結果


【結果】
 
 
1.感動体験の種類
 
(1)内容について
 
語られた感動体験について、KJ法で著者が分類を試みた。分類については、速水・陳(1993)の研究や速水ら(1996)の研究を参考にした。分類した結果、出会い体験・達成体験・気づき 驚き体験・承認 感謝体験・間接体験・その他の、6種類に分類された。なお、「感動体験はない(思いつかない)」といって、感動体験を話さず、雑談のみをした4名は、ここでは除外する。
 
@ 出会い体験(11)
もっとも多くあった体験は、すばらしいと感じるような教師や看護士との出会いの体験である。そのような人物との出会いによって、自分もその人物のようになろうと思うケースが多かった。「幼いころに入院していた病院の看護士さんが、ご飯をたべやすいようにボール状にしてくれた」「不良少女だったが、中学時代の先生のおかげで更生した」など。
伊田(2005)の教師志望動機測定尺度に関する研究では、教職志望動機としてもっとも出現率の高かったものとして、「恩師志向」をあげている。
A 達成体験(10)
2番目に多かったのが、達成した体験である。その中でも多かったのが、協同体験で、
グループやクラスで一丸となって取り組み、達成した体験がより印象に残っているようであった。「総合学習の時間に、グループで戦争について調べた」「中学校時代の合唱」「学際」など。このグループは、速水・陳(1993)の「成功・承認体験」「協同の喜び」に該当するような内容であった。
また、「授業で実際に小学校に行って授業をして、成功した」などといった、看護実習・実地研究など、現場にいく授業での苦労→達成という流れも特徴的に見られた。これらの体験では、「自分の力不足に気がついた」など、負の要素も多く語られていたのが特徴であった。
 
B 気づき・驚き体験(5)
これは、普段目にしないようなことや、本人にとって意外性のある、今までの常識を覆すような体験のことである。例えば、「暗いものだと思っていたがんの告知が、すごくさらっと、前向きにされていた」「骨折した脚が、固定するだけで治った」「新しい生命の誕生を目撃した」などがある。
C 承認・感謝体験(3)
誰かから感謝されたり、認められた体験である。「実習先で、患者さんにありがとうと
いってもらえた」などがある。
D その他(2)
どこにも分類できなかったもの。「ずっとひとりで悩んでいたことに気がついてくれて
いた」「先生からの励ましの言葉」のふたつである。
E 疑似体験(8)
自分が実際に行動したものではなく、人から聞いた話や、メディアから得た話などの体
験である。人から聞いた話はおばや友人自分から近しい人から聞いた話が2つ、講義や講演会などが2つ、そしてテレビ・ビデオが4つである。話した人本人や、テレビなどの主人公の体験を追体験しているようであった。涙をながした、流しそうだった、という語りが多かったのはこの体験である。
 
 
 
(2)時期について
 
時期は、大学など現在15・高校6・中学校12・小学校3・それ以前2であった。
 速水・陳(1993)の研究では、大学生の動機づけを高めるような感動体験の時期は比較的現代に近いものが多いとされていたが、今回は2極化する結果となった。(Table1)
この結果は、バンプ現象と似ている。バンプ現象とは、特に50歳以上の老人に顕著に見られる現象である。思い出した体験を時期別に見たとき、だんだん現在に近いことを多く思い出すが、ちょうど10代後半から20代のところだけ山(バンプbump;隆起)ができるような曲線になっている現象のことである。本研究においても、同様の結果となった。
 出会い体験は、中学校をピークにどの時期でも見られるが、他の体験は大学など現在に近いものが多い。
 
 
 
 
 
(3)意味づけについて
 
体験について、個人のなかで意味深いものであるかどうかについて、@その体験を思い出すことがあるかどうかAその体験が自分に影響しているかどうか のふたつの質問の答えから分類した。@について「思い出すことがある」と答えており、かつAについて自らに影響していると明確に返答したものを、意味づけされた体験であるとした。結果、意味深い体験であるといえるものが22ケースであった。
 
 
 
(4)感動体験から受けた影響
 
感動体験から受けた影響をたずねたところ、その体験以来変化した、という返答が多くみられた。たとえば、それらの体験から、「教師(や看護士)を目指した」というものから、「ものごとを、ほんとに正しいのか一歩引いて考えるようになった」「もっと勉強しようと思うようになった」などである。他には、「友達といままで以上に仲良くなれた」「集中力がついた」など。
 
 
 
(5)その他
 
そのほか、体験を思い出すかどうかについて、「きっかけがあれば思い出す」「今はじめて思い出した」「よく思い出す」など、さまざまな返答あった。これらの返答は、意味づけの深さの分類に使用している。
会話のなかで、「いまはじめて思い出した」と返答しているにもかかわらず、最後の質問紙では「2.比較的印象深い体験だ」と答えていたものが印象的であった。
 
 
 
 
 
 
 
2.t検定
 
インタビュー前後で、気分や動機づけの変化があるかを調べるため、雑談をした4つを除いたものについて、因子ごとに対応のあるt検定を行った。(N=39)
 
 
(1)気分について
気分状態については、ポジティブ気分が有意に上昇し(t(38)=-3.90,p<0.000)、ネガティブ気分が有意に下降した(t(38)= 5.22,p<0.000 )。インタビュー前後では、気分がより非覚醒・不快から覚醒・快の状態に移行したと思われる。
(2)職業に対するイメージをしたときの気分について
ある職業をイメージしたときの気分については、ポジティブ気分が有意に上昇し(t(38)= -4.13,p<0.000)、ネガティブ気分が有意に下降した(t(38)= 5.59,p<0.000)。インタビュー前後では、より職業へのイメージ気分がポジティブになっている。
 
(3)動機づけについて
動機づけについては、効力予期・結果予期・興味価値・利用価値・私的獲得価値・社会的環境・身体的要因について、上昇が見られた(効力t(38)= -4.46 ,p<0.000、
結果t(38)= -3.42 ,p<0.002、
興味t(38)= -7.14 ,p<0.000、
利用t(38)= -2.34 ,p<0.025、
私的 t(38)= -2.85 ,p<0.007
環境 t(38)= -4.99 ,p<0.000
身体 t(38)= -2.24 ,p<0.031)。また、公的獲得価値については、有意傾向の下降が見られた(公的 t(38)= 1.88 ,p<0.068)。
 
 
 
 
 
 
 
3.共分散分析
 
どのような部分において差があるかをみるため、さまざまなテーマによりグループわけをし、共分散分析を行った。なお、ここの分析では、感動体験はないと答え、雑談をしたものは除いた。
 
 
(1)感動体験の分類による共分散分析
数の少ない感謝承認体験・その他・雑談をのぞいた、出会い体験(N=11)・達成体験(N=10)・気づき驚き体験(N=5)・疑似体験(N=8)の4グループを独立変数、プレの得点を共変量、ポストの得点を従属変数とし、共分散分析を行った。
 
分析の結果、私的獲得価値においてのみ、有意な主効果が得られた。
F(3,29)=3.501,p<0.028
1.出会い体験と2.達成体験の間、2.達成体験と3.気づき驚き体験の間で有意に差が見られた。達成体験よりも、出会い体験や気づき驚き体験のほうが、私的獲得価値により上昇がみられた。有意ではないが、6.疑似体験よりも、達成体験では上昇が少ない。
 
 
 
(2)意味づけの深さ別による共分散分析
体験に対する意味づけの深さにより、意味づけのよりある群と、意味づけのあまりない群にわけ、2グループで共分散分析を行った。
あり群(N=22)なし群(N=17)
 分析の結果、結果予期と私的獲得価値において、有意な差が見られた。
結果予期では、意味づけのある群よりも、ない群のほうが、上昇が大きかった。
F(1,36)=5.312,p<.027
私的獲得価値では、意味づけのない群よりも、ある群のほうが、上昇が大きかった。
F(1,36)=7.287,p<.011
 
 
 
(3)職業への志望度別による共分散分析
職業への志望度について、1.すごくなりたい職業だ2.なりたいと思う職業だ、と答えたものを志望度高群、それ以外を低群とし、2群間で共分散分析を行った。
高群(N=28)低群(N=11)であった。
 分析の結果、職業をイメージしたときの気分・ネガティブにおいて、有意な差が見られた。
志望度が低いよりも高いほうが、職業へのネガティブなイメージはより減少した。
F(1,36)=9.879,p<0.003
 
 
(4)会話時間別による共分散分析
 感動体験について、話していた時間を、5分以内・5分〜10分・10分以上に分類し、共分散分析を行った。
5分以内(N=8)5分〜10分(N=19)10分以上(N=10)であった。
 この分析では、有意な差は見られなかった。
 



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