方法


1.調査対象
教育学部の専門科目で学習心理学に関する授業を受講している学生13名(男性4名、女性9名)。2年生4名、4年生3名、留学生2名であった。
 
2.調査実施期間
2005年10月中旬から11月中旬に実施した。
 
3.調査を実施した授業の概要
授業はまず課題が設定され、その課題を受講者が共同(グループ)で解決していくというPBL(Problem-Based Learning)で進められた。
 この授業ではe-learningシステムであるMoodleが利用され、授業時以外にも課題解決が進められた。Moodleとは授業用の電子掲示板のことである。グループごとに掲示板が用意され、各自が調べたことをMoodleにアップし、グループの他者と知識の共有を行ったり、お互いに質問を投げかけ、議論することが行われた。またプレゼンテーション用のファイルを作成する際にも、ファイルを共有し、共同で作業が行われた。
 教科書に関しては指導者が指定し、参考書に関してはリストを配布した(付録参照)。
 
4.課題
指導者から課題が提示され、課題解決が進められた。
 
5.スケジュール
 授業は以下のスケジュールで進められた。
第1回授業(10月23日)
@ グループ分け
グループ分けは、この授業の最後(研究終了後)に指導案を作成することを考慮し、取得予定の教員免許の教科にもとづき行われた。免許を取得予定でない学生については、本人の希望を尋ね決定した。その結果、Aグループ6人、Bグループ7人に分かれた。
A 課題提示
課題は紙に印刷され、指導者から受講者に 配布された。
B インストラクション
指導者から、共通と個別に分けて次回までの学習項目を決定すること、調べるときには複数の資料を用いることなどの諸注意が行われた。
C ディスカッション
 グループでの話し合いが行われ、学習項目の分担が決定した。話し合いの時間は約50分間であった。
D 終了の合図とインストラクション
指導者が終了の合図をし、話し合いが終了した。学習項目をMoodleにアップすることや、その期限などの説明がなされた。
E 質問紙Uへの回答
受講者は質問紙Uへの回答を行った。質問紙は実験者が配布・回収した。
 
第2回授業(10月30日)
@ 質問紙Tへの回答
受講者は質問紙Tへの回答を行った。質問 紙は実験者が配布・回収した。
A インストラクション
指導者から今回の予定等についての説明が なされた。
B 追加資料1
追加資料1は紙に印刷され、指導者から受講者に配布された。内容に関して、指導者から補足説明がなされた。
C ディスカッション
グループでの話し合いが行われた。話し合 いの時間は約45分間であった。
D 現状報告
 それぞれのグループの進み具合等の報告を 行った。
E 追加資料2
追加資料2は紙に印刷され、指導者から受講者に配布された。
F ディスカッション
グループでの話し合いが行われ、学習項目の分担が決定した。話し合いの時間は約15分間であった。
G 実験
熟達者と初心者のスキーマの違いを理解させるために、「海」という楽曲の楽譜の一部を用いて指導者が実験を行った。その際、元通りの楽譜と、音符をでたらめに入れ替えた楽譜を用いた。
H 質問紙Uへの回答
受講者は質問紙への回答を行った。質問紙は実験者が配布・回収した。
 
第3回授業(11月13日)
@ 質問紙Tへの回答
受講者は質問紙Tへの回答を行った。質問 紙は実験者が配布・回収した。
A インストラクション
指導者から今回の予定等についての説明が なされた。
B 解説
指導者からこれまでに議論になっている事 柄に関しての解説が行われた。
C ディスカッション
グループでの話し合いが行われた。話し合いの時間は約20分間であった。
D 追加資料3
追加資料3は紙に印刷され、指導者から受 講者に配布された。
E ディスカッション
グループでの話し合いが行われた。話し合 いの時間は約10分間であった。 
F 現状報告
それぞれのグループの進み具合等の報告を 行った。
G 質問紙Uへの回答
受講者は質問紙Uへの回答を行った。質問 紙は実験者が配布・回収した。
 
第4回授業(11月20日)
@ 質問紙Tへの回答
受講者は質問紙Tへの回答を行った。質問 紙は実験者が配布・回収した。
A インストラクション
指導者から今回の予定等についての説明が なされた。
B ディスカッション
最終確認としてグループでの話し合いが行 われた。話し合いの時間は約10分間であっ た。
C 発表
パワーポイントを用いて発表が行われた。発表者はこの日から1番誕生日が近い人がそれぞれのグループから1人、選ばれた。発表の時間は20分間であった。
D 解説
指導者から課題に関しての解説が行われ  た。
E 質問紙Uへの回答
受講者は質問紙Uへの回答を行った。質問 紙は実験者が配布・回収した。
 
6.追加資料
 追加資料1・2は第2回授業時に、追加資料3は第3回授業時に配布された。
 第2回授業時に指導者が楽譜を実験に用いた。
 
7.手続き
 各週において、授業開始後すぐに質問紙Tを、授業終了直前に質問紙Uを実施した(1週目は質問紙Uのみを実施)。質問紙の配布・回収はすべて実験者が行った。質問紙への回答は各被験者のペースで行われ、所要時間は質問紙Tが3〜5分、質問紙Uが8〜12分であった。
 ディスカッション中の被験者間の相互作用は、ICレコーダー(SANYO ICR-B80RM)とビデオカメラに記録された。
 被験者はディスカッション中にはグループで机を寄せ合い着席していたが、質問紙を実施する際には、黒板を前にして並んで着席し回答した。
 
8.質問紙の構成
●質問紙T
質問紙Tは、フローに関する項目、反応性に関する項目と自由記述によって構成されている。この質問紙は前回の授業の終了後から質問紙に回答するまでの1週間、もしくは2週間について尋ねるものである。
 
(1)フローに関する尺度
授業と授業の間の1週間、もしくは2週間における活動への集中の度合いを測定するために、中西・村松・松岡(2006)を参考に「活動に集中していた」、「活動に積極的に取り組んでいた」、「挑戦していると感じられるような活動に取り組みその活動を十分にやり遂げられたと感じた」という計3項目を抽出して用いた。
 評定は、各項目について「全くなかった」〜「非常によくあった」の10段階であった。
 
(2)反応性に関する尺度
 授業と授業の間の1週間、もしくは2週間におけるグループの他者とのかかわりの頻度を測定するために、実験者が独自に「グループの他の人に対して、アドバイスをした」、「グループの他の人を励ました」、「グループの他の人に対してコメントをした」、「グループの他の人の書き込みに反応した」という計4項目を作成した。
評定は、各項目について「全くなかった」〜「非常によくあった」の10段階であった。
 
(3)自由記述
「特に気になったことがあればご記入ください」という問いに回答を求めた。
 
●質問紙U
 質問紙Uは、動機づけに関する項目と自由記述によって構成されている。この質問紙はディスカッション終了時、もしくは発表の終了時の状態について尋ねるものである。
 
(1)動機づけに関する尺度
中西・伊田(2006)によって作成された総合的動機づけ尺度から、利用価値(「この先さらに高度なことを学んでいくために、今、学んでいることは重要だ」、「今、学んでいることは、将来仕事の役に立つと思う」、「今、学んでいることは将来のためになる」、「今、学んでいることは、実際の生活に生かせると思う」)、興味価値(「今、学んでいることを考えると、わくわくする」、「今、学んでいることを考えると楽しい気分になる」、「今、学んでいることは面白い」、「今、学んでいることには興味がわく」)、効力予期(「こういう風にしようと思ったら、その通りに学習できると思う」、「自分の意志で計画通りに学習することが出来ると思う」、「学習しようと思っても手がつけられない(逆転項目)」、「最後まで学習をやり遂げることができると思う」)に関する12項目を抽出して用いた。
 中西・村松・松岡(2006)を参考に、接近的他者志向動機(「グループの他の人に好かれるように一生懸命やっていると思う」、「グループの他の人の役に立てるようにがんばっていると思う」、「グループ全体のためにがんばっていると思う」、「グループに励ましてくれる人がいると感じている」)と親和動機(「グループ全体で仲良くなるよう努力していると思う」、「グループの他のメンバーと仲良くなろうとしていると思う」、「グループの他の人に好かれようと努力していると思う」、「他の人に嫌われないようにしていると思う」、「みんなに好かれるように、がんばっていると思う」)に関する9項目を抽出して用いた。
 評定は、各項目について「全然当てはまらない」〜「非常に当てはまる」の7段階であった。
 
(2)自由記述
「今回の活動の中で特に感じたことを書いてください」という問いに回答を求めた。
 
※最終回(4週目)のみ質問項目を変更し、以下の問いに回答を求めた。
グループでの話し合いや調べ活動において、どのようなことに気をつけていましたか?
 
テーマ提出から発表までの活動の中で、難しいと感じたこと・うまくいかないと感じたことはありましたか?それはどのようなことに対してですか?
 
今回の活動の中でやる気がなくなったときや高まったときはありましたか?それは、どんなことでやる気がなくなったり、高まったりしましたか?
 
今回の授業に対してどのような印象を持ちましたか?また、授業を通じてその印象に変化はありましたか?どのように変わりましたか?
 
この先の活動をうまくやっていくには、どうすればいいと思いますか?その理由とともに書いてください。
 
9.インタビュー
 4週目の発表が終了してから約1ヵ月後に、実験者が被験者にインタビューを行った。インタビューは各項目が変化した原因等を本人に直接尋ねることを目的とし行われた。
インタビューは実験者と被験者の1対1で行った。その際、質問紙の結果をグラフにしたものを被験者に見せながら進められた。会話はICレコーダー(SANYO ICR-B80RM)に記録された。
 
面接の中では以下の質問に回答を求めた。
・今期に受講している授業の総数
・この授業のように準備が必要な授業を受講しているかどうか
・教員免許を取得予定かどうか(取得予定の場合、教員の志望度も尋ねた)
・PBLは初めてかどうか
・どのような方法で調べていたか
・どのくらいの頻度でMoodleをチェックしていたか
・各項目の変化に対して思い当たることがあるかどうか(グラフを見ながら)
・課題に対してどのように感じていたか
・グループに対してどのように感じていたか
・その他に印象に残っていること



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