いた。このように、上海市の普通校は重点校に移行しつつあり、すでに純粋な普通校が激減していると言える。今回の調査結果はそれを裏付ける形となった。
2、予備調査と本調査の因子構造の差から、上海市子どもたちの学校ストレスの状況がかなり深刻であることが確認された。
ストレス反応尺度が予備調査と本調査では同じ項目なのに、抽出された因子結果の相違が大きかった。今までの先行研究には、そのような相違に関する先例がなかった。考えられる原因としては、予備調査に答えてもらった子供たちは、すでに、学年期末試験が終わった子供たちで、つまり、すぐ3年生になる子供たちであった。この1年間の学校生活による精神的な消耗で、気力が残らず、「不機嫌、怒り」よりも、「身体的反応」にストレス反応が出てしまったのだと考えられる。逆に、本調査に回答してもらった子供たちは、まだ進学したばかりなので、ストレス反応の表れとしては、「不機嫌、怒り」となったのだと推測できる。
中国の子供たちの心理的ストレスが、1年間の間に、深刻になっていくことは、因子構造の分析で明らかになった。中国の教育関係者たちは、この結果を真剣に受け止め、改善していかなければ、今日本の学校で起きている「登校拒否」や、および「学級崩壊」などの問題が、近いうちに中国でも発生するだろう。
3、性差のについて
ストレス反応の「抑うつ」、「自信喪失」といった因子では、女子のほうが高得点であった。
コーピングの「積極的対処法」、および「認知的対処法」では、同じく、女子のほうが男子より高得点であった。コーピングで出された結果は、ストレス反応で出された結果の裏づけとなったと考えられる。不安、自信がないから、「自信回復できるようなことをする」なり、「自分で自分を励ます」なり、「自分自身の何かを変えよう努力する」など、女子たちは「積極的対処法」を多くされていると考えられる。一方、「過ぎ去ったことをくよくよ考えないようにする」とか、「たいした問題ではないと考える」のような前向き的な認知仕方を用いて対処したり、「なるようになれと思う」、「どうしようもないので諦める」のような無為的な認知仕方を用いて対処したりすることで、ストレッサーから身を守ろうとすることも考えられる。本研究で得た結果は、Lazarus & Folkman(1984)の「自分の力でコントロールすることが可能なストレス状況においては、問題に立ち向かい、積極的に解決するようなコーピングが有効であると考えられるが、コントロールすることが不可能な状況においては、問題自体に直接取り組むのではなく、むしろ、気分転換するなどのコーピングがストレスの低減に効果的である」と指摘された対処方略を支持する結果となった。
ソーシャル・サポートでは、前項と同様で、女子が男子に比べて高い得点を示した。それは、ソーシャル・サポートは対人関係が前提となっているため,サポートが得られるかどうかは,他者との関係を上手に形成し,発展させていく個人の能力によって影響されると考えられる。女子は対人関係を築く点では、相対的に男子よりスキルが高い傾向にあるではないかと考えられる。
4、ラザルスのストレス理論に基づき、ストレッサーからストレス反応までのプロセスがある程度に究明された。
つまり、ストレス反応はコーピングの様式とサポートの有無によって規制されることとなる。さらに、コーピング、およびサポートが、ストレス反応を低減するだけでなく、ある程度ストレッサー評価にも影響を与える。